Case4 勇者さんの呪いの為なら

「・・・せ、せんせい・・・」

「・・・」


先生は、何も言わない。


「・・・ど、どう、して・・・?」


まだ、何も言わない。いや、本当は何か、言っているのかもしれないけれど、何も、聞こえない。


「がふっ・・・」


私は口から血を吐く。そして、胸に開いた穴に手を添える。手を見ると、そこにはべったりと血が付いていた。


「・・・ねぇ、先生にとって、私、は・・・」


もう、喋るのも、立っているのも、限界だった。私はどうしようもできず、ばたりと前に倒れた。先生に、胸を貫かれて。


遡ること、30分前。


最初に気付いたのは、インターホンではなく、扉の向こうで何か物音がしたからだった。私は気になって外を出て確かめてみると・・・。


「うわぁ!?ちょ、大丈夫ですか!?」

「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」


そこには血まみれで、右腕が何者かに切断されている男性が一人倒れていました。


「先生ぇ!!」


私は考えている暇もなく、すぐに診療所の中に招き入れます。


「・・・こいつはひどいな・・・」


数々の患者を診てきたであろう先生も、深刻な表情を浮かべています。その時点で、いかに今、彼が危ない状況にあるかが分かりました。


「先生、彼って・・・」

「こいつは、勇者だ」


腰に剣を刺しているところから、剣士か勇者かとは思いましたけど・・・。


「傷口から魔王の痕跡を感じる。恐らく、討伐に行ったところを返り討ちにされたのだろうな」


・・・何で魔王の痕跡とやらがすぐに分かるかは分かりませんが・・・。今はそんなこと言っている場合ではないですね。


「大丈夫なんですか・・・?」

「とりあえず血を止めて応急処置をする。フリル、手伝え」

「はい!」


私は不器用ながら、一生懸命先生の手伝いをしました。先生はひたむきに勇者の手当をします。いつもこんな感じだったら格好いい先生なんですけどね・・・。


「・・・どうですか、先生!」

「・・・処置は済んだが、まずいな・・・」


一応の手当はすべて終わりましたが、勇者さんの容体が一向に良くなりません。


「魔王からの呪いを受けてる・・・。このままじゃ、死ぬな・・・」

「そ、そんな・・・」


勇者さんは私たちのために、命がけで魔王討伐に取り組んでくださっているのに・・・。死んじゃうなんて、あんまりです・・・!


「どうにかならないんですか!?」

「・・・仕方ない、フリル、動くな」

「え・・・?」


先生は、右手の人差し指と中指をぴんと伸ばして私の方へ向けます。


魂の執刀ソウル・メス


「・・・え・・・?」


何が起きたのか、さっぱり分かりませんでした。突如、先生の指から光線のようなものが射出され、私の心臓をにべもなく貫いたのです。もはや、痛みも感じないほどに一瞬で。


「・・・なん、で・・・?」


つーと私の口からは血が垂れ、私の意識はすぐに朦朧としてきました。そう、私は、助手を辞める前に、先生に殺されたのです─。


--------------


「何でこうなるんですかぁぁぁぁぁああああああ!!!」


場所は変わって、地獄。


「何ですか、今までのプロローグ!!死んじゃったんですけど、私!急に殺されちゃったんですけどぉ!!」


今はつかつかと、何にもない所を歩いていました。


「おかしいですよぉ!先生、S通り越してますってぇ!!」


あー、もう、こんなだったらさっさと辞めておけばよかったですぅ・・・。まさか殺されるなんて思わないじゃないですかぁ・・・。もっと有ったのにぃ!生きててやりたいことまだまだ有ったのにぃ!!大体、私、これからを生きる若者ですよ!?こんなに早く死んじゃうなんてぇ・・・。


「あーもう!!こうなったら絶対に化けて出て、先生を呪ってやるぅ!!」

「そうなったら、アタシはすぐにお前を除霊するがな」

「え!?」


い、今のどこまでも余裕って感じのふてぶてしい声は・・・。


「先生ぇ!!」

「よぉ、フリル、元気か?」

「元気なわけないですからぁ!!」


私は一人叫ぶ。どうやら先生はまたテレパシーで頭に直接話しているみたいですけど・・・。地獄まで通信可能ってどんな範囲ですか・・・。


「何、殺してくれてんですかぁ!私、何かしました!?」

「いや、何も?」

「じゃあ何で・・・」

「お前の仕事は今からだよ、フリル」

「へ・・・?」


今からが、私の仕事・・・?


「状況を説明するから、黙って聞いとけ。まず、お前がいるそこは地獄じゃない。今、勇者は生と死の狭間を彷徨ってる。お前をそこに飛ばした。少し、先を歩いてみろ、倒れている人間がいるはずだ」

「あ・・・」


言われるがまま歩を進めると、確かにそこには一人、全身が真っ黒で倒れている、

人のシルエットをしたものが倒れていた。


「見つけたか?」

「は、はい・・・。真っ黒の、多分人間が・・・。あ、でも、真っ黒の中に、赤い珠みたいなものが見えます」

「よし、それが裏の世界の勇者だ。勇者の呪いを解く方法は、こっち側、つまりは表の勇者と、そっち側、裏側の勇者の、赤珠を破壊することだ」

「破壊って、どうやって・・・」

「案ずるな。お前をそっちに送るとき、いっしょにアタシの力も少し分けておいた。今のお前には、魂の執刀ソウル・メスが使える」


私は思わず自分の手を見ます。私に、あの魔法が・・・。


「いいか、もう時間がない。手術オペを始める。呪いを解くには、赤珠を同時に破壊することが必須だ。失敗したら勇者は死ぬ」

「な・・・」


し、死ぬ・・・!?失敗したら・・・。


「そ、そんな・・・。もし失敗したら、私のせいで勇者さんは・・・」


私のせい・・・私のせいで・・・。


「おい、勝手にテンパるな。いくら焦ったって、もうお前がやるしかないんだ」

「で、でも、私、やったことないですし・・・」

「じゃあ、もし失敗したらアタシがお前を殺す。だから死ぬ気でやれ」

「もう死んでますから!!先生に殺されてますから!!」

「より殺してやる」

「怖すぎます!!」


無茶苦茶ですよ、相変わらず・・・。仕方ない、怖がってても何もなりませんもんね・・・。不思議と、緊張は少しほぐれました。


「行くぞ、フリル」

「・・・ふぅ・・・。分かりました」


私は覚悟を決めて、技を構えます。


「「3,2,1・・・」」


「「魂の執刀ソウル・メス!!」」


------------


「ん、おかえり」

「・・・」

「手術は成功だ、勇者の呪いは解けた。まだ数日は絶対安静だが、死ぬ危険性はない」

「・・・」

「・・・?どうした、そんなむすーっとした顔をして」

「いや、そりゃそうでしょ!!」


私は無事に現世に帰ってきました。先生が魂を口寄せして、体の傷を修復して、とかなんとか超高等魔法を使って。


「一言くらい謝ってくださいよ!仮にも私を殺しているんですから!」

「生きてるだろ、今」

「そういうことじゃないですよぉ!!」


ぜんっぜん、謝る気、ないですよこれぇ・・・。


「そもそも治療の為なら一言言ってくれればいいじゃないですか!私、本気で殺されたと思ってすっごい悲しかったんですよ!?」

「一言って・・・。『今から、お前殺すから』って言ったら逆に怖いだろうが」

「そ、それはそうかもですけど・・・。とにかく!!これからは言ってください!私も覚悟は決めますから!」

「分かった、分かった。それはそうと、お前」

「何です?」

は人目に隠れてやれ」

「・・・そういうこと・・・?」


ふと、自分の体に着目してみました。すると、私の右手は私の乳房を何度も揉み解し、私の左手は、パンツの中まで侵入して、私の恥部を直接触って刺激を与えていて・・・。


「って!!なな、何ですかこれぇ!!」


私は慌ててばっと、右手左手を宙にあげます。む、無意識・・・?わわ、左手の指に何だかねっとりとしたものがついてるんですけどぉ・・・。


「言い忘れてた。一度死んだ奴が生き返った場合、そいつの生に対する執着は凄くてな。そして、生とは性ということでもある」

「つ、つまり・・・?」

「つまり、お前は蘇った副作用で、しばらくの間性欲が尋常じゃなく湧き出てくる」

「はいぃ!?」


何ですか、それぇ!!勝手に殺しといて!って、また勝手に手が弄りの方向に動いてますしぃ!


「とにかく、アタシは手を貸さないから、ヤるなら一人でヤってくれ」

「あぁ~、もぉ~」


早いところ助手を辞めようと誓いつつも、今は自室にこもるしかない私でした・・・。

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異世界診療所~助手、辞めて良いですか!?~ 期待の新筐体 @arumakan66

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