3話—2 揺らぐ不穏の灯火
クサナギの小さな当主が、ヤタナギの擁するサーキットを沸かせる中——同じく断罪天使の少女へ迫る不穏が
断罪天使は突如として降って湧いた護衛任務遂行の最中——いけ好かない英国は【
しかしその背後に忍び寄る不穏——
それは本来であれば、【三神守護宗家】の力にて強力に封じられているはずの闇——
『——以上が現状ですな。以降はこれより状態が悪化すると考えられるが……それなりの対処は必要かと——』
「そうですか……。エルハンド卿——本土から呼び寄せて間も無い依頼遂行……誠に痛み入ります。」
クサナギの
実情としては、先の地球と魔界衝突作戦に於ける宗家側の疲弊に歯止めを掛けるので手一杯の現状——そこへ現れた深淵への対応として、
防衛相へ出向いた折の紺のスーツ姿で、
『何……こちらとしても我が家族であるヴァンゼッヒの身柄を、宗家が誇る学園へ預けている以上——これは持ちつ持たれつの関係向上に一役買う所。我らもこの件に付いては、隊の皆からの賛同の上で挑んだ次第——』
『それよりもだ……そちらの本質——深淵から護られる側の状況は
持ちつ持たれつを前面に押し出す某国ヴァチカン代表は、家族である少女が受ける手厚い対応への謝意も惜しまぬ心持ち——その後に、今最も重要である事項を携帯端末先で確認に入る。
端末差先からの問いへ、金属製デスク脇——音量こそ微量に設定する館内モニターに小さな当主の激走を視界に入れながらも嘆息……眉根を僅かに
「安定は……しています。——しかし、予断は許さぬ状況……とだけお伝えしておきましょう。」
『——了解した。ではこちらもそれに合わせて、対応するとして……どうだ?例の桜花嬢は?』
唐突な振りに一瞬困惑を浮かべるも、エルハンドと言う男の人生柄——その言葉が出ても不思議では無い状況に思い当たり……
「まさか貴方から
そこまで口にし、ありのまま過ぎたかと空いた口で「……あっ。」と漏らした裏当主——だが予想に反して主の力の代行者は、想定していた様な返答を返して来た。
『フッ……変わらず、か。桜花嬢がレースで活躍する様が、見えずとも目に浮かびますな。』
「——意外ですね。この様なご時勢――軽蔑と言いますか……呆れとかは無いのですか?」
裏門当主としても、流石に続いた言葉へ聖騎士らしさが伺えぬと問い詰め——余りにごもっともな意見が返納された。
『軽蔑も何も……。あのクサナギのご令嬢は我が盟友の御息女——今も月の遺跡【ヴァルハラ宮殿】のアリスネットワーク維持に全力を注ぐ、クサナギ
『忌まわしき【邪神の試練】時代には、この私が人生で唯一背を地につけられた東洋最強の剣豪——それから奴とは盟友の契りを交わし……しかし、あの男の口から語られるは己が愛車の話ばかり——』
話を区切るヴァチカン最強の男——端末先で、乾いた笑いの裏門当主を想像しつつ……語る思いに懐かしさを籠めて紡いだ。
『その御息女がレース好きになるのは、大方想像出来た事——そもそも守護宗家をして、モータースポーツにより国の復興を支えているのだ……それに対し呆れなどと……。こちらもそこまで堕ちてはおりませんぞ?』
ふうっと一息。
裏門当主も
同時にクサナギ家という御家は、自分が物心つく頃からすでに世界を支えていたのだと……小さな当主の父へ感嘆を禁じ得なかった。
そして大筋から逸れた話を戻す様に、今回の確認上での結へと向ける。
「少し話題が逸れましたが……以後は主の力の代行者と我らが守護宗家——共に協力も惜しまぬと言う事で……。」
当主の結に『心得た……では。』と短い応答で端末を切断する聖騎士。
そこで大きく息を一つ盛大に放った裏門当主は、頭に今後の行方と思惑を張り巡らそうと回転椅子へ座り込んだ——
そのタイミングで今しがた切断された端末に再度の接続——疑問の中身体を起こして端末先の名を確認し……即応が必要と端末を繋いだ。
『これは
端末先で声を放つは高齢の老いを感じさせるも、語りそのものはしっかりとした発音——そして声の主が裏門当主を零お嬢と呼んだ辺りは、明らかに宗家内の身内と察するに充分であった。
「ヤタの爺様……お久しぶり——と言いたい所ですが、火急の要件ですか?」
裏門当主は声の主をヤタの爺様と呼称した。
その名が指し示す存在は言うに及ばず、【三神守護宗家】が一家——ヤタ家表門をまとめる当主 【ヤタ
守護宗家において現在最高齢の当主は、覚醒者では無い地上人年齢で90を超す生き字引——だが若々しさはそこいらの90代も遠く及ばぬ、現役の長老である。
『うむ……今はまだ様子見じゃが——封印の地で淀みを確認しての……。』
封印の地——淀み。
そのキーワードで、瞬間——表情の険しさが増す裏門当主。
ヤタの爺様と呼ばれた者はそれを察するも、まだ慌てる事も無いとの配慮で言葉を続けた。
『ああ……火急ではあるが、切羽詰まる程でもないわ。こちらでも対処を進めておる。すでに
そこまで発した
「分かっています爺様。
「――西日本は四国……カガワの都。我らが最大奥義にて、人類史上最悪の厄災【ヤマタノオロチ】を封印せし場所……【
僅かな会話で終了を見た宗家身内の会話——しかしそこへ含まれた言葉は、今まで訪れた苦難など跡形も無く吹き飛ぶ最悪の訪れを予見していた。
そして、その矢面に立たされるはたった一人の少女——その身に同じく恐るべき災厄を宿す者——
人類の歴史を滅ぼす災厄——【
****
未だ沸きかえる歓声で、熱く焼き焦がされるメガフロート内サーキット。
一般よりの参戦であったストリート上がりの走り屋も、残る伝説の一角を屠る事ならず——苦い結果に果てる事となる。
パドック裏車両展示区画へ、
そこへ近付くは彼を負かした
「はぁ……
「悔しいか?こちとら警察も、伊達に暴走族を追い回してやいないんだぜ?……ま、それは多分に交通課の話であって——俺の場合は裏の仕事がてらと言うのが正確だがな。……時に
「……あん?」
ストリートからのし上がるもまさかの警察相手に敗退した
双眸は凛々しく見開き血気盛んな風が見て取れる。
そのストリート上がりへ随分な親しさを含むセリフから、裏の仕事観点からの依頼を乗せ語る
「お前さん……こっちには地元からの遠征で上がって来てる——はずだな?そこでお前さんに内々で依頼があるんだが……受けるか?」
「——なんだなんだ?そりゃどっかの、ストリートレーサーが出てくる洋画の様な展開じゃないか?つか……その洋画じゃないが、ウチの集まりはそれこそ殺し屋の類じゃ無いぞ?」
「——それに俺の権限でそいつは決められねぇ……決めんのはリーダーのジェイ・
「これは宗家からの意向——今後あの小さな少女達に協力が必要とされた場合……お前さん達のマシンとそのテクで全面協力する——それが依頼内容だ。」
被せる様に繰り出された依頼とは、正しく守護宗家よりの意向を含む件——つまりは今世界を股にかけ、驚異と立ち向かう少女達への協力と言うの依頼内容。
——彼らの駆る任務車両〈高度にカスタマイズされたスポーツマシン〉によって……である。
地方とは言え……そこはかの
「……宗家からの依頼ならリーダーも動くだろう——もちろん依頼で受けた車両被害は宗家持ち……っていう条件は付いてんだよな?」
ニヤリとしたり顔を返すストリート上がり……抜け目が無いなと返す猛る警部——
展示区画へ車両を移動させる僅かの間——新たに少女達をバックアップする頼もしき大人達の画策が、また一つ……守護宗家の備えとなって組み込まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます