恋人でいる最後の時間

無月弟(無月蒼)

恋人でいる最後の時間

 私には、和人という名の彼氏がいる。

 優しくて、格好良くて。私には勿体無いくらいの、出来た男だ。

 和人が恋人であることが、私の自慢……自慢だった。だけどもうすぐ、その関係も終わる。その時まで、後五分と言ったところだろうか。


 部屋の中にいるのは、私と和人の二人だけ。

 は、ついにこの日が来たのかと思いながら、ざわざわとする胸を抑える。


 幼い頃から、ずっと和人の事が好きだった。

 出会ったのは小学生の頃。それから中学高校と一緒で、私も彼も、お互いのことをとても大事に想っていた。

 初めてキスをしたのは、中学の頃だっけ。今となっては、遠い思い出だ。


 関係がギクシャクし始めたのは、和人が遠くの大学に進学して、距離ができてから。中々会う事が出来ずに、抑えきれない気持ちは、電話だけでは全然満たされなくて。

 二人とも働き始めてからは、もっと時間が合わなくなって。衝突する事も多くなって……


「泣いているの?」

「ううん、何でもない」


 ……嫌な事を思い出すのは止めよう。この瞬間は、笑顔でいたい。


「もう時間だね」

「そうだな。行こうか、桜」


 名前を呼ばれるだけで、また胸がキュンとする。ああ、この人と恋人でいられて、本当に良かった。


 そうして私達は、二人して部屋を出て……




「おめでとー、二人ともーっ!」

「桜ー、素敵よーっ!」


 そこで待っていたのは、私達を祝福するために集まってくれた、沢山の人達。それを見てまた涙が出そうになったけど、それだと化粧が台無しになってしまう。

 頑張って堪えながら、隣に立つ和人を見る。


「ありがとう、私を選んでくれて。会えない日が続いてた頃は不安でしょうが無かったけど、いきなりプロポーズされた時はビックリしたわ」

「いつまでも遠距離だと、俺の方が参るからね。喧嘩するのはもうこりごりだ。これからは、ずっと一緒だよ」

「ふふっ、そうね」


 私達は笑い合いながら、花道を歩いていく。


 来てくれたみんな、本当にありがとう。私達今日から、恋人をやめて夫婦になります!

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恋人でいる最後の時間 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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