VARIANT~変身ヒーローチーム~

こたろうくん

その人たちは――

 その人は長い黒髪を靡かせて僕の前へと現れた。とても白い肌、可愛いような、綺麗なような、これから大人へと変わる境に居るその人は決して臆する事無く前へ、前へ。


 相手は強大なバケモノ。巨大なその拳がその人を狙い、迫る。危ないと、逃げてと、けれど僕の口は何も動いて発してはくれなかった。砕けた腰も、付いた両手も動かない。僕はその人の背中を見詰め続けるだけ。


 切れ長な目に浮かぶ鋭い視線を僕は忘れられず、眼鏡を両手で上げる仕草も印象的だった。こんな状況であるにも関わらず、僕はその人のそんな所ばかり見ている。覚えている。広がる黒髪や、ふわりと舞い上がるスカート。そことニーソックスの境に見えた肌。


 そんな所ばかり、どうしようもない僕は見てしまっていたけれど、その人は駆け出していた。その拳へと向けて。どうしてあんなことが出来るのだろうか、僕には分からない。怖くはないの? 勝ち目なんか無いよ。それともあるというの?


 僕はその答えをすぐに知る。その人が突き出した、バケモノの拳に比べればほんの米粒みたいな小さな拳。その人は飛び出してバケモノの拳をそれで迎え撃った。敵いっこない。そう思った。


 僕が恐怖のあまり可笑しなものを見たのでないというのなら、その人の拳は、拳だけでは無く腕までも筋肉の塊に覆われていた。ピンク色の束と白い筋が折り重なり合い出来上がって行く巨大な腕は、バケモノを簡単に吹き飛ばしてしまっていた。


 まるで不釣り合い、似合いもしていない。その人の腕は確かにそうあれは、そうだ、まるでゴリラの腕そのものだった。ただ、昔動物園で見た事のあるそれと比べると、ずっと大きい。


 その人は灰色の体表と黒い体毛に覆われた巨大なゴリラの腕を掲げながら、きりりとした表情でバケモノたちを睨み見た。気がした。


 そして気が付くと僕の目の前にはその人とは別に二人、その人と並んで別の二人の背中があった。一人は女の人の様、もう一人は僕と同じくらいに思える男の人の背中、だと思う。


 もう大丈夫だよ。安心して。


 やっぱり男の人は僕に向けてそんな風なことを言ったように思う。見せた横顔は笑っていた。間違いない、笑っていた。それを見て僕はすごく安心したんだ。そうだ、あの人たちがそうなんだって分かったからだと思う。


 動物や、ドラゴンに変身する力を持ったその人たちはバリアント。悪と戦う、まるで映画のスーパーヒーローみたいな人たちだ。

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