第4話 サークルスタート!

「⋯⋯冊子にするのよね?」


「⋯⋯同人誌だからな」


「なら、コピーしても意味無くない?」


「⋯⋯そうだな。」


「爺! 今すぐ印刷所を建設!」


「お嬢、もう出来ております」


「⋯⋯え?」


流石にそれは予想外だったようだ。


「本、ちゃんと作ってます」


 ドヤ顔である。


「⋯⋯いくらしたの?」


「工場ですか? 工場は1000万くらいですが・・・」


「違う。1冊の値段は?」


「全く見ておりませんでしたので⋯⋯」


「一番いいやつにしたのよね?」


「もちろんでございます」


 やだ、この家。さっきの1000万といい今の話といい⋯⋯ありえないでしょ⋯⋯


「あ、そうだ。爺、彼に例のものを。」


「かしこまりました」


 渡されたのはアタッシュケースだった。


「⋯⋯これは?」


「今までの報酬よ」


「は? こんなにか?」


「そうよ。悪い?」


「こっちが申し訳なくなってくるな⋯⋯」


「いらないの?」


「売れるまでは受け取らない」


「⋯⋯そう」


 そして彼女は、アタッシュケースを爺に預けた。


「後日、増やして渡しなさい」


「かしこまりました」


「それじゃあ、もうひと仕事やってもらうわよ!」


「⋯⋯鬼だな」


「ん? なんか言った?」


「⋯⋯なんでもない」


 計3人。でこぼこ中高生同人誌サークルのスタートであった。


 基本的には学生証で招集されて、絵を描き直すの繰り返し。ただし、エロいやつ。


 それのモデルはあの悪魔だ。彼女にはもちろん反対されたが、柊木が賛成してしまったのでどうしようもない。


 ────寿命がどんどん縮まる。


 ある日、手紙には「完成したので来てください」とだけ書かれた手紙があった。


「⋯⋯珍しいな」


 今までは詳しく長く書いていた手紙は最初のように一文だけで終わっていたのだ。


「⋯⋯何かあったのかな?」


 急いで彼女の家に向かった。


「あ⋯⋯」


「あなたも来たんですか」


「そりゃ、こんな手紙をもらっちゃあな」


「やっぱり、貴方も気付きましたか⋯⋯」


「あぁ」


「柊木様は昔から病弱でした。」


「⋯⋯昔話はいいから」


その話を聞かれていたようだ。


「佐倉田様⋯⋯なぜ⋯⋯」


「手紙を見ました」


 そう。手紙が全てをものがたっていた。恐らく、自分を誘った時も再発していたのだろう。


 そして今もまた────


「やっぱり、お話しておくべきですかね」


「どうぞ」と招かれ話された話とは────


 お嬢は小さい頃から耳が聞こえません。


 貴方たちの会話は全て見て意味を理解しておりました。


 しかし、言葉を理解出来なくなることがあるそうなのです。


 それは精神的な疾患なので出来るだけストレスを与えないようにしなければならないのですが、お嬢は学生の身。多少はどうしても受けてしまうのです。


 昔程ではありませんが、今も時々再発します。


 恐らくは持って半年です。


 だから最後の夢であった、「本を作りたい」は絶対に叶えなければならないと私たちは考えています。


 彼は深々と頭を下げ、


「お願いします! お嬢の最後の願いを叶えてはくれませんか!」


「⋯⋯もちろんですよ」


「⋯⋯ですよね。むり⋯⋯」


「いや、やりますよ。最後の願い、叶えましょうよ!」


「私もやるわよ!」


 まるで漫画のようであったが、俺たちにはそんなことよりも本を完成させるという思いの方が強かった。


 その1週間後、印刷出来た本を確認した。


「⋯⋯出来てるわね」


「⋯⋯あぁ」


 そこに柊木は居なかったが、寝室で読んでいたそうだ。彼女が文句を言わないということは大丈夫だろう。


 販売会当日。


 柊木は爺に支えられながらも来た。本当に最後の灯火のような⋯⋯意地で心臓を動かしているような、本当なら来ては行けない状態なのに⋯⋯


「⋯⋯大丈夫か?」


「えぇ。大丈夫」


「倒れるなよ?」


「冗談でもやめてくださいよ」


「ツッコめるなら大丈夫だな」


「私を見くびらないでください」


 結果は惨敗だった。最初の販売会だったのもあるだろうが、内容が内容だ。手に取る人はいても買う人は居なかった。


「⋯⋯惨敗ですね」


「だな」


「でも、楽しかった。次も参加したいですね」


 彼女は泣きながら笑ってその言葉を言った。


「あぁ。次も参加しよう。次は完売を目指してな」


「はい」


 販売会が終わって3日後、彼女は旅立った。


「佐倉田くんかな?」


「⋯⋯はい。」


「結朱希の夢を叶えてくれてありがとう」


「いいえ。まだ叶えてません」


「え?」


「彼女⋯⋯いや、柊木結朱希の最後の願いは冬の販売会に参加することです」


「⋯⋯それは許可できないな」


「え⋯⋯」


 想定外だった。


「私も一緒に参加していいなら許可する。結朱希と同じ景色を見てみたい。いいかな?」


「もちろんです」


「あとは、彼女の最後の小説。これを載せてはくれないか」


「え?新しい小説⋯⋯?」


 手渡されたのは100ページに及ぶ俺たちの想像図だった。つまり、彼女の夢だ。


「⋯⋯こんなのを作ってたのか」


 自然に涙が溢れてきた。その涙を照らす光は再び昇ってくる。


「いいかな?」


「⋯⋯もちろんです」


 そして冬の販売会に向けて結朱希の父を含むサークルは再スタートの幕を切る。


 彼女の思いや願いを胸に────

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同人誌、作りませんか? 囲会多マッキー @makky20030217

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