第三章
先つ祖へ返る者 壱
そこへ突如、空気を激しく震わす
「ぜ、全ッ然、話がっ、違う! 二人とも、いる!?」
あまりの
「ははっ、
無邪気な幼子のように笑う
「このままでは……っ」
追いつかれるという言葉を吐き出す白い息ごと
そう、三人が追われているのは、
事の始まりは、なんということのないお
「毎年、
なに、出るだけで人を
「酒の運び出しは、別の日にうたよみが
紅緒が
鴉近は、日和とともに外歩きに備えて身支度をしている紅緒を
「高鞍殿、もう出ないと戻りが遅くなりますよ。あれ、今日はいつもより眉間の
彼は虫が大嫌いなのだ。
「もうすぐみたい。山頂が近く見える。ねぇ、ちょっと休もう」
縦一列になって前を行く者の足跡を踏んで歩いていたので、日和が止まれば後ろの二人も止まる。二番目を歩いていた紅緒はにっこり笑って、後ろの鴉近に「休憩です」と伝えると、すぐそばにあった
「お二人とも、ここに座りましょう」
「いやぁ、そんなに雪深いわけではないけれど、やっぱり歩きづらいね」
紅緒とともに倒木に腰掛けながら、日和は気休め程度に
紅緒は、汗ばんだ額に張り付いた前髪を払い、熱を逃がすために
「あれ、高鞍殿は座りませんか」
人好きのする笑顔で、日和が自分の隣を示してくるが、鴉近は
「なんで?」
「は?」
「いや、何で? 座った方が休めるのでは」
やけに食い下がってくる日和に、鴉近は
「俺は、疲れておりません」
「そうなんだ! じゃあ、次から高鞍殿が先頭を歩いて雪を踏んでくださいね」
さも自然な流れとでも言いたげな笑顔で役割の交代を告げる日和と、眉間に
「日和殿にはずっと先を歩いてもらっていましたから、火を
枝の小山が出来たところでそう言いながら、ちら、と鴉近を見る紅緒。日和は礼を述べながらも、困ったというふうに
「この
「言い出しっぺがこう言うのは心苦しいですが、私が詠めばこの辺一帯、焼け野原になりかねませぬ」
そうだねぇ、と互いに顔を見合わせた紅緒と日和は、何度も横目でわざとらしく鴉近を盗み見る。そして見られた数だけ
『……
鴉近が謌を詠むにつれて、何かが
『やがて身を焼き心を焦がし 暗き
やがてふわふわと白い煙があがり始めたかと思うと、突如大きな赤い炎が鈍い破裂音をあげて立ち上がった。じろじろと
「鴉近殿、どこへ?」
「先に道を作っておく」
いっそ
「近頃、鴉近殿がお優しい気がします」
純粋に嬉しそうなその声音に、日和は理解できないという表情を浮かべてこたえる。
「どこをもってそう感じたのか是非教えて欲しいな」
「前ほど私を
枝が燃えていく暖かな音を聞きながら、紅緒はにこにこと
「気になるひとは困らせてみたくなるものでしょう」
「ははぁ、それはわからないでもない。紅緒とは気が合うなぁ」
気になる
日和が独り言のように呟く。
「綺麗な目もあまりしなくなったしね」
その言葉を
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