白いひと 陸
比較的低い身分の家の出でありながら、まだ若い
わかっている。実家で祀る
「これ、
「いやいや、お前のせいで俺は今日、あちこち走り回らされたのだ。ただでさえ久々に森から出た身だというのに、不本意にも、突然、たくさん、しかも急ぎで走り回らされたのだよ」
少しくらい転がっていてもいいじゃないか、と
謌寮の一室では、
「宇賀地様、
紅緒を除いて、唯一蠱物の存在感に呑まれていない
「
それを聞いて場の空気が
「で、だ。人の頭の形をした例の
そこで
「宇賀地様、まず私の落ち度で
謌生一同がぎょっとした表情で、
「そんな、しろちゃん、いや司琅殿」
慌てた紅緒が素早く腰を浮かせたので、
「お待ちくだされ。一緒に任にあたっていた私にも
「黙っとけ、新人。探知してたのは俺様だろ」
無言で側頭部を
「まぁまぁ。二人とも感心な態度ではあるけどな、今言ったとおり主上はご無事だし、俺たちも死んじゃいない。あまり気にするな。ただ今後、あの蠱物についての
早速だがいくつか答えてくれ、という宇賀地の申し出に、ほんの少し苦い表情を残す司琅が頷き、紅緒が腰を落ち着かせる。
宇賀地は、
「
「玉?」
眉間にしわを寄せる宇賀地に、やや自信無さ気な司琅がこめかみに手をやりながら記憶を探る。
「先ほども申しましたとおり、我々が回収した
紅緒はわずかに目を
「それはこれか」
唐突に、
「確かに、そのような大きさの……それをどこで?」
司琅の驚きを含んだ声に、蠱物はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「さっきの
言うが否や、無造作に宇賀地に
「それは、通常の呪物には用いないもののようですが、何でしょうか」
「わからん」
「とりあえず何なのか調べる。この件については、
「あー……紅緒の、その、
どこから説明するべきか、しばし考えあぐねる。ただただ興味津々な
「お前たち、
「鴉近、お前ちょっと察しが良すぎるぞ、落ち着け。謌を詠んでも、お前が死ぬだけだろう」
一瞬で殺気立った
「
玄梅は首をかしげる。そのような話は初耳であった。ちらりと大叢兄弟を見ると、彼らも戸惑いの色を浮かべている。紅緒は無表情で宇賀地を見ているだけで、何を考えているのかさっぱりわからない。
「
次第に宇賀地の口調がいつもの講義じみてきた。しかし、彼らしくもなく
「いいか、今から話すことは、本当に一部の人間しか知らされていない話だ。
嫌だ、聞きたくない。その場の大体の人間がそう思った。そのように前置きされるような事柄は無駄に
「
聞いたことのない昔語りを口にする宇賀地は、まるで見知らぬ人間のようだ。
彼の話によると、皇族以外の人間は、目に見えぬものを姿も知らぬまま、その存在を確かめる術を持たぬまま、信じ崇めていたことになる。そこに確実に存在しているモノを
「あるときから、
そこからは、
「あの……それと、紅緒の
遠慮がちに日和が
「わかる、わかるよ、うたよみ。さぞ言いにくかろうね、本人を前にしては」
不意に
「よかろう、自己紹介くらい自分でしようじゃないか。俺はね、かつて
最初からそれを自分で言ってほしかった。白目を
「ところで、そこのうたよみは何故俺が何者か気付いてしまったのかな?」
不満げな半眼で紅緒を眺める宇賀地は、不意に問いかけられて、びく、と肩を揺らす。
「はい、紅緒が詠んだ謌の内容に
ふむ、と元神祖は
「ぬかったわ。まさか分かる者がいるとは。さてはお前、優秀だね」
白い顔でにっこりと笑いかけられて、ぞっとした。どっちだ、褒めているのか、殺そうとしているのか、どっちだ。ま、こうなっては
「えっ……と、それでは、その、何とお呼びすれば。我々は謌の中のどれが
再び日和が小さく挙手した。あいつ結構度胸がある、と宇賀地は彼を再評価した。
「そうだね、たくさん名があるから」
そう呟いて
「
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