第39話 あんず、人生最大のピンチを迎える

 どうやったら、あたしの部屋も、こんな風にかわいくなるのかな。


 何かうちでもマネできるものはないかと、飾ってある小物や、カベにあるパズルを真剣に見つめる。パズルは有名なキャラクターものだったけど、淡い色使いの手描き風の絵だ。


 そう値段が高くないのなら、ああいうのを部屋に飾ってみたい。

 パズルも好きだし。

 もっと近づいて、よく見てみようかな。


 そう思い、ひざ立ちになった。と、つんとしたにおい。

 ハッとして、あたりを見わたした。

 すると、シュウシュウと空気がぬけるような音がしたかと思うと、床にあった『よげんの書』から白い煙があがりはじめた。


 火事になる!


 大あわてで、水をもらってこようと立ち上がる。

 けど、そうしているうちに、もくもくしていた煙はおさまり、かわりに『よげんの書』がひとりでにバタバタと激しく震えはじめた。死にかけた虫が、のたうち回っているみたいだ。


 ドアのノブに手をかけたまま、体をかたくする。

 まばたきも出来ずに、じっと本を見つめた。


 すると、『よげんの書』は、その場でピョンピョンとはねたかと思うと、本の角をつけてグルグルと回転しはじめた。だんだんとスピードをあげて、コマのように回転する。そのあいだも、つんとしたにおいは、まだ部屋にただよっていた。


 なんか……鼻がムズムズする。


 あたしは、鼻をこすったり、つまんだりした。

 それでも、ムズムズがとまらない。


 グルグル回転している『よげんの書』に視線をむけたまま、あたしは、「クシュッ」と、本当に小さくクシャミをした。


 でも、その瞬間、音に反応したように、『よげんの書』はぴたりと動きを止めた。ぎくりとする。まるで、こっちの反応をうかがっているようで、本ではなくて、生き物を相手にしているようだ。無言。シーンとして、お互いに見つめ合う。


 ちょ、ちょっとカンベンしてよぉ。

 あたしはドアにへばりついた。

 

『よげんの書』がケモノみたいに、いきなり飛びかかってくるんじゃないかと思った。頭にはギザギザの歯で、がぶりとやられる自分の姿が浮かぶ。


 ピューッと血がふき出す。

 う、うそでしょ。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る