宣伝するPPP

  「神は自らを助くる者を救うのよ!」


 プリンセスが、いつものようになにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。

 「じゃぱりまん?」

例によって人の話を聞いていないフルルが意味不明の返しをしている。

「だから、私たちはこれからせるふぷろもーしょんをやるの!」

プリンセスが大声で宣言する。

「せるふ・・・なんだって?」

「自分たちで宣伝をするっていうことよ。」

 なんだか厄介なことが始まりそうな予感がして思わず顔をしかめたが、プリンセスは気にもしていない。

「私たちもいよいよメジャーデビュー。なんでもかんでもマーゲイに任せていちゃダメなのよ。」

「俺たちで宣伝かー。頼るのは自分たちの力だけ。いいじゃねえか。ロックだぜ。」

イワビーはなぜか共感しているらしい。

「えっと、具体的には何をするんですか?」

ジェーンが首を傾げる。

「こほん。」

 プリンセスは軽く咳払いをして、後ろのホワイトボードに何かを書き始めた。

 《 ぴーぶい》

 書き終えたプリンセスは私たちの方に向き直った。

「まずは、ぴーぶいをつくるわよ!」

プリンセスが、あまり大きくない胸を張って言った。

「ぴーぶいって、なーに?」

どこかから取り出したじゃぱりまんをくわえたまま、フルルが言った。

「よく分からないけど、博士が言ってたのよ。私たちみたいなアイドルの宣伝方法のひとつなんだって。」

「てことは、そのよく分からないぴーぶいがなんなのか調べるところからっていうことか?」

私が尋ねると、プリンセスはこくり、とうなずいた。

「ぴーぶい、ぴーぶい・・・。聞いたことのない言葉ですけど、どういう意味なんでしょう。」

「ぴーってたしか、あれだよな。聞くに耐えない言葉にかぶせる音のこと。」

「あ、そういうの、放送禁止用語って言うんだよね。」

フルルのやつ、相変わらず変な言葉だけは詳しいらしい。

「なるほど。じゃあ、ぶいってなんだろうな。」

「ライブで私たちの後ろに映す映像のことを、マーゲイがぶいって呼んでるわよ。たしか、ぶいてぃーあーるの略だとか。」

「つまり、聞くに耐えない、放送禁止用語が満載のぶいを、私たちのライブで流すっていうことですか?」

ジェーンがきれいにまとめた。

 うん、きっとそういうこと・・・いや、なんか違う気がするけど、私たちの持てる知識を総動員するとそういうことになるらしい。

「放送禁止用語かー。何言ってもぴーになるんだろ。つまり、何言ってもいいってことだよなあ。」

イワビーが不敵な笑みを浮かべながら言った。

「よーし。おっぱい!」

イワビーが満面の笑みでなんか言ってる。

 言いながら視線を私の胸に向けるんじゃない!

「おっぱいですか。イワビーさん、その程度では放送禁止用語にはなりませんよ!」

ジェーンが諭す。いや、そういうツッコミは期待していないんだが。

「なんだよ、ジェーン。だったらお前がなんか言ってみろよー。放送禁止用語。」

「え、えーと・・・。」

ジェーンがモジモジしている。

 いや、そんな頑張って言わなくていいから。一応、ジェーンは正統派アイドルなんだから。

「せ、せっ○す!」

ジェーンが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「せっ○すって、なーに?」

フルルが無邪気に尋ねる。

 いや、私もよく知らないんだけどね。知らないったら知らない。

「せ、せっ○すっていうのは、ヒトが行う行為だって聞いたことがある。たしか、私たちの場合は、こ、交尾って言うんだ。何するかは、し、知らないんだけれども・・・。」

「へえー。コウテイ、詳しいねー。」

フルルが素直に感動している。

 バカ。交尾っていう言葉だけでだいぶ恥ずかしいんだからな。・・・すみません。本当は何するか知ってます。

「ムッツリドスケベペンギン・・・。」

まるで独り言のようにこっそりつぶやいているけど、聞こえてるからね。プリンセスさん。

「プリンセス、本当にこれがぴーぶいなのか?」

なんだかやけに疲れて、私はプリンセスに聞いた。

「私もなんか違う気がするわ。」

プリンセスも腕組みをして考えている。


 と、楽屋の入口がノックされた。

「久しぶりに来てみたら、やっぱり騒がしいのです。」

「大声でヒワイな言葉ばかり、頭がおかしくなったですか?」

扉を開けると、コノハ博士とミミちゃん助手が立っていた。

「あ、博士!・・・と助手。」

「まったく、私を博士のついでみたいに呼ばないでくださいです。ナメた態度だとぶっとばすですよ。」

「いやー、わりいわりい。ところでさ、博士、ぴーぶいについて、詳しく教えてくれねえかな?」

イワビーが馴れ馴れしく博士の肩に寄りかかる。

「ぴーぶい?ああ、PVのことですか。」

「Pはプロモーション、Vはビデオで、音楽の宣伝用に作られた映像のことをいうです。」

答えながら、博士と助手は楽屋の中に入ってきた。

「プリンセスがなにやらセルフプロモーションをやりたいなんて言うから、どうせうまくいってないだろうと思って、来てやったですよ。」

「案の定、頭からつまずいていたですね、博士。」

博士と助手はテーブルの上に置いてある水を勝手にうまそうに飲んでから言った。

「でも、これでぴーぶいの意味はわかったから、さっそくビデオを作るわよ!」

プリンセスがやたら張り切っている。

「ビデオの内容はどうするんだ?」

「やはり、私たちが歌っている様子を撮影することになるんでしょうか?」

「そんなありきたりな発想じゃダメよ、ジェーン。」

プリンセスが、勢いよくジェーンにダメ出しをした。

「す、すみません...」

 ジェーンは素直に引き下がったが、あー、あの顔は若干怒ってるぞ。ジェーンのやつ、意外とプライド高いからな。

 頑張れ、ジェーン。そして空気読め、プリンセス。

「じゃあ、私たちがずーっとじゃぱりまんを食べてるっていうのはどう?」

フルルが2個目のじゃぱりまんに手を伸ばしながら提案した。

「フルル、それお前がじゃぱりまん食べたいだけだろ。」

すかさずイワビーがツッコミを入れる。

「イワビーさんは、なにか案がありますか?」

ジェーンがイワビーに尋ねた。

「俺か?うーん、そうだなあ…。やっぱ、ノリと勢いが大事だと思うんだよなあ。」

イワビーは顎に手を当てて少し考え込む。

「あ、わかった!みんなでプロレスごっこしようぜ。」

「プロレスごっこ?」

「時々、楽屋でやってるじゃねーか。あれをカメラの前でやって、一番勝ったやつが最後のカットでセンターになれるんだ。」

イワビーは自信満々の様子で提案した。

「いやだ。」「いやよ。」「遠慮します。」「やだなー。」

ほかの4匹が同時に却下した。

「な、なんだよ、お前ら。ノリと勢いがあるし、見てるフレンズたちだって楽しいと思うぞ。」

「だって、イワビーさんのプロレスごっこはガチなんですもん。」

「この前、スリーパーホールドかけられた時に、お花畑が見えたよー。」

しょっちゅうイワビーのプロレスごっこの相手をしているジェーンとフルルが、実感のこもった口調で反論する。

「イワビー、遊ぶのはいいが、ほかのメンバーにケガさせないようにな。」

一応、リーダーとして注意しておく。

「へへ。ちゃんと手加減してるから、心配ねえって。」

イワビーは頭をかきながら、少し反省したような様子で言った。

「やはり野蛮で騒がしいアイドルたちなのです。博士。」

「まったくです。助手。」

 博士と助手がフルルの食べかけのじゃぱりまんを勝手に取って食べながらつぶやいた。

 ずいぶんくつろいでいるけれど、博士たちなにしに来たんだ。

「コウテイ、あなたもなにか案を出しなさいよ。」

 プリンセスがニコニコしながら私の方を向いた。

 うーん。困った。

「そうだなあ。私たちのライブ映像をバックに、それぞれの曲にまつわる話をするっていうのはどうかな。」

私はなんとなく思いついたことを言ってみた。

「オーディオコメンタリーって言うんだよね。」

またフルルが難しげな横文字を言い出した。賢いんだかおバカなんだかよく分からないやつだ。

「さすがコウテイね。なかなかおもしろそうじゃない。」

プリンセスも納得したらしい。

「おーし、じゃあ、そのオーディオなんとかってやつをやってみようぜ!」

イワビーのかけ声で、私たちは過去のライブ映像を見ながらコメントをすることにした。

 博士が使い方を発見したキラキラ光る円盤を機械にセットして、みんなで「てれび」の周りに集まる。


♪大空ドリーマー♪

プリンセス「デビュー当時に一番練習した曲よね。なんだか懐かしいわね。」

ジェーン「そうですね。」

コウテイ「ちょ、イワビー、画面がよく見えないからちょっとそっち詰めなさい。」

イワビー「お前があっちいけよー。」

フルル「わー、あったかーい」


♪ようこそジャパリパークへ♪

イワビー「この最後のあたりの『じゃぱりぱ、らららら』って、誰だよ。やる気なさすぎだろ。」

プリンセス「フルルじゃないの?」

フルル「いや、私じゃないよ。そのとき寝てたもの。」

イワビー「フルル、寝るなー!」

コウテイ「実は私だ。その、緊張してて、な。」

ジェーン「これはこれでいい味出してますけどね。」


♪ファーストペンギン♪

コウテイ「フォレイシングダイブって、なんだろうな。」

プリンセス「ほら、あれよ。一気に潜るやつ。ジェーンがよくやってるじゃない。」

ジェーン「いや、私だけじゃなくて、みなさんやりますよね。」

フルル「ジェーン、相変わらず水の中では速いよねー。」

イワビー「俺は水中よりも、陸を飛び跳ねるほうが好きなんだけどな。」


♪PPPのドレミの歌♪

イワビー「いやー、この曲ノリが良くて好きなんだけどさ、動きが激しいよな。(最年長にはきついぜ...)」

プリンセス「『金曜 週末 プリンセス』って、なんか私だけ歌詞が雑な気がするのよね。」

フルル「えー。私なんて、ブルーなんだよ。」

コウテイ「私なんか、アガッてるね、だぞ。」

ジェーン「『水曜 ジェーン かわいいね』...ふふふ。」


 一通りのライブ映像を見終わった。

「こんなので、PVになるのかな。」

「・・・」

 私の疑問に誰も何も答えなかった。

 過去のライブ映像を見るのは楽しかったけれど、これで宣伝になっているかというと、・・・うん。なってないな。

「まったく、お前たちは見てられないのです。」

「まあ、こいつらが頭を使ってもこの程度だということは分かっていたですよ、博士。」

 私たちがライブ映像を見ている間、楽屋にある飲み物と食べ物を食べ飲み散らかしていた博士と助手が言った。

 あ、私の分のじゃぱりまんも食べられてる。

「なんだよ、博士。文句があるなら、博士たちもなんかいい案出してくれよ。」

イワビーが言った。

「案どころか、とっくにお前たちのPVは完成しているですよ。」

 博士がそう言うと、助手がおもむろに席を立って、キラキラ光る円盤を取り出して機械にセットした。


 それは、私たちの新曲のイントロから始まった。

 マーゲイが出てきて、今度リリースするアルバムの中の曲目を1曲ずつ解説していく。

 15分弱の映像だけど、退屈することはなかった。

 そして、映像の最後には、きちんとリリースイベントの告知も行っている。

 これが、プロの仕事か。


 「すごいじゃない、博士。私、こういうのを待っていたのよ。」

「ああ、本当に素晴らしい映像だな。」

「なかなかイケてるじゃねえか。」

「すごいです!」

「後ろの絵のじゃぱりまん、おいしそうだったなー。」

みんなが口々に賞賛の言葉を述べる。

「我々は賢いので、これくらいは当たり前なのです。お前たちはセルフプロモーションなんかやってないで、せいぜい練習に励むですよ。」

「では、行きますか、博士。」

「行きますか。助手。」

 それだけ言うと、博士と助手は楽屋を出ていった。


「なんだか、博士と助手に全部持ってかれたけれど、やっぱり私たちは歌と踊りで魅せてこそのアイドルよ。」

プリンセスが腕を組んでしきりにうなずきながら言った。

「セルフプロモーションって、プリンセスが言い出したんだろうが。」

イワビーが茶々を入れる。

「そんな昔のことは忘れたわ。さあ、みんな、気合い入れて練習始めるわよ!!」

「「「「おーー!」」」」

私たちは練習場へと向かった。


 フレンズにはそれぞれ得意、不得意がある。

 マーゲイや博士、助手。頼れる仲間は頼っていいんだ。

 私たちPPPにできることは、会場に来てくれるお客さん達のために一生懸命練習することだけ。

 みんなの期待を裏切らないように、さあ、練習を頑張るか。


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PPPの一存 のぶ @panyoas

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