ーその業火は新生の導きー

 4話—1 Lightning BUG

 宗家の皆さんのお陰で、良い経験を得られたドリフトレース——けれど私は優勝を逃す結果となりました。

 よくよく考えれば相手は大人で、常勝無敗を宿命付けられたドリフトキング——その頂点に挑むと言う、晴れ舞台へ上がれただけでも快挙なんです。


 でもその前に、あのハルさんの夢を踏みにじったと言う事実が私の心を支配していたのも事実であり――

 結果――目指す高みが一気に跳ね上がった……とも言えました。


「なんや、えろう盛り上がりましたな~~あのレース。――正直桜花おうかちゃんが勝利してもおかしない思とったんやけど……ままなりまへんな~~。」


「いや、今思うとそれはまず無理な話だし(汗)――相手はあのあぎとさんなんだよ?準優勝でも充分凄いから……。」


 ドリフトレースから僅か後……学園のお昼休み――初等部と中等部を結ぶ校庭のベンチでお昼を頂く私と若菜わかなちゃん。

 二人で持ち寄ったお弁当を開いて昼食の真っ只中――あの激闘を振り返ります。

 ただ未だ任務中の断罪天使さんは已む無く仲間外れ――と言いますか、けっこうあちらも……もとい、を過ごしているとの噂があるとか無いとか――


 アーエルちゃんには、任務に専念して貰いたいと言う配慮の上での選択――ですが、やっぱりお友達がいないのは寂しさも募ると言う物。

 なのでその寂しさを紛らわせる様に、若菜わかなちゃんと大切な今を満喫しているのです。


「……それはそれとして、桜花おうかちゃん?もう刀を落としたりせぇへん?大丈夫なん?」


「――えぇ~~……それ……若菜わかなちゃんには話してなかったと思うんだけど――」


「ウチ等はお友達や。隠し事はメッチやで?」


「うう……、はいぃ……。(絶対ロウさんが洩らしたよこれ……。)」


 若菜わかなちゃんが、いつもの手作りサンドを手に問い掛けて来た件――確か私は、この件を友人関係に話したつもりはなかったのですが――

 思考に浮かぶは間違いなく親しき者からの情報漏洩……とりあえずその主犯であると思われる人の事を、項垂うなだれながら愚痴っておきます。


 レース云々は、若菜わかなちゃんも観客席で応援してくれてたのを聞き及んでいたけど――それ以外の件は自分の内に止めておこう……解決したら、皆に話そう――

 そう決意していた私の思惑は、見事に打ち砕かれました。


 けど……これが私達のお友達パワーなんだと、改めて実感します。


 そんな中、はんなりなお友達から思ってもいない朗報が飛び込んで来ます。

 今の私達にとって、その朗報はとてつもない喜びです。


「――あとな、これはれい姉様から内々に伝えられた情報なんおすけど……魔界から、超長距離クロノ・サーフィング通信が届いたそうおすえ?こちらの状況を通信で伝えた折にな――」


「向こうの――に方が付いた言う事で、テセラちゃんがレゾンちゃんと一緒に地球を訪問するらしい……やて。」


「うそっ!?こんなに早くテセラちゃん、こっちに来られるの!?――それ……早く会いたいっ!」


 それは喜びこの上ない吉報――すでに地球と魔界防衛作戦を経て、無二の親友となった異界の友人と再び会えるのです。

 さらにはんなりなお友達は、わくわくする様な内容を付け加えて来て――

 

「……おまけにレゾンちゃんや。なんや凄い事になっとるらしいけど――それは会うてからのお楽しみ……やって。」


「うわ~~何それ、超楽しみなんですけど!そっか……て事は、レゾンちゃんもきっと強くなって戻って来るんだろうなぁ~~☆」


 などと浮かれた私はその時、赤き魔法少女である吸血鬼の少女レゾンちゃん――彼女が個の強さを会得して自分とも対等の勝負が出来るのでは……程度の、感覚で事を捉えていたのを覚えています。


 それがまさか、所ではない―― ……いえ、戻って来るなどとは夢にも思っていなかった訳で――


「楽しみだなぁ~~☆」


 遥かな天を仰ぐ異界の友との、訪れたる再会に浮かれていた私――その足元に忍び寄る、を……その片鱗さえ、未だ察知しきれていなかったのです。



****



 東都心某所港――先のレースの折、守護宗家からの依頼を受けたストリート上がりのレーサー風間・リューベル……依頼の正式なやり取りのため、八汰薙のやんちゃな弟ロウとの面会に訪れていた。


「おおっ……これは大そうなお出迎えだなオイ。つか、あの伝説側警部め――さらっと暗躍してくれる。」


「……ああ、おかげでこっちは肝が冷えたで?ついに風間も、この大都会まで来て、とか――」


「いやいや、ジェイよ!?それは酷くねぇか!?……集まりメンバーを売る気かよっ!?」


「冗談や……そしてそこはノリツッコミの所やでお前。」


 その夜の港に居並ぶは、ドリフトレースのストリート代表である風間が所属するカスタムマシンチーム――

 数多の改造パーツで、高度な芸術作品の如く飾るその車両マシン……煌びやかさの中にも速さを髣髴ほうふつさせる外観――走る芸術品を地で行くストリートカスタムカー集団。

 低い唸りで、夜のとばりの静寂を穿つそれら――各所に煌々と輝くイルミを振り撒く、西日本は四国を本拠に構える集団チームである。


 その中心であり、リーダーを任される男……ジェイ・関谷せきやが宗家との依頼交渉に臨む。

 短く刈った頭髪に大らかさと鋭さを併せ持つその男――レース遠征部門のストリート上がりを弄り倒しつつ、その場に和やかさを呼び込んで来る。

 言うに及ばずこの依頼……と知っての交渉の場――ただの飾りで、チームの頭を張っている訳ではない雰囲気を醸し出していた。


 リーダーのマシン……黒をベースとした赤のアクセントに、トライバルバイナルと称するグラフィックがボディに輝くGTクーペ――ストリート上がりがレースで使用したのと同型である180SXを初め――

 チームメンバー達のカスタムマシンが、その交渉を出迎える中――八汰薙の弟ロウが守護宗家を代表し、交渉への対応に乗り出した。


「あの伝説側の警部奨炎さんから、あらかたは聞き及んでいるとは思うが――今後ウチのお嬢……若菜わかなを初め、桜花おうかちゃんを含めた魔法少女達に今以上の試練が降り掛かると予想している――」


「宗家の言い分は分かる――せやけどお嬢さん方は、若菜わかなお嬢様以外皆……を持っとる。俺らが必要とされる意図を……聞かせてくれへんか?」


 チームリーダーの鋭い指摘が八汰薙の弟へ提示される。

 眼光は仲間の大事への憂いを乗せた物――それに対し臆する事無く、八汰薙の弟は考えうる状況を詳細に提示して行く。


「ああ、それはごもっともだ……。超常の力を持つ魔法少女……けど彼女達は何も、常時その力を全開に出来る訳じゃない――特に魔界勢に至っては、この地球上での力開放は。そこで万一力の途絶等という事態が訪れた際には――」


「今の宗家……中でも、地上に於ける組織的なサポート面で手に余る現状――それが君らに手助けを依頼する理由……そう取って貰いたい。」


 そこには戦力的な面ではない――あくまで魔法少女達の力途絶の様な事態に、それを守り届けるための移送班としての役目の意を含む。

 それも大災害後の日本国を走る無数の海陸横断高速道路アクアリア・エクストリーム上……そこを自在に走り抜けるマシンを駆る者達――その点への協力依頼こそが、彼らカスタムマシンチーム【Lightning BUGライトニング バグ】を選んだ理由であった。


「――つまりは宗家様も現在猫の手も借りたい状況……ところが、事に精通した上でそれに協力的な民間団体もおらん。て訳で……俺らにお鉢が回って来た言う次第やな?」


「ああ。危険は承知――それに見合った条件も、守護宗家全体で考慮する。受けてくれるか?」


 一時の沈黙――夜の港に、カスタムマシン達の唸る様な鼓動エンジン音だけが響く。

 鋭い双眸を閉じ……再び開き背後に集まるチームメンバーを一瞥するチームリーダー――その視線に答えるメンバーの意志は、否定など存在していなかった。


「ええんちゃうか?宗家からしっかり危険手当てを貰う分には、俺らも否定の予知は無いで?」


「そうそう!こっちもチームの名を全国に轟かせるチャンスや――せいぜいお嬢様達を助けて差し上げんとな!」


 仲間の肯定意見を確認したチームリーダーは、八汰薙の弟へ向き直り――突き出した拳を契約の証とした。


「ちゅう事や。……まあ、協力にあたって必要な装備や法整備云々――ちゃんと準備頼むで?」


「すまないな……。当然緊急走行エマージェンシー・ランディング可能な特別許可車両として、あの警部に登録を依頼して――その他装備もすぐ配備に取り掛かる。」


「話しが早ようて助かるわ。なら、お前ら!宗家様のご指示に従い、必要装備の搭載に取り掛かれや!」


「「おーー!」」


 未だ深淵の脅威に晒される日本国――その中でまた一つ……少女達を支援する大人達の想いが集い――

 来るべき脅威襲来への、一段の備えが進められて行く。


 その集いが備えに散る様を、夜の港――灯り無き暗がりで密かに目にした者がいた。


「――あれは……当主様のお知り合いの宗家の方――それに、風間さんの所属チーム?これはもしや――」


 二房のおさげに高貴なお嬢様然とした姿――ストリートで使用するのはレース車両と同じ、前輪駆動改・後輪駆動……純白のボディに赤きエンブレムを冠するマシン。

 レースでの敗北の悲しみを癒すため、港へ訪れていた円城寺えんじょうじが誇る令嬢ハル――宗家がストリートチームへ、事を依頼する一部始終を目撃していた。


 ――そして運命さだめの歯車は、ハル彼女さえも巻き込む様に……廻り始めた――

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