第29話 どうしたの?

 走って戻りながら、手ぶらだとケイゾーにあれこれ言われそうだなって思って、むかむかした。でも、到着すると、二人とも何も言わなくて、それよりも、別のことで頭がいっぱいのようすだった。


「どうしたの?」


 首をかしげながら、ミコちゃんのそばまでいく。ケイゾーは小屋の前の地面に座って、顔をしかめて何か考えこんでいる。


「あんずちゃん、ここから、はなれたほうがいいかも」

 両手を合わせて、もじもじするミコちゃん。

「なんで? まだ燃えるまでには時間があるでしょ」


 すると、ケイゾーが、「さっき中学生が来てさ、お前らどっか行けってよ。それで」とあごをしゃくる。その方向をみると、バケツが三つともひっくり返っていた。


「こぼされたの?」

「見ての通り」


 中学生って誰だろう。誰かのお兄ちゃんだろうか。

 そう思っていたら、ケイゾーが、「知らねーヤツだったけど、友達がこのへんにいるんだろうな。とにかく、また戻ってくるつもりらしい」と口をとがらせる。


「だから、ここから、はなれようかなって」


 ミコちゃんが弱々しく肩をおとす。よほど怖かったのかもしれない。

 あたしは転がったバケツを三つ重ねると、底をじっとにらみつけた。


「きっと、そいつらが放火するんじゃないかな。で、燃えるんだ」

「かもな」


 ケイゾーがぶすっとしたまま返事する。

 ミコちゃんは大きく肩で息をすると、「じゃ、止められないね」と悲しげだ。

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