第40話 何がおこっても不思議じゃない

 ドアに体重をあずけていると、ガチャッと、いきなり開いて、うっかり廊下に尻もちをつきそうになった。なんとかバランスをとって体をたてなおす。


「なにやってんだよ」


 ケイゾーだ。

 肩ごしには、ミコちゃんの心配そうにまゆをよせる顔も見える。


「ノゾムくんは?」


 あたしは、なるべくすました態度をとった。

 すっ転びそうだったなんて、知られたくない。

 ……でも、どう見ても、バレてるだろうけどね。


「あいつは帰した。イヤがったけど、ジャマだしな」


 ケイゾーは、アニキはつかれるぜって、老けこんだ顔をする。


「んで、なんかあったのか?」

「あ、あった! やばいんだって」


 思わず両手をふりあげて、オーバーリアクション。

 ケイゾーは、身をのけぞらせて、けげんな顔をする。


「な、なんだよ」

「と、とにかく、見てよ!」

 

『よげんの書』の暴走。

 でも、二人の顔を見て、緊張感がほぐれたのか、今では本のことを、怪物みたいには思えなくなっていた。


 だから、「煙がでてね」と笑い話のようにして、部屋の中に入った瞬間、あたしはまた硬直した。


「なんだよ」


 うしろがつかえたため、ふきげんな声が上がる。でも、ケイゾーも異変に気づいて、ぴたりと口を閉ざした。ミコちゃんが息をのむ音が、頭のすぐうしろでする。


「だ、だれ?」


 あたしは声をしぼり出した。

 それから、自然と乾いた笑いをしてしまう。

 空気がはりつめると、どうやら笑えてくるらしい。


 何がおこっても不思議じゃない。


 もう、そんなことは十分わかっているつもりだったけど、これは予想してなかったな。でも、その可能性はずっと、あったのかもしれない。『よげんの書』はあたしに語りかけているって、うぬぼれでも、そう感じていたんだから。

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