第38話 あんず、ミコちゃんの部屋に憧れる
ガシャーンって、大きな音がして、「うわーん」と大声で泣く声がした。
「ノゾム?」
ケイゾーが言ったけど、あたしは首をふる。
「ミコちゃんのいとこかも。来てるんだよ」
どうしたんだろう。
心配しながら、部屋にとどまっていると、バタバタと足音がして、ミコちゃんがドアから顔だけのぞかせた。
「ケイくん。ノゾムくんが、グラス落としちゃって……」
「げ、マジかよ」
トレイにお菓子やジュースを乗せて運ぼうとしていたらしい。どうしても、とノゾムくんが言うので、ミコちゃんはトレイを渡してあげたらしいけど……
「ごめん、割れたかな。
ケイゾーはやや引きつった笑いを浮かべる。
もしブランドもののグラスだと、大ごとだ。
ミコちゃんのうちなら、そういうことがありえる。
でも、ミコちゃんが「割れてはないよ。でも泣いちゃって。びっくりしたみたい」と説明したので、少しはほっとしたようだ。
「あー、もう、あいつ帰らすわ」
ケイゾーとミコちゃんは二人して部屋を出ていった。あたしはついて行こうかなと、腰を浮かせたけど、役に立ちそうにないので、このまま大人しく部屋で待っていることにした。
しん、と静まりかえっている。
ドアを開けたら、何か声がきこえるのかもしれないけど、座っているだけだと、部屋では何もきこえなかった。
あまりに静かなので、そわそわしてくる。
自分の呼吸する音、身じろぎして動く音が、みょうに大きくきこえた。
気をまぎらわせようと、周囲に視線をやる。
ミコちゃんの部屋は、ドラマや雑誌に出てきそうなほど、オシャレでかわいい。
人の部屋をじろじろ見るのは失礼な気がしたけど、体は動かさないままで、あちこちに目をやって観察する。大人っぽいけど、お姫様の部屋みたいだ。ふんわりした雰囲気のミコちゃんによくあっている。
天井からさがっている電灯も、マカロンみたいな丸みのある形で、食べられそうなほど甘くて、つるんとしたピンク色だ。ヒモでカチカチするやつじゃなくて、リモコンで操作するタイプらしい。うちの寝っ転がっても消せるぜって、びろんと長いヒモが垂れている、ザ・和風の電灯とは国や時代がちがうようだ。
木製の学習机の横にある出窓には、白馬の小さな置物と貝殻でふちどられたフォトフレームが並んでいて、ミコちゃんが笑顔でポーズをとっている。ピアノの発表会の写真もあって、ふりふりのワンピースがドレスのようで、いかにもいいとこの娘さんってかんじだ。
そのうしろの窓にかかっているレースのカーテンも、小花模様が刺繍してあって、とってもステキ。右も左も、ふわふわキラキラしている。
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