平凡な日々にさよならを

@apple0908

第1話

利用客がまばらな電車に彼女はいた。

地方によくある二両編成の電車の車窓からのどかな田園風景が広がる。


だが、彼女はそんな風景に背を向け片目にかかる前髪を鬱陶しいのか顔をしかめる。

ふと、持っていたハガキに視線を下ろす。

何故こうなってしまったのだろう……。


時は一ヶ月前に遡る。





「はぁ、疲れた」


深月は部屋に入るなり、背負っていたリュックを乱雑に置き、ぼやく。

N市内の私立高校に通う小山深月は期末テストが終わり夏休みを心待ちにしながら

ただ、平凡に暮らしていた。


いつもなら部屋着に着替え、スマホゲームにログインしている。

だが、今日はいつもと違った。

深月宛にハガキが来ていたからだ。

深月は何気なくハガキを見た。


差出人は小学生の時親友だった男の子の母親からだった。

懐かしい気持ちに浸ろうとした彼女だったが、すぐにそんな気持ちはなくなる。


そのハガキはその親友の死を告げるものだった。しかも、3年前に亡くなっていたのだ。


ハガキには今まで住所が分からず今まで連絡が遅れていたこと。

そして、深月に渡したい物があるから来てほしいという物だった。


すぐに向かいたかったが学校を欠席する訳にもいかず、夏休みを待つことにしたのだ。




そんな経緯があり、小学生時に代暮らしていたI市へ向かっていた。

母親をなんとか説得し、電車に飛び乗った。

親友の死の理由を知りたかったからだ。


I市は深月が暮らしているN市と比べ人口は少ない、所謂田舎だ。

深月は小学校卒業する2年間暮らしていた。

I市に向かう途中、あるネット記事を見つけた。


"T小学校に潜む幽霊の正体とは!?"


T小学校の文字が目に留まり、ふと記事をタップした。

T小学校は深月が通っていた学校だった。


記事の内容は、夜のT小学校には夜な夜な彷徨う男の子の霊が出るらしい。

そして、自分を見た人間に対しある問いをする……


"あ な た は 花 は 好 き ?"


男の子の霊の問いに"はい"と答えてはいけないらしい……。

ある時、噂を確かめに行った大学生の一人が遊び半分で問いに"はい"と答えた。


"ど ん な 花 が 好 き な の ?"


大学生は自分の好きな花を答えると目の前から煙の様に消えてしまったらしい。


そして、翌日無惨な遺体となって発見された。遺体の周りにはその大学生が答えた通りの花が敷き詰められていたとか。


そんな事件が後を経たず、T小学校は1年も前に廃校になり、今では近づく者はいない。



スマホをスリープにして溜め息をついた。

まさか、自分の通っていた小学校にそんな事件があってしかも廃校になっていたのだから……


そんな中、電車はI市の駅に到着した。

降りた途端、外の熱気がむわっと深月を襲った。改札を通り、男の子の家へ向かう。





男の子の家に来るのは何気に初めてだったが、家の前に母親らしき女性が立っているのですぐに分かった。

女性は自分の視界に入ったのか、駆け寄ってくる。


「深月ちゃんよね?五月の美代子です。暑かったでしょう、上がって」


彼女に促され、深月は家に上がる。

居間には五月の遺影が飾られた仏壇が待ち構えていた。


深月は線香をあげ、手を会わせる。

そして、美代子と向かい合う形で座った。


「あの、ハガキを見て驚きました。まさか、五月が亡くなっていたなんて……」


「連絡が遅れてしまって本当にごめんなさい。でも、深月ちゃんが引っ越してしまって住所が分からなかったから。

なんとか当時の担任の先生から聞いたの」


「……そうですか。それで、渡したい物って……」



美代子は一冊の本を取り出した。

その本は植物図鑑のだった。



「何故、私に?」


「その図鑑に五月が書いたメモがあったの。

この図鑑を深月ちゃんに渡したいって」


「五月が……亡くなる前にですか?」


「多分そうかもしれないわね」



図鑑を受け取り、家から出る頃には既に日は落ちかけていた。


「深月ちゃん、送っていくわ。最近、何かと物騒だから」


「いえ、大丈夫です。駅までそんなに遠くないので」


美代子と別れ、駅を目指して歩く。

だが、ふと足を止める。

小学校へ行くための分かれ道で足が止まった。ふと、頭にあのネット記事が浮かぶ。


駄目だ、真っ直ぐ帰らないと!

母親を心配させてはいけない。

そう言い聞かせていたが、好奇心からかつての自分が歩いていた道を歩く。




歩き始めて数分、小学校が見えてきた。

既に廃校となった校舎は寂しく、そして悲しく見える。


小学校の入り口には鎖で入るのを阻んでいる


「……そりゃ、入れる訳ないよね」



がっかりしながら引き返そうとすると……



「お前、この学校の関係者か?」


「ひゃあっ!」



驚いてすっとんきょうな声が出る。

恥ずかしさから声の方向を睨むと、声の主は、シャツとネクタイにコートを羽織った眼鏡の男性だった。



「昔、通っていただけです」


「そうか、じゃあ俺と来い」



深月は驚き瞬きを数回する。

何言ってるの、この人……。

誘拐にしては堂々過ぎないか?

そんな深月の心を読みきったかのように



「勘違いするな、俺は誘拐犯じゃない」


「じゃあ、なんなんですか」


「怪異の噂について調べている。知らないか、幽霊の噂」


「知っては……いますケド……」



深月は答えながらカタコトになる。

いきなり見ず知らず男性についてこいと言われたのだ。

反応に困るのは考えるまでもないだろう。



「お前の知りたいことも分かるかもしれない」


「え?」


その言葉に深月は釣られる。

ダメと分かってるのに、母親に心配かけてはいけないと分かっているのに……


その男性についていってしまった自分を恨む事になるのを深月はまだ知らない。

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