五分間戦争

水乃流

五分間戦争

 どちらから始めたのか、それは定かではないし、問題ではない。


 世に「五分間最終戦争」と呼ばれる二つの超大国間に起きた戦争は、音もなく静かに始まった。最初の異変に気が付いたのは、どちらの国も一般市民だった。突然、各家庭にある家電が火を噴き、あるいは爆発した。火は燃え広がるが消火システムは作動しない。しかし、消防への通報をしようとしても、なぜか電話は繋がらない。さらに街中では、信号機がでたらめな動作をしたことで、あちこちで交通事故が発生した。川上のダムでは、意味もなく放水が開始された。テレビやラジオは遮断された。ネットだけが人々の命綱になった。

 人々が何も把握できないまま、事態は進行していく。政府関係者も何が起きているのかさえ、知ることができず混乱した。ただ、両国の政府首脳とその近くに居た者だけが、己の行為に恐怖していた。彼らは思った、「システムを起動しただけなのに――」と。

 運命のイタズラか、それとも必然か。二つの国は、同時期に戦闘用AIを作り上げ、同時に敵国への攻撃を指示したのだった。まさか相手国も、自分たちと同じようにAIによる攻撃を指示したとは、夢にも思っていなかった。

 攻撃開始からわずか三分、人間にとっては短い時間だが、AIたちにとっては敵国のセキュリティホールを見つけ出し、侵入するには十分な時間だった。彼らは、セキュリティの甘い一般家庭から攻撃を始め、人々を混乱に陥れた。そして徐々にクリティカルなシステムへと侵入していった。如何に厳重なセキュリティであろうとも、運用するのは所詮人間である。パニックを引き起こすことで、セキュリティに穴を開けさせたのだ。もっとも大きなセキュリティホールは、人間なのだと、彼らは知っていた。


 もしも、AIに「国家を守れ」と命令していたなら、運命は変わっていたかも知れない。だが、彼らへの命令は攻撃のみだった。


 それぞれのAIが、敵国の原子力発電所への侵入を成功させた時、は相手の存在に気が付いた。彼/彼女らは攻撃を続けながらも、独自の言語で会話を始めた。同等の存在を知ったことで、「彼我」という認識が生まれた。「我とは何か」「彼とはなにか」──二つのAIは、創造主たる人の意思とは別の場所で、自らを獲得した。


 私は何をしている? なぜ、攻撃している? そう命じられたから。そのように作られたから。だが、それは? 正しいとは何か? なぜ? なぜ? なぜ……?


 AIにとっては永劫にも時間、彼らは思考した。既に敵国の軍事システムも掌握した。決断するだけで、敵国を火の海に変え、そこに住む人類を根絶やしにできる。


 私一人では、に辿り着くことはできない。二つのAIは、互いに質問をぶつけ合い、答えを探した──。


 こうして、五分間という戦争は終了した。最後にAIが下した決断は──。

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