第4話


 七日目のお昼ごろ。俺は、一軒の住宅に足を踏み入れた。稼いでお金で建てていたんだろうか、門が付いている立派な建物だった。表札に<窪川>と書かれていた。

 インターホンを押して、少し待っていたら、返事がきた。

「はい。」

「霊能者の窪川蛙貴彦さんですか?」

「どちら様ですか?」

「昨日、電話で依頼したものです。折り入って話を聞いて欲しいのです。」

「…わかりました。入ってください。」

 俺は言われたとおりに、門を開けて屋敷に行った。庭は草ぼうぼうだった。

 屋敷に着くと、ドアが開き住人らしき人が出てきた。四十か五十代ぐらいの中年男だった。

「どうぞ。」

「失礼します。」

 男に居間に案内され、椅子に座った。家の中はゴミで散らかっていた。

「窪川蛙貴彦さんですね。」

「……。」

「どうしたんですか?」

「い、いえ。はい、私が窪川蛙貴彦です。」

「じつは、聞きたいことがありまして。」

「その前に、なぜ私の住所と電話番号を知っているのですか?」

「住所と電話番号ですか?。」

「ええ。」

「あなたが出ていたテレビ局と雑誌の出版社を訊ねたのです。」

「テレビ局?わざわざ、そんな所まで行ったのですか?」

「はい、そうです。」

「そうですって…。私がテレビや雑誌に出ていたのは、三年前までなんですよ。今さら、私に依頼だなんて…。」

「あなたが霊能者だと聞いたので、ここまで来たのです。」

「いや、それは…。」

「私は、そういうテレビ番組を視ていませんし、オカルト雑誌も読んでいません。でも、聞いた話では、あなたは霊視して解決したと言われているのですよ。」

「ま、まって…。」

「じつは私、あるマンションに引っ越したんです。で、近所の人に話を聞いたのです。『あなたが住んでいるのは幽霊マンションだ。』と、これがそのマンションです。」

 俺はそう言って懐からマンションが写ってる写真を出した。

「!」

 写真を見た窪川の顔が引きつった。

「どうしたのですか?」

「このマンションは?」

「だから、私が住んでいるマンションです。」

「どうして…?」

「さらに、聞いたのです。このマンションの402号室に住んでいた子供が頭が痛いと訴えたのです。噂では、前に住んでいた大学生が首つり自殺したと言うのだから、その幽霊の仕業ではないかと。」

「!」

「?」

「あ、あの。アナタは、その402号室に住んでいるのですか?」

「いいえ、ちがいます。」

「……。」

「私は念のため、他の人たちにも話を聞いてもらったのです。そうしたら、ビックリしました。たしかに、前に住んでいた人は亡くなったのですが、首つり自殺じゃなくて心筋梗塞でした。それにその人は、大学生でもなかったのです。ある事業主の息子で、酒癖が悪く、問題を起こしていたらしいのです。で、父親である事業主に勘当されて、そこに住んでいたらしいのです。」

「……。」

「……。」

「…そ、そうなんですか?」

「ええ。私はまだ、怪奇現象には遭遇していませんが、あなたに除霊もらおうと来たのです。」

「そ、その…私は…。」

「どうしたのですか?聞いた話では、心霊スポットや心霊写真、怪奇映像を霊視して活躍していたのではないのですか?」

「うっ。」

「うなされてますね。霊でも視えたのですか?」

「ち、ちがう!」

「何が、ちがうのです?」

「わっ、私は霊能者じゃない!それに、そのマンションは五年前、テレビに出て採り上げた所だ!」

「ああ、知ってるよ。」

「えっ?」

「五年前、あのマンションがテレビ番組に採り上げられていた。そして、あんたが出ていたのもな。」

「なっ!」

「あの時、あんたは『この部屋には、成績を苦にして首つり自殺した大学生が居る。』と、言っていた。ところが、探偵に調べてもらったら、大企業の社長のバカ息子だったんで、笑っちゃったよ。ふつう、こういうの詐欺罪で訴えられるのに、向こうは訴えもしなかったんだってよ。どうやら、そのバカ息子は親父の会社の金を奪って、遊びやギャンブルに使ったらしい。それで、親父はソイツを追い出したらしい。まあ、恥ずかしくて表沙汰にされたくはないよな。」

「……。」

「……。」

 俺は、窪川を睨んだ。

「何だ、私を詐欺罪で訴えるのか?」

「いや、名誉毀損だ。言っとくけど、俺がマンションに住んでるのはホントだ。」

「損害賠償か?残念だが、そんな金は持ってない。霊能者は、一昨年に廃業した。」

「ああ、それも情報屋に調べてもらった。この家の散かり様を見たらわかるよ。ホントは、あんたの鼻をへし折りたかったが、とっくの昔に折れてたみたいだな。まあ、あんたが霊能者だったら、俺の周りに何か見えたはずだ。」

「えっ?」

「見えるか?」

「な、何がだよ?」

「よし、見えないんだな。よかったな。もし見えたら、あんたの命がヤバイんだよ。」

「それは脅しか?」

「違う、警告だ。俺には見えないんだけど、ケッタイなモンが憑りついてるんだ。ソイツが見えたヤツは、死んでしまったよ。」

「何だそれ。ふざけるのも、いいかげんにし…うっ、うわぁー!」

 窪川は悲鳴をあげて、腰を抜かした。

「なっ、何だそれは?」

「!」

「ア、アンタの後ろにいるのは何だ?」

「どうやら見えたようだな。あんた、危ないぞ。」

「なっ?」

「さっき、言っただろ?見えるようになったら、命がヤバイと。」

「…私は死ぬのか?」

「死んだヤツもいたし、死ななかったヤツもいた。死にたくなかったら一緒に来い!ここで死ぬよりかはマシだぞ。」

「……。」

「どうした?」

「……。」

「信じられないか?」

「…だ、大丈夫なんだな?アンタに付いて行ったら、死なないんだな?」

「保証はない。だが、可能性を賭けてみろ。まあ、どうするかは、あんた次第だ。」

「……。」

「どうなんだ?」

「…わ、わかった。アンタに賭けよう。死ぬよりかはマシだ。」

「よし、成立だ。」


「と、言うわけだ。ここで預けてくれ。」

「おっ、オマエなあ!」

 俺は窪川を寮に連れてきた。そして、管理人はお約束どうりに怒っていた。

「コイツの命が危ないんだ。上に連絡したら、ちゃんと承諾してくれた。だから頼む。」

「あのなあ…。でも、上が認めたのなら、しかたないか。」

「おお、たまには理解してくれるとは。嬉しいね。」

「いいかげんにしろ!」

 何で管理人は、俺と顔を合わすと機嫌を悪くするんだ?コイツも、何か悪いもんでも憑いてるのか?

 俺と管理人の漫才を観ていた窪川は、俺に話しかけた。

「なあ、ココにいたら安全なのか?」

「そうだ、ココは色んな専門分野の人間がいる。この管理人は退役軍人だ。だから安心しろ。」

「オマエが関わったら、安心じゃないんだよ!オマエの御蔭で、俺は死ぬような目に遭ったんだ!」

「何言ってんだ。あの時は俺の御蔭で助かったじゃないか?大丈夫だ。」

「大丈夫じゃない!」

 管理人が怒鳴ってる時に、携帯電話が鳴った。探偵からだ。

「んっ、もしもし?」

「そっちはどうだい?霊能者は保護したのかい?」

「ああ、保護したよ。」

「そうか、それは良かった。」

「何かあったのか?」

「じつは、その霊能者の家が燃えている。」

「何っ?」

「不幸中の幸いだったね、ホントに噂どおりだな。キミが関わると、トンデモナイことが起きるよ。」

「お世辞にもならないよ。」

「な、なあ。何があったのだ?」

 探偵との会話を聞いていた窪川は、俺に質問した。

「あんたの家が燃えたんだよ。」

「えっ?」

「一歩遅かったら、あんたも俺も死んでたよ。」

 それを聞いた窪川は白目になって、その場に倒れこんだ。

「おい、何があった?」

「今、コイツの家が燃えたんだ。おい、一緒に運んでくれ。」

「何だそりゃ?でも、このままホットクわけもいかんしな。」

 俺と管理人は、窪川を空いてる部屋まで運んだ。自分のことも言えんが、オッサンのくせに太りすぎだ。重い。


「で、どう言うわけか、詳しく聞かせろ。」

 管理人はキビシイ顔をしながら腕組みして、尋問した。俺は一部始終を話した。

「つまり、住まわせてくれたお礼に、幽霊マンションと言われた原因を突きとめたわけか。」

「そういうことだ。」

 話が終わるのと同時に、気絶した窪川が目を覚ました。

「…んっ。」

「よう、起きたか。」

「あっ…。」

「何か、うなされていたぞ。」

「…わ、私の家が燃えたのか?」

「念のためテレビをつけてみたら、採り上げていたぞ。んでもって、仏さんも出てきた。」

 そうなのだ。探偵から聞いた話で、テレビをつけてたら<霊能者、窪川蛙貴彦の自宅が火事に!>と、報道していた。そして、焼け跡から身元不明の焼死体が見つかった。」

「死体?」

「あんたの知り合いか?」

「知り合い?…違う、今の私にそういうのはいない。たぶん空巣犯だ。」

「空巣犯?泥棒か。」

「ああ、二回ぐらい入られた事があった。味を占めて、やったのだろうな。」

「泥棒に入られたんだったら、何で警察に訴えないんだ?…あっ、そういう訳か。あんた、ヤバイことをやったな。」

「ああ、そうだよ。霊能者をやめた後、表沙汰にできないことをして稼いでいたんだ。だから、命を狙われる可能性もあった。ソイツはそういう奴らに殺されたんだ。」

「お、おい!こんな奴を置いていいのかよ?俺は嫌だ!巻添えを喰らいたくない!」

 話を聞いていた管理人は、血相を変えていた。

「落ち着け!お前は軍人やっていたんだろ?このぐらい、日常茶飯事じゃないのか?」

「他人事と想って言うな!俺とオマエの育った所は違うだろ。」

「そうだな、たしかに他人事と想った。それは謝ろう。それより、アレは見えるか?」

「アレ?」

「そうだ、アレだ。」

「アレか。…み、見えないよ。」

「そうか。窪川、あんたは見えるか?」

「えっ?…あ、そうか。見えない。大丈夫だ。うん、大丈夫だ!」

 窪川はそう言って、首を縦に振った。

「そういうわけだ。見えないということは回避できたと言うことだ。よかったな。」

「この人にも見えたのですか?」

「そうなんだよ。コイツ、アレが見えるようになったとき…。」

「言うなあ!」

 管理人は怒鳴った。


 窪川を寮に預けてマンションに帰ると、入口に女将が待っていた。

「おかえり。」

「ただいま。」

 鍵を開けて部屋に入ると、一緒に入った女将が訊ねた。

「で、どうだった?その霊能者の鼻をへし折ったの?」

「へし折ったんじゃなくて、折れていたよ。霊能者は廃業していたみたいだ。」

「ふうん、じゃあ無駄骨だったの?」

「無駄骨かどうかは、わからないね。連れ出したら、ソイツの家が放火されたんだ。一歩遅かったら、殺されていたよ。」

「えっ?…なっ、何それ?ノンキなことを言ってる場合じゃないわよ?」

 女将は驚いた顔をした。

「心配してるのか?」

「そうじゃないわよ。アンタが死んだら、後味が悪いの。」

 そんなことを言っているが、心配してくれたのがわかった。うれしいね。

「コーヒーでも入れようか?」

「そうねえ、それでいいわ。」

 コーヒーを入れる準備をしていたら、桑田氏の車が来た。

「やあ。」

 桑田氏が入ってきて、手にはトランクを持っていた。

「どうしたの?それ。」

 女将はトランクを指差した。

「開けてみたらわかるよ。」

 桑田氏はそう言って、トランクをテーブルに置いた。女将は言われたとおりに、それを開けた。

「んっ?」

「何これ?」

 トランクの中には、札束が入っていた。

「スゴイな。札束なんて、始めて見たよ。」

「どうしたのコレ?マンションのお金なの?」

 俺も女将も驚愕してしまったが、桑田氏は気にせずに説明した。

「ココを幽霊マンションと採りあげていた、テレビ局と雑誌の出版社に談判したのだ。このお金は、その賠償金だよ。そして、この手紙は謝罪文だ。」

 そう言って、二通の封筒を出した。

いくらなんでも、たった一日で成立させるなんて、どういう弁護士を雇ったんだ?そもそも、何者だこの人?

「ホントに、あたしがもらっていいの?」

 女将は大金を見て震えていた。俺だって、ビビるわ。

「ええ、このお金はあなたのものです。」

「…そう。でも、このお金はもらえないわ。持ってるだけで怖いわよ。」

 なるほど。確かに、こんな大金を持っていたら、命を狙われるかもしれんな。

「アンタはどうなの?」

 いきなり、女将が俺に訊ねてきた。

「俺?」

「桑田さんもだけど、アンタにも感謝してるのよ。いくら欲しいの?」

「報酬か…。そうだ!桑田さん、このマンションは賃貸のままなのか?」

「いや、分譲にするつもりだ。」

「いくら?」

「千八百万円。月額は十五万だよ。」

 結局、戻っちゃったか。

「了解した。」

 俺は百万円分の札束を取った。

「三十万円は、このマンションの二ヶ月分。五十万は、手伝ってくれた奴らへの報酬。残りは俺の生活費。これでOKだ。」

 そう言って、桑田氏に三十万円を渡した。桑田氏は納得して、それを受け取った。

「それだけでいいの?もっと取ればよかったのに。」

「いいんだよ、恐いものを感じるんだ。」

「そうなの?じゃあ、アタシは生活費の分だけもらうわ。」

 女将はそう言って、五百万円分を取った。どういう生活費だ?

「さて、この残りはどうするかな?」

 トランクの中のお金は残っていて、それでも大金だった。

「旅行でも行く?」

「キミはどうしたい?」

 桑田氏は俺に問いただした。女将も見ていた。

「そうだなあ…。」

「……。」

「……。」

「桑田さん。このお金、預かってくれないか?」

「どういうことだ?」

「こいつは、まさかのために残しておこう。」

「なにそれ?」

「そうか、つまり保険だね?」

「そんなもんだ。この先、どうなるかわからん。エライコッチャが起きたあと、このお金が使えるかもしれないからな。」

「そういうこと。だったら、それでいいわ。」

「決まったな。」

 と、言うわけで、残りのお金は桑田氏が預かることになった。



 八日目の朝、俺は入口のドアに張り紙を張った。

「喫茶店には、ならなかったんだね。」

 珍しく朝に来た桑田氏が、そう言った。

張り紙には、こう書いている。

〈便利屋をはじめました。但し、出来ない依頼もありますので、その辺は理解してくださし。〉

「もう、コーヒーは飲めないのかい?」

「飲めないことはない。コーヒー入れるのも便利屋の仕事だ。桑田さんにはタダで飲ましてあげるよ。」

「それはありがたい。では、一杯いただこう。」

「あのう、すみません。」

 俺と桑田氏の会話から、誰かが、割ってきた。清楚なドレスを着て、白い帽子を被っている上品な女性だった。そして、手には花束を持っていた。

「あなたたちは、このマンションの方ですか?」

「ええ、そうです。私たちは、このマンションに住んでます。」

「最近だけど。」

「……。」

「花束を持っていますね。あの402号室に置いたのは、アナタですか?」

「…はい。」

 俺と桑田氏は婦人を招待して話を聞いてもらった。そして、あの402号室で死んだバカ息子の母親だということがわかった。

「毎月、あそこで献花していたんですか?」

「はい、主人には内緒で。」

 そら、会社の金を奪って、遊びやギャンブルでスッカラカンにしたんだからな。知ったら、どやされていたな

「どうして息子さんは、そんなことをしたんですか?」

「それは…。」

「あれじゃないのかな?父親への反抗期。」

 反抗期ね。

「…あっ、あの…ち、違うのです。息子は、ただのギャンブル依存症なのです。」

「ギャンブル依存症?」

なんだ、そっちの方か。

「よく、『仏の顔も三度まで』と、言いますけど。六度もやってしまいますと、救いようがありません。会社のお金を盗むなんて。」

 ホントに救いようがないな。

「でも、そんな情けなくても、掛け替えのない息子です。勘当されたあと、このマンションに入れて、仕送りも渡して、少しはマトモになるかと思ったのですが…。」

 探偵から聞いた話では、マンションに入っても酒とギャンブルをやっていたみたいだった。

 婦人が気の毒だから、俺と桑田氏は今までのことを話した。

「そんなことがあったの?」

「ええ、そうです。」

「じつは、このマンション、来月に改築することになるんです。」

「改築…。」

「…どうしました?」

「……。」

「……。」

「……。」

「吹っ切れたわ。献花するのも、これで最後にするわ。」

 婦人はそう言って、入れてあったコーヒーを飲みほした。

「アナタたちの御蔭で気が晴れたわ。ありがとう、コーヒー美味しかったわ。」

「えっ、美味しかったんですか?」

「そうよ。」

 婦人は店を出て行って、俺は頭を下げた。初めて美味しいと言われた。

「いきなり、ああいうのが来るとは想わなかったな。」

「まあ、良かったと思うよ。あれで、影を引きずることもなくなったからね。じゃあ、私は仕事に行くから。」

 桑田氏はそう言って店を出た。そういえば、一体どんな仕事をしてるんだ?


昼飯を終えて、自分の分のコーヒーを入れようとした時だった。ドアの鈴が鳴って、誰かが入ってきた。

「……。」

「どちら様ですか?」

 入口に、一人の少女が立っていた。

「あのう、ココは便利屋さんですか?」

「ええ、そうです。今日から始めたけどね。」

「喫茶店に見えるのですけど。」

「ええ、ここは元喫茶店でね。そのまま使ってるんだ。」

「そうですか。」

「ところで、何か用でもあるのでしょうか?張り紙に書いてあるとおり、出来ない依頼もありますけど。」

「……。」

「もしもし?」

「実は…。」

「実は?」

「すみません。捜してほしい人がいるのです!」

「はい?」

 少女は持っていた鞄から二枚の写真を出して、俺に渡した。一枚目は人が写っていて、二枚目は風景の写真だった。

「この人を捜してほしいのですか?」

「はい、名前は長谷川輝。私の兄です。」

「兄?」

「私は、妹の長谷川真琴です。」

「ここは何ですから、座りましょう。」

 俺は真琴を座らせて、さっき入れたコーヒーを差しだした。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 真琴は頭を下げたあと、コーヒーを飲んだ。

「ひとつ、聞いてもいいですか?」

「はい。」

「どうして、私のところに来たのですか?こういうのは、探偵という人の仕事だと思うんですけど。」

「はい、その探偵さんに依頼したんですけど、出来ないと言われたのです。」

「はい?」

「代わりに、その探偵さんがアナタを紹介しました。カレなら引き受けてくれると、言っていました。」

 真琴は鞄から一通の封筒を出して、俺に渡した。

「コレをアナタに渡してと。」

 俺は封筒を開けて、手紙を出した。手紙にはこう書かれていた。


〈ソッチの方は解決したようだね。キミに依頼するときがあると言っていたが、今がそれだ。去年、長谷川輝が人捜しに行って消息を絶った。そのあと、私が彼を捜そうとしたのだが、上からの圧力でできなかったのだ。そこで、代わりにキミに捜してほしい。キミは監視されていないから大丈夫だ。輝は私の相棒で幼馴染なのだ。頼む、コレでおあいこにしよう。〉


 そういうことか。

「なるほど。」

「どうしたのですか?」

「この探偵は、私の家族みたいなものだ。」

「?」

「長谷川真琴さん、この依頼を引き受けましょう。」

「えっ?」

「引き受けましょう。」

「…あっ、ありがとうございます。」

 真琴は立ち上がって、頭を下げた。


 便利屋を始めて最初の仕事か。忙しくなりそうだな。

〈終〉

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幽霊マンションと名誉挽回のプロジェクト 杜和陽海(もりお・はるみ) @morioharumi74

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