第2話
———— 何も出来ない無能な自分が嫌になる。
嫌で嫌で自分自身の事が大嫌いになってしまう。
そんな自分を変えたくて、私は、英雄になった。
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「……へぇ。これが英雄の誕生秘話って奴か。成る程な。」
「おいこの馬鹿リシア。」
「あ?誰が馬鹿だと?私はかの有名な英雄、リシアの生まれ変わりだぞ!?それを馬鹿呼ばわりとは……どういう神経しているんだ。」
実の所、私、リシアの名は、前世と同じなのだ。
前世が英雄だった私は、世界中でその名が知れ渡っていた。そして、今でも語り継がれている程の英雄ぶり。
何というか……
「流石私って感じだな。」
「はぁ?何言ってんだ。」
呆れ、莫迦にした口調で肩を竦める眷属のシノアを軽く叩く。
「いやだから、私の名だよ。世界中に知れ渡っているだろう?矢張り、世界を救った英雄だっただけあるよなぁ、とおもってな。」
「あ?あー、まぁ、今でもリシアって名はポピュラーだしな。前世のお前は確かに凄ぇ事はしてたよ。」
「だよなー!流石私だ!」
「あぁ。前世のお前は凄かったよ。前世のお前はな。」
「何で前世のお前って所だけ強調するんだ!」
「だって今のお前は未だ何もしてねぇだろ?!毎日毎日寝坊三昧で英雄の影も形もねぇじゃねぇか!」
「待て!いくら英雄でもな、勝てないモノがあるんだ!私にとって、それは睡魔だ!私は確かに、世界中のどの魔物より強かったがな、睡魔にだけは勝てないんだ!」
「は?とんだ英雄だな。睡魔に勝てねぇなんざ、笑わせやがる。つーか、お前は今、英雄じゃねぇだろ。元英雄じゃねぇか。」
「むっ。そ……それを言うならシノアだって……天から舞い降りた神聖な神獣だったのは、昔の話だろ?人の事言えないだろ!」
「あ、あの……リシア……?」
「…?あっ!ゆ、ユア……!」
「おはよう……待った?」
「あぁ……そうでもなかったぞ。」
「そ……そう。良かった。」
ふわりと可愛らしく微笑むユア。
彼女は、私の、たった1人の親友。
私の前世の話を、信じてくれる、唯一の魔術師。
シノアは信じてくれはするが、人ではなく、獣だからな。
「おはようシノア様。」
「あぁ。おはようユア。今日も礼儀正しい様で結構結構。」
神獣だからとうやうやしく挨拶をするユアに、さも当然とばかりに鷹揚に頷くシノア。
「シノア。調子に乗るなよ?それにユア。こいつが神聖だったのは昔の話だ。今はそんなに敬う必要は無い。」
「うん、お前はもっと俺を敬うべきだと思うがな。」
「そ、そうだよリシア。天罰下るよ……?」
(……何故ユアはこんなにもシノアに礼儀正しく接するんだ?……いや、ユアだけではない。他の魔術師も、シノアを何処か敬遠している。何故だ……?)
「そんな物、ある訳ないだろう?それに万が一、そうなったとして、私は元英雄だ。私は此れ迄、幾ら礼を尽くされたって、余りある程に自らを貢献してきた筈だ。だろう?」
「まぁ……そうかも知れないけど……。」
「……チッ。コイツに手を出すと俺でさえ上に何言われるかわからねぇからなぁ。はぁ……。どうにかしてくれよ、ユア。」
「え、えっと、し、シノア様が言うのなら、一応、注意ぐらいなら……?」
「あぁ。頼んだぜ?」
「は、はい。が、頑張ります……。」
「……先刻から聞いていたが……2人とも失礼過ぎないか?」
「へーへー。悪かったですねぇー。」
「……うっざ。」
「あ?」
(はっ……!つい、本音が……。)
「そうだ。なぁ、ユア。」
「な、何?」
「どうしてわたしには、ユア以外の友達が出来ないんだ?」
「えっ!えっと……それは……あの、り、リシアはさ、話し方がさ、ほかの人と違うから……それに、私のほかにも、友達なら居ると思うよ……?」
「え?ユアの他の友達……?いたか?そんなの。」
「おいシノア。私に謝れ。私は仮にもこの世の英雄様だぞ?」
「じゃあお前、心当たりあるのかよ。」
「んー……まさか、シノアの事言ってるのか?」
「はぁ?そうなのかユア。俺とこいつは友達などではないぞ。」
「こいつとはなんだこいつとは!」
「うるさい!リシアなんか、こいつで十分だ!」
「あ、あの、2人とも落ち着いて……!シノア様のことじゃないから……!」
「「じゃあ誰だ?」」
2人同時に首を傾げる。
「しゅ、シュウくん……」
「シュウが?」
「あ?あの無礼な莫迦魔術師が?」
「シノア、心から同意しよう。ユア、シュウだけはありえないぞ?」
「おーい!お前ら集まって何やってるんだ?おれもまぜろ!」
背後からかけられた、聞き覚えのある声に全員思わずため息しながら振り返った。
転生者は返り咲きたい。 紅李凛 @da1205
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