5話—2 繋げ!小さな希望の灯火を!

「ザッキー、シン!前方を塞げ……ここを迂回させる!」


『『了解っ!お任せを!』』


「タケはマツ……トゥッティと俺の後方へ張り付け!——Ⅰ氏っ!それと風間はハル嬢と前へ——」


「進路を開ける……一番パワーのあるお前らのマシンで、キングのFDセブン後方へ付けっ!」


 騎兵隊の面々による進路封鎖と誘導は、見事に異形の深淵撹乱に成功する。

 しかし肝心な小さな当主は未だ苦痛にさいなまれたまま——優しきSPの施した浸蝕緩和の術も、長くは引き伸ばせない間に合わせ。


 しかし当主の少女が試練を乗り越える瞬間のため、騎兵隊は右に左にテールを振りながら……異形の恐竜の如き暴走をかわしつつ——都心ストリートへ爆轟とタイヤスキール音を轟かせる。


『おいっキングさんよ!——アレはちと、まずいんとちゃうか!?』


「……くっ!ここに来て、都心である事が影響し始めたかっ!?」


 インカムに響くリーダー関谷の声で、バックミラー越しに異形を視認した優しきSPは……その異形に起こる変貌を捉えて歯噛みする。


 小さく……霊体さえも朧げな霊災であればまず起こりえぬ事態——背後の巨体が、都心を巡る負のレイラインを徐々に吸収し……次第に巨大化していたのだ。


 SPも理解する。

 異形の深淵オロチが、眼前の巨大な霊的反応獲とくを求めるあまり……本能のままに周囲から霊脈を吸い上げ、急速成長を遂げると言う悪夢——深淵の本能が生む窮地であると。


「ぐるおおおおぉぉーーーっっ!!」


 実体を持つもさほどの質量を有さなかった異形が、徐々にストリートの路面へを刻み始める。

 いかな最速を演じるスポーツマシンも、万一前方に回り込まれ——さらにその路面を質量で押し潰されれば万事休す……前後の退路を断たれるも同義。


 刹那にそれを悟る優しきSPは……現在自分を囲む頼もしき仲間を尻目に前方へ躍り出つつ——視界に、赤きエンブレムが輝く純白のマシンを捉え——


「(……賭けてみるか!)ハル嬢!数キロ先……大型スクランブル交差点で定常円――!それまでオレ達のケツへ、しっかりと追従しろっ!」


「ス……スクランブル——これか!ハイ、円城寺えんじょうじの名に賭けて追いすがってみせますっ!」


 騎兵隊紅一点のハル嬢も、キングの指し示す場所を車載モニターで確認する。

 純白のマシンを駆るドリフト界の戦乙女ヴァルキュリアは、深淵との戦いでは足手まといでしかない——しかし彼女のドライビングテクニックは今……確実に小さな当主の助けとなっている。

 それを噛み締める様にキングの指示を読み取り……指定された場所までの、を誓う。


 小さな当主を守り抜く、——


 程なく前方をザッキーのS15とZ33が煙幕により封鎖——大きくターンする迂回路を描く場所で、一瞬の躊躇いを見せるも……異形の深淵は辛くも迂回を始める。


『リーダーっ、後はお任せしますっ!』


『ウェーイ!俺らの分も、ガッツリ走って来て下さいっ!』


「ああ、任せとけ……チームでしっかり、クサナギの当主様を護衛して来るわっ!」


 残るチームのマシンは激しい白煙を巻き上げ迂回路を駆け……その先頭へ躍り出るキングのRX—7——そして後方に、騎兵隊内でも屈指のパワーを誇るカスタムマシン達が追従する。


 直後——


「ギョギョっ!?……こっち来んなっ——ヤッベェっ!?」


 背後を走る異形が僅かに迫ったタイミングに、ドリフトを終え減速していた最後尾——トゥッティのRX—8頭上を脅かす。


「やらせるかよっ!」


 すぐ背後の脅威襲来に反応した、トゥッティと旧知の仲であるマツが……急制動のまま異形の片足へ蒼い閃光シビックを激突させた。

 堪らず浮いた脚部が、違う場所を踏みしめる様に踏み止まる異形——窮地を逃れたトゥッティもマシンに鞭を入れ加速する。


『無事かトゥッティっ!』


『マジで助かったっ!——化け物が……!』


 逆襲とばかりに、RX—8が吐き出すロータリー特有の排気ガスを異形へぶつける様にフル加速——騎兵隊の戦列へ戻るトゥッティ。


 スクランブル交差点まで到達する間——そしてその後も、小さな当主が試練を超えられなければ……いつ異形が騎兵隊達を踏み散らかすかとも知れない。

 まさにストリートを駆ける者達は死闘の最中にあった。


 そこへ飛び込む状況悪化の報——場を読めぬ暴徒鎮圧に向かう、八汰薙兄シリウよりの入電が入る。


あぎと、問題が起きた!暴徒のマシンが一台……オレ達の静止を振り切って警告路線へ入った!』


「——なっ!?……こんな時に……そのバカは何を転がして——」


『ブラックのインプレッサ……丸目型だ!——こちらで発信機は何とか設置に成功したが——』


『あ~キングさんよ。そいつはこっちに任せてくれ……ウチの広報が到着した。』


 状況悪化を招く暴徒の車両が、緊急走行警報発令時に飛び込むも——同時に騎兵隊の最後の車両が到着し、リーダー関谷もそれを確認の元……キングへ対処を引き受ける方向の通信を飛ばす。


「分かった……任せる!仲間を借りるぞ、リーダー関谷!」


『了解や!タケ、マツ、トゥッティはI氏と風間に続け!ハル嬢含めてキングの指示で走れ……!こっちは広報と二人でどこぞの阿呆を止める——聞いとったなっ、広報さんよっ!』


『ああ、失礼!遅れた……またFDの調子が悪くて——』


!?ホンマにロータリー勢はどいつもこいつも……行くでっ!』


 優しきSPの視界前方へ合流するマシン——SPの駆るマシンと同型のRX—7が、過ぎ去るSPのマシンを見送りリーダー関谷の隣へ並走する。

 艶無き漆黒の黒マットブラックを纏い……端々にグリーンの煌めきを走らせるマシンは、騎兵隊の広報担当——程なくそのセブンとリーダーの180SXが戦列を離れ、紛れ込んだ暴徒の抑止へと走った。


 モニター上で確認された反応は、既に異形の進路上へ合流する経路を駆け抜ける。

 それが愚かな暴徒であれ、異形の餌食になるは後味も悪いと言う物——リーダー関谷と広報担当は、速やかにその路線封鎖のためマシンを横付けにする。


 間一髪のタイミングで現れた暴徒のマシンが急停車——事情を説明するため、危険地帯である幹線道路でマシンを降りた二人……速やかに暴徒を追い返しにかかる。


「どこのアホウか知らへんけどな!腕を磨くにはやで……さっさと戻れ!ここは緊急走行警報エマージェンシー・ランディング区……危険地帯や——」


「い、いや!?ワシは大人しく走ってただけだぞ!?ドリフトとかそう言う——」


「あかんわリーダー。こいつは会話にならん奴や……引き摺り下ろしてでも退避させて——」


 と、騎兵隊広報の男が言葉を発する寸前……背後に巨大な影襲来を察し——


「クッソ……化け物がっ!?」


「うぉあっ!?なっ、何をするんだっ――」


 強引に引き摺り下ろした、愚かな暴徒をかばう様にリーダー関谷と広報担当が身を伏せ——刹那……頭上を通過した異形の脚部は、暴徒が乗り付けた黒のインプレッサをグシャリと踏み潰した。

 同時に破裂するガソリンで、黒煙と共に消し炭となったそれを一別し立ち上がったリーダー関谷——


「愛車も大事に扱えんでオイタするから、こう言う事になるんや。マシンももっと、良いドライバーに転がして貰いとおて泣いとったで?」


 愚かにも警報区画で自分勝手を演じようとし——その結果マシンを失うことになった茫然自失の暴徒は、命懸けで当主に協力していた騎兵隊のリーダーと広報により……宗家を介し、警察の手で豚箱にぶち込まれる末路を辿る。 


「リーダー……BUGは役に立ったかいな?」


「当然や……きっとクサナギのお嬢様が目覚めるまで持ち堪える。——そのために俺らが危険を買って出たんやからな……。」


 遠くメンバーが走り去る様を見やる、チームのリーダーと広報担当の男——まさにそのチームのが……小さな当主の、新生の目覚めを後押しする事になるのであった。

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