18.彼女のいなくなった世界

「どうして……あんなに元気だったのに……死ぬほど辛いことがあったなら、相談してくれればよかったのに……」

 少女が首を吊ってから数日が経過しても、依然彼女の部屋は生きていた頃と何も変わらなかった。娘が宙に浮いているのを見つけた母親はすぐさま119番通報したが、既に手遅れの状態だった。力の抜けた身体、苦しくてもがいたのであろう首元の引っかき傷。血の気が無くなった顔には、涙の跡がくっきりと残っていた。

 母親は“うちの子が自殺なんてするはずがない”と騒ぎ立てたが、警察の調査により、まもなく自殺であると断定された。“幸せ”とだけ書き遺した紙切れが発見されたが、その言葉の真意は誰にも分からなかった。

“Cくんと仲が良くてよく一緒にいた” “特に変わった様子はなかった”なにか気になることはなかったかと先生に聞かれた児童たちは皆そう口にした。

 この少女の死は時々テレビでも報道されたが、どの局のどのニュースキャスターも皆口を揃えてこう言うのだった。


「〇月×日、□□県で12歳の少女が自室で首を吊って亡くなっているのが発見された事件について、少女が通っていた小学校は『いじめ等のトラブルは何もなく、毎日元気に登校していた』と発表しており──」

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悪に制裁を。 愛佳 @furea0825

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