最後のホームルーム
無月兄
第1話
「卒業、おめでとう」
改めてその言葉を聞いて、これで本当に最後なんだと今更ながら思う。
卒業式も無事に終わり、このホームルームが終わった時、俺達はこの学校を去る。
教室の至るところから、すすり泣く声が聞こえてくる。いつもは早く終わってくれと思っていた先生の話が、今日だけはずっと続いてほしかった。
だけど、その時は思っていた以上に早くやってきた。
「俺からお前達に送る言葉はこれで全部だ。みんな、三年間ありがとな」
もう終わりかよ。早すぎだろ。時計を見ると、チャイムが鳴るまであと5分もある。
普段、先生の話は長かった。休み時間にまで延長するのだって珍しくなく、俺達はよく不満を言ったもんだ。なのにどうして、ずっと続いて欲しい今に限って、こんなに早く終わるんだよ。
そう思ったのは俺だけじゃなかったようだ。
「あの……もう終わりなんですか?」
誰かがおずおずと声をあげる。そうだ、いつもみたいに時間ギリギリまで話してくれよ。今日だけは延長したっていいから。
だけど先生は、少し困った顔で教室を見回した。
「今話したので、時間一杯使うつもりだったんだ。でもな、お前達が誰も騒がず黙って聞くもんだから、思ってたよりずっと早く終わったんだよ」
ああ、そう言えば先生は、休み時間まで授業を続けた時はいつも言ってたっけ。お前達が騒ぐせいで授業が遅れたんだぞって。
「と言うわけでだ。いつも騒いでいたお前達が、最後の最後真面目に話を聞いたご褒美だ。残りは自由時間にする。好きにしろ」
「「は?」」
クラス中が声をあげる。このタイミングでいきなり自由時間何て言われても困る。だが先生は言った。
「みんな、この教室で話ができるのもこれが最後なんだぞ。中には地元を離れる奴だっている。だから言いたいこと、やりたいことがあれば今のうちにやっとけ。騒いでもいい、俺が許す」
「先生……」
誰かが思わず声を漏らす。だが先生の言葉には続きがあった。
「って言っても、今の話のせいで時間はほとんど残ってないけどな」
「なんだよそれー」
「なにやってんだよー!」
さっきまでのしんみりした空気はどこへやら、あちこちでブーイングがおこる。
まったくこの先生は。だけど、お陰でいつものクラスの雰囲気が戻ってきたような気がした。
みんな口々に近くの席のやつと話始める。だがすぐに、その視線は再び先生の元へと集まっていった。
どうやら最後に言いたいことはみんな同じらしい。
静かになった教室で一人が、そしてそれに続いて、全員が声をあげた。
「先生、今まで、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!!」」
最後のホームルーム 無月兄 @tukuyomimutuki
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