夢であるように

成井露丸

夢であるように

 あなたはユーレフラシアという名の世界を知っているだろうか?


 それは『花の大地』という意味の言葉だそうだ。もし、彼の地の名前を知っているならば、あなたはきっと彼女――エレナに会ったのだろう。もし、もう一度、彼女に会うことがあれば、伝えて欲しい。僕が会いたがっていると。

 もう一度、君に有って、あのフードコートで、他愛もない話がしたいのだと。


 京都にある僕の自宅から徒歩五分の場所に直方体の形をした三階建のスーパーマーケットが建っている。その三階には使い勝手の良い小さなフードコートがある。最近、うどん屋さんが潰れてしまったので、お店はハンバーガーショップしか残っていない。だから、もはやフードコートでも何でもないのだけれど。


 窓際のテーブルに鞄を下ろして席を確保する。大きな窓からは、眼下に流れる天神川が見渡せた。下流では桂川と合流し、淀川となり大阪湾へと注ぐ小さな川だ。

 深く掘られた天神川の流れの脇には散策の道があり、近隣の人々が行き交う。眼下では、腰を曲げたおばあさんが手押し車を押して、子連れの主婦がベビーカーを乗せて歩いていた。


 番号を呼ばれて、僕はハンバーガーショップの女性店員からブレンドコーヒーとアップルパイを受け取る。平日水曜日の午前十時頃。フードコートの客は疎らだ。

 僕はトレイをテーブルに置くと鞄の中からノートパソコンを取り出した。ここへは小説の執筆に集中する為に来ている。スマートフォンのテザリングを開始してネット接続を確保する。ヘッドフォンで好きな音楽を鳴らして外界の騒音を遮断してしまえば、こんなフードコートでも十分に執筆集中できるのだ。

 僕は耳を覆おうとヘッドフォンを両手で持ち上げた。そんな僕の視界に、一人の少女の姿が飛び込んで来た。


 西には嵐山、北には高尾山へと続く風景の手前には、双ヶ丘ならびがおかが聳えている。歴史ある京都の風景は窓越しに背景化し、その少女の姿に僕の視線は惹き付けられた。肩辺りまでのミディアムの黒い髪。夏らしい白いフレンチスリーブチュニック。胸元の白い肌がVネックから覗く。目鼻立ちはくっきりしながらも、上品さを感じさせる柔らかさのある相貌。


 少女は椅子の背もたれに上半身の体重を預けて、中空を眺めていた。右手がシェイクの紙カップを持ち、左指先は折れ曲がったストローを無造作に挟んでいる。

 柔らかそうな甘い唇は、ストローの先端をそっと挟みながらも、少し弛緩したように呆けていた。何か遠くの世界に思いを馳せているように。

 少女の視線の先、フードコートの向こう側にはスーパーマーケットの書店スペース、その向こう側には雑貨店がある。でも、彼女が見ているのは、そういう場所の向こう側。きっと、ずっと先。


 先週来た時も、その前に来た時も、彼女はあそこに居た気がする。先週も少し気にはなっていた。平日の午前中なのに学校にも行かず一人でフードコートに居る少女。単純に「学校はどうしたのだろう?」と思うと共に、「綺麗な女の子だな」なんて年甲斐もなく目を奪われていた。


 中空を眺めていた彼女の視線がふと水平まで落ちて横に動く。そして僕の視線に衝突した。突然だけど僕と彼女は見つめ合って、少しの間、時間が止まった。

 彼女も僕の視線に気付いた様子で少しだけ瞼を上げる。慌てた僕は当たり障りのない目礼でやり過ごそうと「どうも」と首を少し前に出す。何のことはない、道端ですれ違う見知らぬ人に、そっと挨拶するようなものだ。


 彼女は突然の僕の目礼に少し不思議そうな顔をしながらも、軽く首を横に傾けて、少女らしからぬ気品ある笑顔を返した。その笑顔は、とても平日に学校をサボる女子高生のそれには見えなかったし、大人びていて優雅だった。


 さて、見知らぬ少女から視線を逸らそう。

 ヘッドフォンで外界の音を遮断して、ノートパソコンで執筆に集中するのである。予定通り、予定調和な、本日の創作活動に戻るのである。そう僕の理性は主張していた。

 でも、そんな理性の指示とは裏腹に、僕の視線は彼女に引かれ、唇は言葉を弾き出す。


「――あのっ!」


 僕は両手で持っていたヘッドフォンを肩に掛けて、思わず言葉を漏らしていた。

 少女はシェイクのストローから柔らかそうな唇から外す。そして、左手の親指と人差し指も口許のストローから離すと、さっきとは逆方向に小首を傾げた。「なんでしょう?」と。


 僕は思わず視線を泳がせる。声を掛けてみたものの、何を喋っていいのか分からないのだ。自分は少女に声を掛けて何がしたかったのだろう? 何を話したかったのだろう? これではただの不審者ではないか。


「少しだけ……お話しませんか?」


 こんな気の利かない台詞がよくも自分の口から飛び出したものだと、すぐに猛省する。小説家失格だ。それでも、少女は「良いですよ」とにこやかに微笑むと、シェイクの紙カップを右手に、僕のテーブルへと移動してきた。戸惑う僕をよそに、静かに向かい側の椅子を引くと、ギンガムチェックのボトムスに包まれた腰を下ろした。


「こんにちわ」


 君は改めて僕を見ると、笑顔で行儀良く挨拶をした。銀色のノートパソコン越しに、白いチュニックを纏った君が僕に話しかける。


「あ、――こんにちわ」


 多分ずっと年上の僕の方が狼狽してしまっている。声を掛けたのは僕の方なのに。そんな情けない僕を見て、少女は可笑しそうに口許に左手を当てた。


「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。私は怪しい者じゃないですから」


 それはもう、全くもって僕の台詞である。自分が情けなくなって、思わず額に手を当てる。


「その……、はい、僕も怪しい者じゃないです。この前も二度ほど君を見たことがあって、覚えていたものだから」


 二人の怪しい者でないもの同士は、このやり取りが滑稽に思えてクスリと笑った。少女は「ええ、私も覚えてますよ。パソコンでずっと何かを書かれてました」と言う。僕はますます恥ずかしくなった。


「三度もお目に掛かっているのですから、全くの他人という訳でもないでしょう?」

「そういうものかな?」


 少女は「そういうものですよ」と言う。言葉遣いもとても丁寧で、随分と人と話すことに慣れている。本当に高校生とは思えない。夏めいた白いチュニックのVネックから色白の首筋と鎖骨の尾根が覗く。まるで年齢の近い大人の女性と話しているような気がして僕は頬を赤らめてしまった。


 僕はブレンドコーヒーに、ミルクと砂糖を入れて白いマドラーでかき混ぜる。一口。まだ熱い。目の前で君がシェイクを一口啜る。柔らかそうな唇がストローの先に触れる。でも、吸う時に生まれる笑窪には年相応のあどけなさがちゃんと残っていた。


「こんな所に午前中にフラッと来ているってことは、この辺りに住んでるの?」

「そうですね。はい。今はこの、近くですね」


 少し思案した後に、君は窓側を振り返り、南の方角を指差す。


「このあたりの地名、まだ、あまり覚えていないんですけど。川沿いに向こうの方に地下鉄の駅がありますよね?」


 天神川御池にある太秦天神川駅は京都市営地下鉄東西線の終端駅だ。その辺りに住んでいるらしい。やっぱり、ご近所だ。


「あの辺りか。新しいマンションも多いしね。最近、引っ越してきたの?」

「えぇ……、まぁ」


 なんだか歯切れが悪い。でも、「このあたりの地名はまだ覚えていない」と言うから、やっぱり引っ越して来たのだろう。それなら、最近になって見かけるようになったのも納得だ。


「どこから? 京都府内? 他府県?」


 そう僕が尋ねると、彼女は少しだけ、困ったような顔をした。


「すみません。先にお名前を伺ってもいいでしょうか……?」

「え? 僕?」


 そうだ、そう言えば、まだ名前も名乗っていなかった。これは失礼だったかもしれない。転居元と何か関係するんだろうかと少し戸惑いながらも、僕は自分の名前を彼女に伝えた。彼女は僕の名前を口に出して確認する。合っていたので僕は頷いた。名前を尋ねてもらったからには、相手の名前もきちんと尋ねるのが礼儀であろう。


「君の名前は?」


 僕の質問に君は少し心の準備をするように、小さく息を吸った。名前を言うのに、何をそんなに身構える必要があるのだろうか? と思ったが、その理由は直ぐに分かった。


「私はエレナ。――エレナ・レッツェンファード」


 そう名乗ると君は、座席に座ったまま一つ目礼をした。それは王侯貴族の子女が舞踏会でドレスの端を摘み持ち上げてする礼のように気品のある所作だった。スーパーマーケットのフードコードの中、僕達の周りの空間だけが宮殿の舞踏場に変わる。


「えっと……。つまり、エレナさんは、日本生まれじゃなくて……、そのヨーロッパ帰りの帰国子女とか……そういうことなのかな?」


 日本人の名前を聞く準備万全だったところに、完全に異なる国の名前が飛んできたのだ。僕はもちろん耳を疑った。しかし、彼女はゆっくりと首を左右に振る。


「そういう海外の国からの引越しでもないんです」

「……どういうこと?」


 ブレンドコーヒーを片手に疑問符を浮かべる僕に、エレナは少し目を細めて恥ずかしそうな笑顔を作った。


「私がやってきた世界はユーレフラシア。この世界とは異なる世界なんです」


 それは驚くべき告白であり。


 ――異世界転移?


 小説みたいなお話だった。


「私はそこで、レッツェンファード家の一人娘。――第一王女でした」


 そう言って、君は懐かしそうに笑った。第一王女。僕達の住むこの世界において、なんと浮世離れした肩書きだろう。

 小説投稿サイトに連載中の小説の続きを執筆しようとやって来た近所のフードコートで、偶然出会った少女は異世界からやってきた王女様だったのだ。


 普通の大人なら、彼女のことを「ちょっと頭のおかしい少女」くらいに思って受け流すのかもしれない。「そんなことは良いから、ちゃんと学校に行きなさい」って。

 でも、僕は普通の大人なんかじゃない。平日の昼前から会社にも行かずに、近所のフードコートで一人、一銭にもならない小説を書いてる人間だ。少なくとも普通の大人よりも、空想の世界がずっと好きで、変わったことがずっと好きな人間なのだ。

 異世界転移万歳、ファンタジー世界万歳なのだ。


「そっかー。君は異世界からの転移者なんだね」


 僕は腕を組んで、椅子の背もたれに体重を預ける。フードコートの白い天井に、味気ない蛍光灯がチカチカと光っている。そうやって腕を組んで、真剣な表情を作る僕に、逆にエレナがキョトンとする。


「え……? 信じるんですか? 私の話?」

「ん? うん。信じるよ」


 僕はそう言って一つ頷いた。


「でも、今まで私が話したこの世界の人達は、みんな、空想の話だって笑うだけで……、誰も真剣に取り合ってくれなかったのに……、どうして?」


 僕は少し思案した後に、ノートパソコンからブラウザを開いて、小説投稿サイトで連載中の作品のプレビュー画面を開いた。ノートパソコンの画面を逆向きに倒し、タブレット型に折りたたむと、画面をスワイプしてエレナに渡した。


「これは?」


 エレナがタブレット型になったノートパソコンの画面を覗き込む。


「僕の小説だよ」

「……小説?」

「そう、小説。物語だね。僕は物語を作る、小説家なんだ。まだ、書籍化もしてないから、ホント、ただの自称なんだけどね」


 書籍化作家でもない僕が自分のことを小説家と呼んで良いのかどうかは分からない。でも、僕は物語を書く。だから、きっと良いのだ。エレナは唇の動きで確認するように『小説家』という言葉を呟く。


「だから、現実の中の物語も、ファンタジーだって、出来るだけ信じたい。それに、君には何処か気品がある。所作や言葉使いも丁寧だ。これは、この世界の、今の時代の人間が、普通に生活していて身に付くものじゃないと思う。僕にとってはそっちの方が不思議だったんだ。君が異世界からやってきた王女様だって言うんだったら納得できるよ」


 エレナは僕の言葉に逆に困ったような顔をして「そんなものなのですか?」と言うので、僕は「そんなものなのですよ」と笑った。

 要は僕が信じるか、信じないかの問題なのだ。主観的な問題なのだから、その基準は僕にあって良い。僕が君を信じる。それが全てだ。


 僕らはその日、フードコートで色々な話をした。いつもより執筆は前に進められなかったが、彼女との話しは楽しかったし、何故だか心も晴れやかだった。君と過ごす時間は僕の世界の色を変える。


 エレナはやっぱり故郷の世界に帰りたいらしい。それはそうだろう。身寄りもない世界でたった一人なのは寂しいし、心細い。しかし、こちらの世界に突然転移した理由も仕組みも分からないのでは手の打ちようがない。実際には、いつまた来るか分からない、次の異世界転移を待つしかないのだろう。


「エレナは、自分自身がこの世界に転移した理由に、何も思い当たる節は無いの?」


 僕がそう尋ねると、彼女は首を左右に振った。多分、そんなことは既に何度も何度も考えたのだろう。


「例えば、ユーレフラシアが魔王の脅威に晒されていて、勇者を見つけるためにこの世界に転移したとかさ?」

「……魔王? 魔王ってなんですか?」

「あ……いや、特に無いんだったらいいよ」


 お約束が通じないどころか、魔王の概念すらユーレフラシアには無いらしい。異世界転移先は剣と魔法、勇者と魔王が対峙する世界、みたいな勝手な先入観を持つのは良くないようだ。彼女の世界を色眼鏡で見てはいけない。彼女にとってはその世界こそ現実なのだ。

 では、彼女にこの世界はどう見えるのだろう。灼熱のコンクリートとアスファルトの街で、皆が光る画面に向かいながら、人生の多くを本質的な意義の分からない業務に費やし、人生を溶かしていっているこの世界は。


「じゃあ、ユーレフラシアで生じている大きな問題とかは無いの? 異世界転移が必要になる程の」


 僕の質問に、エレナは左人差し指を顎につけながら、小首を傾げた。


「私達の世界でも局地的な諍いごとはありますが、少なくともレッツェンファード家が治める我が祖国――フローレンス王国は、飢えもほとんど無く平和だと思います」

「そっか~」


 僕は彼女の異世界転移の理由を考えることを早々に諦めた。

 本当のところ、彼女がその異世界からやって来た王女さまなのか、空想逞しいこの世界の少女なのか、どちらが真実なのかは分からない。しかし、この時の僕にとって、真実はどちらでも構わなかった。問題はそれが真実かどうかではなく、僕がそれを信じるか、信じないかなのだから。


 二十歳近く離れた二人だったけれど、この日から僕らは友人になった。


 彼女と話すことはとても楽しかった。エレナは高校生くらいの年齢にしてとても聡明で、好奇心が豊かだった。社会や経済、政治、文化等を見る感覚に関しては、極めて成熟したものを持っていた。また、僕が色々とこの世界の知識を教えても、ユーレフラシアでの知識との対比や類推を通して、この世界の知識を海綿の様に吸収していった。


 僕がフードコートで執筆作業をするのは水曜日の午前中だけ。そんなことを話すと、エレナは「あ、じゃあ、私も水曜日の午前中に来るようにしようかな」と、はにかんで笑った。週に一回、異世界からやって来た年の離れた友人と会って、執筆しながら他愛もない話をする。とても良いじゃないか。


 会社の仕事での出張や至急の用務もあり、僕自身は、毎週水曜日にフードコートに行けた訳では無かった。でも、少なくとも隔週では天神川沿いのスーパーマーケットへと足を運んだ。主たる目的は小説執筆だったが、既に目的の半分くらいは、エレナと会うことにすり替わっていた気がする。

 大体、隣くらいのテーブルに座って、僕は小説の執筆、彼女は彼女で読書か何か勉強をしていた。合間に、僕はコーヒーを、君は紅茶を片手に話をした。この世界のこと、ユーレフラシアのことを。

 彼女のするユーレフラシアの話は僕にとても大きな刺激を与えた。僕の行ったことのない世界。二つの月が夜に輝き、妖精が舞い、大地を花が彩る『花の大地ユーレフラシア』。


 僕はあまりに運動しなさ過ぎるので、夏休みの間だけでもせめてプールに通って体力をつけようと考えた。僕は西京極の市民プールに出来るだけ毎日、泳ぎに行くことにした。そう話すとエレナも興味を持った。「一緒に泳ぐ?」と聞くと、「泳ぐ」というので、何度か一緒にプールにも行った。


 彼女には泳ぎの経験が無かった。流石にすぐ綺麗に泳げるようにはならなかった。結局、ほとんどの時間、彼女はプール内でウォーキングをしていた。祖国のフローレンス王国にはプールが無かったようで、大変感動していた。

 プールから上がり休憩する君。濡れた競泳水着でプールサイドのベンチに座る君は、地域の市民が集うこの市民プールには不似合いに美しくて、まるで水の妖精のようだった。


 秋には「自然を感じよう」と、双ヶ丘に一緒に登った。丘の中腹で、木々の間のベンチに座って、僕は小説の執筆をしていた。フードコートの時と何ら変わらず、僕達はそれぞれの事をして、その合間に色々なことを喋った。

 双ヶ丘で書いた短編は、我ながら中々味のある仕上がりになった。タブレット形状にしたノートパソコンで見せると、僕の文章を読んで君も「いいと思う!」と笑ってくれた。


 エレナと出会って初めて冬が来た。僕はと言えば、年末に向かう忙しさの中で、二週間ほどフードコートに行けない週が続いていた。クリスマスが迫る頃、三週間ぶりに水曜日のフードコートに顔を出した。そこにエレナは居なかった。その週は「エレナも何か用事があったのだろう」と考えて、自分の執筆に専念することにした。


 でも、次の週も、その次の週も、エレナはフードコートには現れなかった。クリスマスと大晦日が過ぎて、新たな年が始まった。それ以来、僕は一度も、エレナに会えていない。僕が君に別れの言葉を言う機会も与えられないフェードアウトだった。


 君は無事にユーレフラシアに帰ることが出来たのだろうか?

 それとも、また別の街へと何かを探しに旅立ったのだろうか?


 何れにせよ、君が無事で幸せでいてくれることを願っている。もちろん、僕は君ともっと一緒に居たかった。でも、それは僕の願望でしかない。それは、君の幸せに比べたら取るに足らないものだ。


 君と出会った頃に僕が書いていた小説は、コンテストの最終選考にまで残った。僕にとってはこれまでの最高記録だったから嬉しかった。でも、最終選考は通過出来なかった。悔しかったけど、僕の小説家としての挑戦は続く。


 ――僕には今、書きたい物語がある。


 僕は君が話してくれた異世界を舞台にしたファンタジー小説を書こうと思っている。花の大地ユーレフラシアに生きる、一人の聡明な王女が登場する話を。

 夢であるように、君との時間、君の物語が僕の記憶から消えてしまう前に、君のこと、あの世界のことを記していきたいと思う。


 物語という扉を開けば君がいる。君の住む世界がある。


 夢であるような、君の世界と、君との時間を。


 僕は小説という世界の中で現実にする。

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