実は階段の先に

植月石川

第1話 夏の始まり

 私は、昼間の内に勉強し、そして夜は異世界へ行くのだ。



 私こと陽子は、どこにでも居る普通な高校生。流行の音楽をBGMにのんびりと予習復習を繰り返す。

 今日も学校が終わると、同級生の孫一まごいちの部屋へ直行する普通の学生だ。

 この部屋の主である孫一は、ゲームに飽きたのか本を読み出した。

 彼とは腐れ縁である。お互いの両親の仲がいいからだろう、いつの間にか隣に居いて家族のような存在なのだ。


 そんな普通な1毎日の中で、あの日の光景は今でも忘れない。

「おい、天井部屋でいいもの見つけたから来いよ!」と熱気が溢れるような満面の笑み誘われたので、いつも通りにただ確認作業をで終わるはずだった。

 彼は、熱しやすく冷めやすい性格。ゆえに張り切っている時に否定するとしつこいのである。

 天井部屋へは、孫一の部屋から階段で上っていく。

 小さい頃は上り下りだけでも楽しかった記憶がある。何故楽しかったのか分からないがそれが子供だ。

 天井部屋には、この家が出来た時に壁や梁・天井に私たちが描いた落書きがそのまま残されていた。

 その一角に不思議な穴が出来ていた。子供1人分くらいの穴である。

 孫一の「どうだ!!」という言葉以外からもにじみ出てくるワクワク感に、私も感染してしまったのだろう。

 無意識に二人で穴へ入って行ったのだった。

 その先が見たことも無い石畳の部屋であったことは、今思い出してもワクワクする。

 後日、向こうの魔道士さんに聞いてみると、たまたま落書きがいくつかのシンボルと合致したのだろうと言われた。



 穴は向こうの世界に通じているが、いつも通じているわけではない。

 だからこうして、放課後は孫一の部屋で待機しているのだ。(正確には彼の弟との相部屋なのだが、弟の孫次まごつぐはあまり異世界や穴に関心が無いらしい)

 穴の向こうはガズ国と呼ばれる国だった。もちろん剣と魔法の国である。

 だけど、私たちが魔法を使える事は出来なかった。

 やはり根本的に体の作りが違うのだろう。

 だから魔法を設計する勉強を始めた。

 穴を構成するシンボルを特定し、落書きから正式に安定した穴にする事が大事だと思ったからだった。

 羽ペンとインクで、いかにも西洋魔術という形から入ろうとした孫一に2人であきれたりした事もあったが、魔石を動力とした簡易魔法の改良や、異世界ならではのモンスター討伐など異世界生活を満喫しつつ、穴の魔法設計図を完成させた。

 最初の頃は、昼は日本、夜はガズ国という生活を送っていたが、設計図が完成した今はある程度時間と場所を決めて世界間を移動することが出来るようになった。

 その後は、なんやかんやでガズ国では魔法設計士という肩書きで諸国漫遊をしている。



 もうそろそろ穴が通じる時間だろう、デイパックに飲みかけのペットボトルを入れ魔道書を確認しながら孫一に声をかける。

 今年の夏も異世界日和だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実は階段の先に 植月石川 @uetuki-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る