ー三神守護宗家を背負う者ー
5話ー1 デッドヒート・ストリート
大気を切り裂く爆音は、都心の宵闇へ木霊する。
ストリートのアスファルトが、その狂奏を刻み込む。
かつてそれはただの暴走行為――あまたの者からただの蔑みの中、危険行為として世から排除された時代もあった。
しかし今――
日本を……世界を救うカギである少女の、新たな目覚めの時までを守護するべく――かつて蔑まれたストリートマシンを駆る騎兵隊が、東都心へと舞い降りた。
「ええか!?今からクサナギのお嬢様を乗せたキングのFDを援護――同時に誘導のため、各所の無用なルートを塞いで回る!」
「――分かっとると思うが、俺らに攻撃手段は無い!せやけど化け物を誘導する装備は取りあえず満載しとる――使い所を間違えんなや!?」
ビルの谷間を切り裂くヘッドライトが闇を疾走する。
今
それは一人の少女の命運を賭けた、命懸けのバトルへ身を投じた者達。
先頭を切るリーダー
チームメンバーI氏のR35GT—Rは
続いてマツが駆るは、赤きエンブレムに車体はブルーの閃光シビック TYPE R——TYPE R史上最強の呼び声高き、純正L型4気筒ターボ。
さらにトゥッティーの駆る
最後尾一方手前は非力ながらも追い縋る旧時代の伝説——白黒カラーのスプリンタートレノを操るワキ……そして並ぶコンパクトながら洗練された、ブラックのスイフトスポーツでテラっさんが駆ける。
中に本来であれば前輪駆動の車種が一部混じるも、それらはドリフティングアクションに合わせ――全て後輪駆動仕様へ改造済み。
そして最後尾——優しきSPの直前を走るは、赤きエンブレムに純白のボディと……前輪駆動改後輪駆動仕様のインテグラTYPE R。
——
「お嬢様が覚醒するまでの間で構わない……深淵を、足止めと誘導で搔き回す!加えて——」
「警報が出ている区画の一般車両——中でも場を読まない暴徒は、
任務車両の前方に視認した頼もしき騎兵隊へ、必要最低限の指示を飛ばし……沈静化するも、いつ再発するとも分からぬ主の浸蝕へ歯嚙みする優しきSP。
すでに背後に迫る
さながら恐竜に追われるかの如き状況を打開するため、SPも口にした
『前方左誘導!右及び前……撹乱幕で塞げ!』
「ええな!分かりやすい指示や……ワキっ、テラっさん!今回は先方を譲る!」
『出番やな……任しといたら——ええでっ!』
『本望っす!先方、頂くっすよ!』
ストリートチーム中最も非力なマシンを駆るメンバー達——
答える二人は前方と右へ向かうレーンへ、トレノとスイフトを滑らせ停車——同時に霊力撹乱墳進弾をばら撒いた。
そして舞う煙幕には、霊力を拡散・乱反射させる物質が散りばめられ……それが、深淵の体躯を遥かに凌ぐ巨大な壁となり行く手を阻む。
「こっちやないで、化けモノさんよっ!」
さらにその身をマシンから乗り出すワキが、霊力誘導弾を開けた左折レーンへ向けて放つと、
それに合わせる様に、リーダーを始めとする
差し詰め団体ドリフトを演じるが如く、一糸乱れず流れるマシンテールの光が暴力と美の競演を思わせ——最後尾を走る優しきSPの任務車両を従えて、東都心のストリートを駆け抜ける。
まんまと誘導に乗る
その点を考慮した霊力撹乱弾と霊力誘導弾——
宗家が有事にと備えた対魔装備の一つは、今ストリートをかける鋼鉄の騎兵隊に満載され……小さな当主の覚醒までの時間を稼ぎだす。
最中……小さな当主は、沈静化するも未だ燻る天津神の破壊と煉獄の焔——その余りにも巨大な力との、試練と言う死闘を繰り広げる。
未だ双眸を閉じ、苦痛に身を委ねつつ……やがて訪れるその時を迎えようとしていた。
クサナギ家の誇る最強の当主が——三神守護宗家全ての力を背負い……立ち上がる瞬間を——
****
魂の奥底に突如として渦巻いたそれは……私が当主の力継承の儀を受けた直後——常にこの身を焼き続けていた焔です。
そしてその焔はカグツチ君の霊力的な本体であり——
彼自身では制御する事が叶わぬ霊力の本質――だから……私を焼き続ける焔を止められない彼は、いつも私へ謝罪の念を送ってくれました。
「……カグ……ツチ君——ごめん……ね。不甲斐……なく……て——」
「何を言う主よ……貴女はこの我の焔に幾度も立ち向かい——我の本質を制御して来た。むしろその言葉は我が送りたいモノだぞ……。」
それでいて私へ送る視線はいつもの謝罪の念が多分に含まれるも……確かに浮かぶ迷い——それは同時に私も抱く想いでもありました。
迷いを断ち切ったはずの私が今直面するのは……自分でも理解する試練——これは私だけでは乗り越える事が出来ない類のモノ。
視界に映る天津神の炎神様と、共に超えなければならない巨大な壁なのです。
そして僅かな時を置き——
炎神様に抱きかかえられたままの私……突如として開ける視界で自分が異なる車に移されたのを、苦痛に飲まれた思考で理解した先——よく知った素敵な友達の案ずる顔が、決意の表情へ移り変わる瞬間を目撃します。
「ごめん……ね?私……なんかの……ために。あ……りが……と。」
絞り出した声に反応した素敵な友人は、頰を伝う雫をグイと拭い——私も知る裂帛の気合いを宿す双眸で、彼女の愛車へ鞭を入れます。
同時に聴覚を震わせた爆轟を伴うサウンドは、彼女と情熱を共にする赤きエンブレムが輝くマシンの鼓動。
相手が霊力の気配を追う事でしか、獲物の行方を察せぬ故の撹乱戦法。
同時に……それが私と炎神様がこの試練を乗り越えるための時間を稼いでくれてるのだと悟った時——
それは思考の……いえ——魂の奥底で産声を上げたのです。
「(私が選ぶ道は慈愛だけでは超えられない——)」
今まで私を支えてくれた、宗家の人達の想いを刻み——
「(でもその方法は……大切な友達が教えてくれた——)」
因果の果てで出会った友人……その中でも、憤怒や激昂を力の源泉とした彼女達——
「(アーエルちゃんや……レゾンちゃんの様に——私もそれを制する事が叶えば——)」
そして今……私のためにこの作戦へ志願してくれた素敵な友人が、レースで見せた戦士への豹変を目の前で披露してくれた——彼女の敗北への無念と決意を刻み——
「〈カグツチ君……いえ——天津神の破壊神ヒノカグツチよ……。我は汝の力を我がものとする——」
「〈我に……従え——我は、三神の力を統べる戦神なり——〉」
思考が——天津神の力を調伏するべく……煉獄の言霊で破壊の炎神を支配した——
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