伝えられないこの気持ち

無月弟(無月蒼)

伝えられないこの気持ち

「ナツ、片付けは終わった?」

「終わったよ。残ってる物は無いよな?ハル、よく忘れ物するからなあ」

「今日は大丈夫よ。最後くらいは、ビシッと決めるって」


 そう、今日は最後の部活の日。

 我が美術部は、私とナツの二人だけと言う少人数で活動していた。

 だけどもう三年生。いつまでも続けるわけにはいかなくて、今日の後片付けを最後に、私達は引退する。


 片付けは終わった訳だけど、何だか帰る気にもなれなくて。美術室に二人残っている。二人きりで……


「やっぱり、名残惜しいな。この三年で、ハルは随分絵が上手くなったよな」

「ナツは最初、私の犬の絵を見て馬だって笑ってたっけ?」

「笑ってない。よく描けた馬だって、素直に誉めたつもりだったんだよ」

「うるさい!あの時は凄く傷ついたんだからね!」


 だけどその事が悔しくて。必死になって絵に打ち込んだお陰で、今ではそこそこ上手くなったと思う。ナツもよく、指導してくれたし。


「ナツ……」

「何?」

「ごめん、何でもない」


 そう返して、ため息をつく。

 いつからだろう?ナツの事を好きになっていたのは?

 最初は、見返してやりたいって思ってただけだった。だけど一緒にいる時間が増えるにつれ、ナツの良い所が目に映るようになって。


 だけど、一緒にいられるのも後5分くらいか。下校のチャイムが鳴ったら、そこで部活もおしまい。クラスの違う私達は、会うことも少なくなるだろう。


 それはやっぱり、悲しくて。せめて最後に、胸の奥の気持ちを、ナツに告げようかとも思った。でも……


 言えない。言えないよ。

 もし言ってしまったら、もう元の関係には戻れないんだもん。これが最後のチャイムかもしれないって分かってるのに、そう考えるとどうしても後一歩が踏み出せない。


「ねえ、ナツは進学しても、絵は続けるの?」

「たぶん、ね。ハルはどうするんだ?」

「勿論続けるわよ。見なさい、すっごく上手になって、いつか驚かせてあげるんだから」

「ははっ、それは楽しみにしてるよ」

「もおーっ、信じてないなー!」


 こんな風に何でもないような事なら話せるのに、一番大事な事は言うことができない。私って本当に、意気地無しだ。

 そしてついに、幸せだった時間に終わりを告げるチャイムが鳴る。


 キーンコーンカーンコーン


 スピーカーから聞こえてくるチャイムを聞きながら、私はそっと唇を動かす。


「ナツ、アナタの事が好きです」


 小さく呟いた素直な気持ち。だけどそれはチャイムの音にかき消され、ナツには届いていないだろう。


 結局臆病な私は、最後まで想いを告げることが出来なかった。

 サヨナラ、楽しかった時間。ごめんね、私のこの想い。


 もしもほんの少しの勇気が出せたなら、ちゃんと伝えることが出来たのだろうか……




























「あ、俺もハルのこと好きだから」

「聞こえてたんかい!」


                            完

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伝えられないこの気持ち 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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