第30話 あんず、イライラする

「アオサカ堂まで戻って、そこから見はっとく? 見られてるってわかってれば、そいつらだって大人しくしてるかも。それに、もし何かしたとしても、すぐに警察だって呼べる」


 捕まえてもらおうよ。

 意気込んでみたけど、ミコちゃんは「あとが怖いよ」と心配してうなだれるし、ケイゾーは「ここにいる」と意固地になって動こうとしない。


「じゃ、あんたはここでジャマしてればいいよ。あたしとミコちゃんはアオサカ堂まで行く」 

 ミコちゃんに視線を向けると、彼女は困った顔をして首をふった。

「あぶないよ。ケガするかもしれないよ。三人でお堂に行こうよ」


 それから、行く・行かないの言い合いになった。あたしは動こうとしないケイゾーにも腹が立ったし、三人じゃないとイヤだというミコちゃんにも、同じくらい腹が立った。


 もちろん、ミコちゃんに声を荒げるまねはしなかったけど、バケツを持つ手がうっかり動いて、地面に何度もガチャーンと放り投げそうになる。


「おれは動かない」


 何度目かの宣言をケイゾーがしたとき、さわがしい音が聞こえてきた。見ると、道の向こうから五人の人が自転車に乗って、こちらにやって来る。道幅いっぱいに横にひろがり、だらだらとペダルをこいでいて、くねくねとした走りかただ。


「あいつら、増殖してる」

「はぁ、あれか」

「に、逃げようよ」


 全員男子だ。制服の人もいれば、私服もいる。ひとり、顔に見覚えがある男の子がいた。たしか六年に兄弟がいたはずだ。


 他は知らない人ばかりだ。でも、怖いと感じながら、どこかで女の子だし、ひどいことは言われないだろうって、思っていた。特にミコちゃんはかわいいから。


 でもバケツをけったヤツがいたことを思い出し、そう穏やかではすまないのかな、イヤだなって心配になってきた。逃げようかなって、足がむずむずしたけど、猛ダッシュで逃げる姿を見られるのもくやしい。


 自然とミコちゃんに寄りそうように体がくっつく。守ってあげるようにみえて、本当は心細いからなんだけど。ケイゾーが立ち上がる音がうしろでしたけど、ふり返りはしなかった。と、「おい、まずいって」とケイゾーが弾かれたみたいに、声をあげる。


 急に怖気づいたのか。

 がっかりと共感みたいなものを含んだ気持ちでふり返る。

 そこで、ケイゾーの視線が前じゃなくて、うしろを見上げているのに気づいた。


「煙、ほら、におってきた!」


 もくもくと小屋の屋根から煙があがっていた。けむった臭いが鼻を刺激してきて、ごほってせきが出た。

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