5分で告げる想い
虹色
第1話
夕陽が照らす、人気のない駅。
ここにいるのは、私と先輩の二人。
電車が来るまで、あと5分。
これを逃すと、あと1時間はこの駅で待ちぼうけ。
「ずっと前から好きでした。私と付き合ってください」
声は小さく、想いは強く。
先輩は、ため息混じり首をふる。そして「俺は、君が思うような、君が惚れるようないい男じゃないよ」と告げる。
遠回しの、拒絶の言葉。
でも、その程度では私は止まらない。
「私は好き。先輩が好き」
思うより先に、言葉が出る。
「先輩の顔が好き、先輩の髪質が好き」
自分でも、何を言っているかわからない。
ここまで言うと、気持ち悪い、あるいは頭のおかしい女と思われるかもしれない。
だけど、これは主張しなければならない。
先輩がどれほどいい男か。
そして、否定しなくてはいけない。
先輩は、私が惚れるに値するいい男ではないということを。
「動物に優しい先輩が好き、誰にでも優しい先輩が好き、友達が少ない先輩が好き」
続ける。
先輩が諦めるまで。
この議論に勝つため。
証拠を、根拠をかき集め、提示する。
「隠れて筋トレしている健気さが格好いい、日焼けしていない色白な肌が格好いい、周りに合わせて苦笑いしているところが格好いい」
続ける。
私の息が切れるまで。
声が枯れるまで。
「料理が上手なところが素敵、文房具がおしゃれなところが素敵、色んな雑学に詳しいところが素敵」
先輩は、私から目をそらしたまま。
まだ、足りないか。
ならーー
「これで、どうですか」
私は先輩に抱きつく。
服の繊維が擦れる。
「これでも、私の想いは伝わりませんか」
「君の想いに応えられる自信がない」と先輩は言う。
けど、大丈夫。
私の想いに、応えなくていい。
イエス、あるいはノーと、答えてくれなくていい。
ただ、今はーー
「黙って目をつぶって、動かないでください」
私から唇を重ねる。
先輩は動かない。
伝わる体温。
聞こえる心音。
電車が来た。
だけど
離れない。
ドアが締まる音。
発車のベル。
電車が動く。
わたしたちは動かなかった。
とりあえず、今はこれでよしとしよう。
電車が出発した今、時間はたっぷりあるのだから。
5分で告げる想い 虹色 @nococox
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