召喚者を泣かせたい

もおち

第1話

「帰りたい」


 それが説明を聞き終えた彼女の第一声だった。

 

「も、もう一度、仰っていただけますか?」

「帰りたい」

「なぜですか!? この世界の危機なのですよ!」

「じゃあ言うけど、私の都合、考えてくれたの?」

「あなたの都合なんて、この世界の危機に比べたら小さいものでしょう!」


 彼女ははあと大きなため息をつくと、唾でも吐くかのように言います。

 

「これだから、異世界召喚なんて嫌いなんだよ。人権無視も甚だしくて」

「そ、そんな言い方!」

「異世界からの召喚者を、神子だ勇者だ英雄だ、って崇め奉って、責任全部押し付けて。他力本願もいいとこ」


 そうじゃない、と言わんばかりに視線を僕に向けました。

 僕は、何も言えませんでした。彼女の言ったことが、すべて正しかったからです。

 でも、だけど。


「だってもうこれしか手がないんだ! 他の世界の人の力を借りるしかないんだ!」


 僕は叫んだ。怒鳴るように、叫んだ。

 

「僕たちだって、自分たちだけで頑張りたかった! でも、もう、無理なんだよぉ!」


 僕は彼女にすがった。泣きながら、異国の服を掴んだ。


「お願いだから、助けてよ! 僕たちを、助けてよ!!」


 泣き叫ぶ僕に、彼女は何も言わなかった。ただ僕を見下ろして、見慣れない黒い瞳に僕を映している。

 そして、その薄い唇を開いた。


「別に、助けないとは言ってないでしょ」


 彼女はそう、確かに言った。

  

「ただ文句を言っただけ。学級委員長とかそういうの嫌いだから」


 それから、にかっと笑った。


「それじゃあ、さっさと、世界を救いましょうかね」


 心強いその笑顔に、僕は大きく頷いた。

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召喚者を泣かせたい もおち @Sakaki_Akira

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