氷山を赤く染めて

以星 大悟(旧・咖喱家)

氷山を赤く染めて

 ぐるぐる、とそれは回っている。

 一回りする度に細かく削られた氷が冬の雪山の様に積もって行く。

 真っ白な新雪の様な氷はぐるぐる、と回る度に山がどんどん高くなる。

 その光景を少女はじっと見ていた。


「いや、やりづれーから!大人しく待ってろ!」

「あい……」


 椋原むくはら 五角ごかくは夏祭りの練習と称して父親により叔父が経営する海の家の手伝いに行かされていた。

 目の前には同じ理由で働く事になった同級生の河瀬かわせ 弥生やよいがかき氷を作る練習をしている五角が積もらせていく氷の山を凝視していた。

 まだ不慣れな所為か不格好な山が形成されていた。


「ゴっちゃん、不器用だね」

「すんません、叔父さん」

「いいのよいいのよ、何事も最初から上手く行かない物よ、大切なのは一歩ずつ前に進む事よ」


 とても野太い声で女性の様に丁寧に喋る叔父の権次郎は上手く行かず落ち込む五角を励ます。

 まだ海水浴に来る客はおらず暇な時間が多い事から五角と弥生の二人に色々な研修を丁寧に行う権次郎は器用だけど体力の無い弥生と、体力は人の倍以上あるが不器用な五角を見て思う。


(苦手な事を必要以上に意識させちゃダメね、出来る事で自信を持たせた後に苦手な事を克服させましょう)


 そう結論付ける。

 ただ五角も弥生も根っからの真面目人間な為か苦手な事を苦手なままにしていられない気質から、二人揃って苦手な事を克服さしようと必死で結果として弥生は暑さに負けて倒れ、五角は満足にかき氷が作れずにいた。


「まあ、根を詰め過ぎないようにね、あたしはちょっと出かけて来るから、シロップは好きに使ってね」


 権次郎はそう言って何処かへと出かけて行く。

 残された二人は黙々と練習と体力の回復に勤しむ。


「五角、何時になったら出来るの?」

「待ってろ!今度こそ!今度こそ!」


 かき氷の催促をする弥生に対して五角は慎重に機械を操作しながら言う。

 何度も失敗を重ねやっとコツを掴み始めた五角は確かな確信と共に氷の山を築いていく。

 発泡スチロールではなく叔父のこだわりで硝子で出来た少し無骨な器に先程までの不格好な今にも雪崩を起こしそうだった山とは違い、エベレストの様なしっかりとした氷の山が築かれる。

 

 真っ白な氷の山がガラスの器の上に完成する。


「どうだ!出来たぞ!」

「おおぉ、やっとだ……」


 弥生は待ち侘びた氷の山を見て砂漠で何日も水を飲んでいなかった者がオアシスと出会った時の様な表情を浮かべる。


「おし、んで何味する?」

「いちご、練乳はいらない」

「分かった」


 五角はシロップを掛ける用の匙でイチゴ味の赤色の綺麗なシロップを掬う。

 そして真っ白な氷の山の頂上から掛けて行く。


 氷山を赤く染めて、かき氷は完成する。

 

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氷山を赤く染めて 以星 大悟(旧・咖喱家) @karixiotoko

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