先つ祖へ返る者 参
ようやっと立ち上がった
蜘蛛の形をした巨大な
その時、それは
この白銀世界の
常より身に着けている時代がかった
突如、日和と紅緒を横合いからの衝撃が襲う。
急に腰の辺りを
「あ、あこん殿」
軽い
「すまん」
直後に、日和の腹を支えていた腕が耐えかねたように離され、すぐさま訪れた着地の衝撃に「うぐっ」というくぐもった悲鳴を上げた後、二、三度転がって新雪の雪だまりに突っ込んで埋まった。そこから少し離れた、
「蜘蛛がお嫌いなのに戻ってきてくださったのか。有難い」
喜色を隠そうともしないその声が、それはもう大いに気に
「貴様、もっと早く
「の、のろま」
「
「ぼんくら」
心も体も疲れ果てたところに紅緒への苛立ちと自己嫌悪と自暴自棄が重なった鴉近は、まるで悪態しか
「よう言うてくださった。容姿以外をそのように大っぴらに
「はああぁぁあ……! そうじゃない……」
大輪の牡丹の如き艶やかな微笑に向かって、溜め息とも悲鳴ともつかない声をあげて鴉近は力無く
「おい、烏。俺を
軽やかな紅緒の手とは違う感触が、鴉近の右の肩を掴んだ。わずかに首を
「紅緒、お前、まさかあの虫けらに手を焼いて俺を呼んだのではないだろうな」
駄目か、と後ろ頭を
「あの虫を
「い……はい」
鴉近は喉まで出かかった「いいからあの
「大体、暇なときに茶飲み相手として
ほんの少し、
「出し惜しみなどではない、加減に自信が無かっただけよ。まぁ、巳珂がおれば大丈夫だろうし、せっかく鴉近殿がここまで距離をとってくださったのだ。遠慮なく詠もうぞ」
雪を使うか、と続いた言葉を鴉近が理解する前に、巳珂が日和を地面に放り出した。仕方がない、という表情をその蛇顔に浮かべた
『……ひ きよきめをうがつもの ひ しろきのどをくびるもの ひ しなやかなうでをたおるもの』
低く穏やかな声で
『ひ いつ あしをぬいつけ ひ いつ からだをひしぎ ひ いつ こころをくだき されどもこえのあつきに とかされる』
一抱えある大きさから、馬ほどの大きさへ、さらに大きくなっていく透明感のある塊。あれは雪を水に変えて再び凍らせた氷塊だ、と鴉近が認識する頃には空いっぱいに膨れ上がったそれは、まるで
巳珂が「
『あがたまを けずりとる それ けずりとる』
一種異様な光景とは裏腹に、
「聞いたぞ。山に穴をあけたらしいな」
結論として、大蜘蛛は紅緒に
「
半眼でにやにやするこのうたよみを嫌いになりそうなので、鴉近は紅緒と
「……といった
「そうか、氷塊だったか」
宇賀地は
「紅緒、魂魄はどれくらい削った」
「普段を一つまみとすれば、
「それはさておき、うたよみ殿。あの蜘蛛は死んだように寝ていると
常よりやや低い紅緒の声で、鴉近は我に返った。日和も恨みがましい視線を宇賀地に送っている。彼は気絶までしたのだから仕方がない。対して熊によく似たうたよみは、後ろ頭を掻きながら悪びれもせずに笑う。
「言ったか、そんなこと」
「言いました……っ」
「お、鴉近、怒ってるな。まぁ、今年は偶然冬眠しなかったのかもなぁ。それに偶然にもあの蜘蛛はいい加減退治するように
やたらと偶然が多い念を押すような宇賀地の言に、紅緒が片眉を上げて頷いた。
「
今思えば、いつもは二人で組んで行動しているのに、表向きは簡単な仕事にもかかわらず今日に限って三人も
「おっと、何のことを言っているのか俺にはさっぱり分からない。が、いくら我々うたよみが別件で
肩を
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