かしこ!1000%!!

クマクマ=ノブノブ

宇宙、それは母なる世界

ある夜。

俺は自室のベットで寝転がって、〇ノ美兎と配信を見ながらくつろいでいた。

「委員長めちゃ歌上手いやーん」


 ――ひゅるる――


金曜日、一週間の学校が終わった開放感でいつも以上にだらけてしまっていて、もう夜中の二時を過ぎようとしていた。

「うっわ、もうこんな時間かよ、寝なきゃ。明日は竹内〇真と遊びに行く予定だしなー」


 ――ひゅるるるるる――


スマホを消し、布団をかぶり、部屋の明かりを消そうとして、はたと気づく。

「ん、何だこの音……」

 

 ――ひゅるるるるるるるるっっっ‼‼


落下音のようなものがする。

「な、ん、は? 飛行機でも落ちてくんのか⁉」

 徐々に大きくなる落下音。飛行機か隕石かと窓に飛びついてみてみると、そこには――


視界に飛び込んできたのは、半球状にへこんだ道路と、その中心に佇む一つの人影だった。こんな衝撃なのに、その人影には傷一つ見られない。

あまりに突然なことで呆然と立ち尽くしていると、その人影はゆっくりと俺の家へと歩んできた。

完全にストップしていた思考回路を呼び戻し、体に鞭打って玄関へ急ぐ。

ドアを開けたその先に立っていたのは、先ほどの人影の正体――一人の少女だった。


「すみませんが、お肉をください」

は?

「お肉をください。失礼しました。私はチョココロネです。あ、違いましたクリームパンです。宇宙から来ましたが、先ほどの落下の衝撃で身体が少々欠損しました。補てんのために動物性タンパク質、要するにお肉が欲しいのです、かしこ」


くりかえすが……は?

半壊した宇宙船(にわかには信じられないが)と、頭にチー……、失礼。あまりにも現実離れしている少女に容貌に脳が理解を拒んだ。ゆっくり、一つずつ、説明すると。

彼女は、頭の上に巨大なチョココロネ(少し破けてチョコが零れている)を被り、手にクロワッサンらしき銃を持って(撃てるのか⁉)いて宇宙服のようなぴっちりスーツを着込んだ、見た目年齢16才のコスプレガチ勢ヤバイ系少女だ。

「で、くれるのですか、くれないのですか、かしこ」

さっきから表情が何一つ変わっていない。言動はこれ以上ないほどに変わっているけど。

「肉って、何でもいいのか?」

「なんですか、説明が必要なのですか?動物性タンパク質が十分に補給できるお肉を用意しろと言っただけでは自分が何をすればいいのかろくに理解も出来ない機体なのですかあなたは。とんだ無能ですね、恥さらしですね、もういいです、あなたがお肉を隠しているのは分かりきっています。強行突破させていただきます。かしこ」


やむを得ないだろう。俺は即座に決断した。異星人を自宅にあげるよりかは、遥かにマシだ。だいたいホラー映画では逆らった奴が死ぬ。俺は詳しいんだ。

リビングに戻る。冷蔵庫のステーキ肉をひっつかむ。50ポンド。美味しい(予定)。

「ほれ、これでいいのか」

「おお、これは松坂牛……」

 違うんだけどね。スーパーで買ったやつなんだけどね。


「じゅるり……私は調理を希望します。この星の科学技術はゴミク……失礼、私の星の幼稚園児レベルですが、娯楽と料理については全宇宙でトップクラスと聞きます。はやく、はやく調理を。さもなくば、実力行使をします!かしこ!」

「まてまてまて、さっきので味をしめんな!まず、俺に説明をしろ!今どきの宇宙人はそんなマナーがなってないんですかぃ?」

そんな俺の訴えには一切耳を傾けず、ずかずかと家に上がっていく。今更ながらにやばいやつに絡まれたと思う。

止めようと彼女のあとを追うと、彼女の背中にある違和感に目が行く。

そこにあるのは、人間にはあるはずのないコンセントの挿し口。飾りかと疑ったが、その部分だけスーツが切り取られているので服の飾りではないとすぐに気づく。


「なぁ、お前、本当に人間じゃないのか?」


 少しばかりシリアスな気分になったが、それはあっさりと宇宙の彼方に蹴り飛ばされた。

「は? ああ、これですか。ファッションですよ、ファッション。ナウでイケイケでウェイウェイな感じでしょう、かしこ」

 もういいや、諦めていこう。ここからは脳のリソースを10パーセントにしてお送りします。

「それでは、三分クッキングのお時間です。それではフライパンにワインを投入」

 じゅわ。

「一気に強火にします」

 ぼわー。

「そして肉をどーん」

 ぼわわわーーー。

「ひっくり返します」

 ぺたり。いやぐしゃり。

「完成です、かしこ」

 見事な消し炭であった。

「うん、イケイケですね。ジューシーですね。完璧なウェルダンです、かしこ」

「もうウェルダンってレベルじゃないけどね、炭素だけどね」

「ははははは………………かしこ?」

 少女、フライパンを見る。

 炭素の塊と化した牛肉(100グラム400円税込み)

「わお、かしこ」

「お分かりになられた?」


「はい、これではタンパク質の摂取は無理ですね。仕方がないのでメロンパン買って帰ることにしますかしこ」

 すたこらと玄関に一直線に出ていくチョココロネ――改めクリームパン(?)。

 え?俺はこのイケイケジューシーで美味しそうな炭素と、数えきれない疑問と、この言葉にできない胸のモヤモヤをどうすればいいの?

キミ帰るの?このまま?なんで?そもそもキミなんなの?

「…………かしこ」

 ちょっとムカついたので軽くちょっかいを出してみることにした。俺は羞恥心を殺しクリームパンの背中に声をかける。

「貴様、無礼だぞ!この俺を誰と心得る!宇宙管理機構組織委員会アースの執行実働部隊リーダーでありこの地球に特務で潜入しているジョージ・ワシントンであるぞ!」

「…………かしこ」

彼女は俺の顔と地面とを交互に見つめ、気持ちを整理するように一つ溜息を付くと、俺に冷たい視線を向けた。

「自分から身分を名乗るとか馬鹿ですか?本当に"かしこ"されたいんですか?かしこ」

そう言って手に持っている銃を突きつけてくる。


「おいおい、そんな見せかけのチャカもどきで俺を脅そうってのかい?ダメダメだな君ィ。強盗のやり方から学び直すこったな!」

そう言い放つと、彼女は一層冷徹な、残酷な顔つきになる。

「やってみろよ、ヘイヘイ」

「ええでは、死になさい、かしこ」

 クリームパン(だっけか)がトリガーに指をかける。眼が完全に本気に変わる。

 え、マジなんですか。

「さようなら、異星人。あとで美味しいジャムパンのお店教えてください、かしこ」

「え、お前さっきメロンパンって言った――」

 その言葉を最後まで言い切ることは出来なかった。

 クロワッサンの銃口に光が収束し、そして。

 


 バターが、ジャムが、メロンが噴出した。


「…………」

「………………」

「え、何で死なないですか!?かしこ!?」

「死なねえよ!?というかこれ誰が片づけるの!?ねえ!!!!!」

 そんなわけで、クリームパン(本名、九重パン)との馴れ初め話でした。

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