第4話 あんず、『よげんの書』を見つける 4

 さっきも書いたけど、赤ワイン色の辞書みたいな本で、ずっしりしている。ちょっと汚れていて、表紙に金色の文字でタイトルがあるだけだけど、高そうだなって本。


「ミコちゃん」


 見つけたミコちゃんに声をかけたけど、ミコちゃんは本を選ぶのに一生懸命で気づかなかった。彼女に近づきながら、パラパラとページをめくった。


「見て、これ本じゃないよ」


 やっとミコちゃんはこっちを向いた。クルンとおさげがゆれる。こうやってゆれるのが、かわいいんだ。それから、あたしが見せている本に目をやって、ぱちぱちってまばたきする。「本じゃん」って思ったんだと思う。あたしは笑った。


「あのね、何も書いてないんだ、ほら」


 そうして、ページを大きく開いて見せたんだけど、そこで意外なことがおこって、思わず本を落としてしまった。バサッて大きな音。本は床にべたって張りつくみたいに広がった。


「見た?」

「見た」


 何を見たかって? 

 文字。

 すらすらって、白紙だったページに文字が書かれたんだ。

 しかも、赤い文字。


「血、みたいだったね」


 あたしは、床に開いて落ちた本を、ちょんとつまさきでついた。行儀が悪いってのはわかっているけど、不気味すぎたから。すると、ミコちゃんがあわてて、あたしのうでをひっぱった。


「なんか、気味わるいよ。もう、教室に戻ろうよ」


 引きつった顔。

そうなんだ。

 ミコちゃんは怖い話とか、大キライなんだ。


 ちょっとユーレイとか、不気味な話をしただけで、泣き出しそうになる。妖怪や宇宙人なら大丈夫なのに、ユーレイはダメ。


 あたしはそういうお話が大好きだから、ちょっとつまらないなって思っている部分だ。でも、もちろん仲良しで、大切な友達にはかわりないけど。


「大丈夫だって。なんて書いてあった?」


 本を拾い上げる。本当はドキドキしていたんだけど、怖がっているところを見せたくなくて、平気な顔をしていた。横でビクビクしている人がいると、よけいにそういう気持ちになる。自分は平気って、堂々としていようって気分。


「あれ、もう書いてないや」


 本は白紙に戻っていた。他のページも全部めくったけど、何も書かれてない。見まちがえたのかな。でも、あたしたちは顔を見合わせて、無言だったけど、目で言葉をかわしたんだ。


「絶対、見まちがいじゃない」って。

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