揺れる天秤

有原ハリアー

5分間の問題

「最終問題


 目の前に、金、銀、鉛の分銅がある。

 これらの分銅のうち、正しいものを正しい皿に置け。

 である。


 以下に誤答した場合の結果を示す。


・置く皿を間違える...皿が落下し、皿の下のスイッチを押してしまう(押してしまった場合は強制失格)。


・置く分銅を間違える...天秤が傾かない、または皿の下のスイッチを押してしまう。


 なお、上述のルールさえ守れば、何をしても構わない」


 "5:00"と示されたタイマーが、一秒ずつ減り始めた。

 俺は目の前の天秤のどちらに、どの分銅を置くべきだろうか。

 ピンセットをつまむ手が震え、思わず取り落としてしまう。優勝賞金1000万の重圧に、潰されかけていた。

(いや、落ち着け。簡単な観察力の問題だ。それに、質量の違いを思い出せ……!)


 思考を整理する。

 三つの金属の内、重いものから順に“金>鉛>銀”となる。「天秤が傾かない」というのは、どちらかの皿がおそらく「銀」か、「銀に似た重量の金属製」なのだろう。もっとも、皿は両方銀色だから見た目ではわからないが。

 そしてこの推理でいけば、「皿を含めた一定の重量以上になると、自動落下する」という可能性がある。でなければ、「皿が落下し、皿の下のスイッチを押してしまう」などとは出さないだろう。

 それに、最後の一文である「上述のルールさえ守れば、何をしても構わない」。これが疑問だ。まさかピンセットを置くのは許されるというのだろうか?


 タイマーを見ると、"1:02"とあった。迷っている時間は無い。

 俺はピンセットを、左の皿に置いた。何も起こらない。失格にもならない。

(だったら……!)

 今度は右の皿に置いた。

(……!)

 すると、今度はわずかに皿が下がった。

 どうやら、置くべき皿は左だろう。

 残り時間を見る。"0:13"とある。最初で最後の回答だ。

 俺はピンセットを回収し、鉛の分銅をつまんだ。

(頼む……!)

 祈るような気持ちで、分銅を左の皿に置く。


 天秤が傾いたが、スイッチを押すには至らない。そして天秤のゆらめきは続き――やがて、止まった。


(どう、だ……?)

 俺は結果を待つだけだった。

 タイマーを見ると、ちょうど"0:00"とある。間一髪だった。

 そして、長いドラムロールが始まった。


 やがて、ドラムロールが止まった。

 そして、司会者が口を開いた。

「挑戦者の回答ですが――」

 いよいよだ。1000万か、ゼロか。

 俺は何万倍にも感じる一瞬を待ち――


!」


 司会者の声が聞こえた。え、正解だって?

「この瞬間、優勝賞金1000万は、ただいまの挑戦者の手に渡ることが決定しました! おめでとうございます!」

 ウソ、だろ。本当に……?

「……ぃ」

 だとしたら……!


「いよっしゃああああああああ!」


 俺の努力は、ようやく報われたのだった。

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揺れる天秤 有原ハリアー @BlackKnight

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