最後の五分

フクロウ

笑うこと………

 ふと、春の訪れを感じると何処か悲しい感情を覚える。

 いつものようにただ、ただ桜並木を歩き風で舞い散る桜を見ながら風情を感じる。


「………また、春が過ぎていく。」


 あの時から変わらないこの桜並木を見るといつまでもこの場所で俺は立ち止まっているのだと少しの申し訳なさと、少しの寂しさが俺の心を揺さぶる。


「君がいなくなってから五年か。」


 あのときに俺が止めていれば、あの時に俺が否定をしなければ……君は俺の横でこの桜並木で笑っていたのだろうか。


「俺は…………」


 振り返ってもそこには何も無い、失っていなくなってやっと人間は気づくのだろう。

 人間は……何て悲しい生き物なのだろう。


「俺はもう、君のところに行ってもいいかな?君と同じ場所で、君の場所まで」


 桜並木を歩くと途中で大きめのカーブがある。そのカーブにあるガードレールをこえるとそこには険しい崖がある。


「ここに来ると君の事を思い出すよ。確かここで最初に君と出会ってそして……君とここで最後に別れた場所だったよね。」


 崖の向こうには人や車、住宅街に高いビルなどと夜に来ればきっと夜景がきれいなんだろうなと思えるそんな場所だった。


「…………」


 風の音と葉っぱのすれる音だけが耳に聞こえてくる。


「俺もそろそろそっちにいくよ。君がここで……この崖から落ちたあの日からもう、俺の時間が止まった。」


 君がいなくなったこの世界に俺の居場所はなかった。君が俺に居場所くれた。

 ガードレールを乗り越えて崖の手前まで歩いていった。


「今いくよ……君の場所まで」


 崖から飛び降りようとしたその瞬間突然後ろから声が聞こえた。


「待って!何してるよ!!??」


「………あの子の元にいこうとしてるんだよ。姉ちゃん」


 振り向かずともわかる。これまで一番近くで聞いてきた声だ。そして最後に俺が聞く声だ。


「そんなのダメ!何で?あの子だって!そんなの望んでない!」


 わかって、知っている、そんなこと言われずとも、あの子が望むわけ無い!

 だけど!だけど……だけど!俺は…………


「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ。俺は…………姉ちゃん達みたいに割りきれないよ。あの子が!妹が死んじまったことを!」


「………私だって!割りきれないよ……。」


「……俺はさ、もういいんだよ。疲れたんだよ……あの子が死んでからのこの五年間周りを見ればどいつもこいつも口だけで!」


 誰も……あの子のことを悲しまなかった。わかってた!あの子が本当の妹じゃないことくらい!だけど、それでも俺にとっては、たった一人の妹だったんだ。


「姉ちゃんはさ、こうならないでよ。」


 最後に振り返り姉の方を見ようとした。











 見ずともわかっていた、言われずともわかっていた。そこには……悲しむ姉なんてものがいないことに。そこにいたのは笑いながら此方を見つめてくる死神だった。


 ーーーーこれが俺の最後の五分だった。

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最後の五分 フクロウ @DSJk213

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