第64話 あんず、ストップをかける

 ああ、やっぱり精霊はウバなんだ。

 練習中にうやむやになれば、いいなって思ってたんだけど、かわりそうにない。

 しょうがない、あたしもウバって呼ぶか。


 ラッカセイを手の平に乗せ、「カラのままでいいかな、ウバ」ときく。

 ウバは「そのままで、かまわないと思うが」と首をかしげる。


「儀式が順調に進めば、十字路の中央が光だし、地面に渦を描くようになる。そうなったときには、それぞれのアイテムを渦に投げ入れてもらう必要があるんだ。そのときに――」とケイゾーが話にわってはいった。


「ちょっと待て。渦が出来るって、よし子は大丈夫なのか!」

「ああ、それは」とウバはケイゾーをふり返る。

「光始めたときに、横へ移動してくれればいいんだ。何も渦に飛びこむ必要はない」


「当たり前だ。いけにえにするつもりかと思ったじゃんか」


 ケイゾーの声に、すでにスタンバイしていたよし子が顔を上げた。それでも、話の内容に安心したのか、伸びていた首を縮める。


「それでは、準備はいいだろうか? わたしが合図するから、そうしたら、手にしたアイテムを大きく上下にふってほしい。それから、『呪文を』と言うから、ネムリの言葉を繰り返し言い続けてくれ」


「わかった」あたしたちの声がそろう。

 ウバは満足げに、ほほ笑んだ。

「たのむぞ。きみたちが、たよりなんだ」


 あたしたちは、それぞれに目を見かわすと、大きくうなずいて移動した。

 十字路の中央にはよし子の風格ある姿。

 彼女をかこんで、あたしたちは背中合わせに立った。

 時計回りで、あたし、ノゾムくん、ミコちゃん、ケイゾーの並びだ。


 スタンバイが整ったのを確認したウバが、よく通る声で、「はじめ!」と叫ぶ。


「ちょっ、ちょっと待ったー!」

「おいっ、何だよ、あんず!」


 ぐっ、ケイゾーめ。そんな怒らなくても。

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