第6話 あんずは、カレーにマヨネーズをかける

 走って帰るのって楽しいようで悲しい。それって、ひとりだったからだと思う。逃げてるってかんじ。悪いことした人の気分でいっぱい。まるでドロボー。


 ミコちゃんの家は、あたしの帰り道の途中にあるから、通り過ぎるときは、もっとスピードをあげて走り抜けた。もし、誰かお家の人が見ていて、「ミコちゃんは?」なんて声をかけられたらイヤだもの。


 坂をのぼるとあたしのうちがある。二階建てだけど古臭い家。床もぎぃぎぃ鳴るし、大雨の時は雨もりまでする。引き戸の玄関がガラって開けて、「帰りましたっ」て、叫んだあと、あたしは二階にある自分の部屋に直行した。


 なんだか、ミコちゃんとケンカしたみたいになったから、お腹がぐるぐるして食欲がわかない。いつもは晩ごはんまでもたなくて、おやつを食べたがるあたしがそんなだから、おばあちゃんはちょっと心配そうだった。


 だからかな。晩ごはんは大好きなカレーだった。具だくさんで、ジャガイモや豆、ひき肉にとり肉まで入っているやつだ。これにマヨネーズをかけて食べるのが好きなんだけど、夜になっても胸に何かがつかえたみたいだったから、あたしは半分だけ食べてやめにした。


「ごちそうさま」


 おばあちゃんは上目づかいにこっちを見たけど、何も言わなかった。残すんならマヨネーズぶっかけなくてもよかったのにって思ったのかも。だって、こういう食べ方するの、家族であたしだけだから。


 特にお姉ちゃんは「デブ食い」って言ってくる。でも、あたしは、おデブじゃない。やせてもいないけど。とっても健康なだけ。


 残りはおばあちゃんが食べてくれた。悪い気がしたけど、あたしも元気がでなかったんだ。しょんぼりした気持ちで、二階の自分の部屋に閉じこもった。


 ベッドに横になり、『よげんの書』のページをめくる。古本みたいに柔らかくなっている紙で、少し毛羽立ってザラザラしていた。


 やっぱり文字はなんにも書いてない。じーっと見たり、においをかいだり(甘いようなにおいがした)、なんとなく手を叩いたり、本を持ち上げて、ぶんぶんとふったりしたけど、まったくの変化なし。


 やっぱり、あの赤い文字は見まちがいだったのかな。

 がっかりしていると、ドカッと大きな音を立てて、いきなりドアが開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る