PHANTOM HEAVEN 【Episode:23】
〔23〕
彼らの元に走りながら、両手に握ったグロックを発砲しまくる。同時に、
「アテナ、武装開始! TYPE―AZAZELを装着!」
『Armored sleeveは正常起動、Cuirassの防御率100パーセント、Thigh guardの防御率100パーセント。アーマースーツに異常はありません』
銀灰色のアーマースーツを装着し、アサルトライフルに持ちかえて撃ち続ける。しかし、目の前に突如現れた醜悪な怪物は、そのぬらぬらとした硬い表皮で弾を弾いてしまう。
オールドタイプの映画に出てくる……エイリアンにそっくりの化け物だ。気色悪ィ。なんなんだ、こいつは……!?
「
俺を追い越すようにし、女戦士のような甲冑のアーマースーツ……TYPE―
彼女はそのまま二人を両脇に抱え上げ、斜め後ろに大きくジャンプして退く。そのまま彼女は純白の羽を広げて、怪物から離れたところに着地する。
その神々しさに緊急事態だというのに、俺は一瞬、彼女に見惚れる。嗚呼、俺の女神!
真莉奈は、チルチルとミチルを鳥籠型のシェルターに入れ、対戦車ロケットランチャーを構える。
バシュッ、と空間を切り裂くような音をさせて弾が発射される。
バックフラストで勢いよく砂が吹き上がり、視界が悪くなって目を眇めながら、化け物を見やる。
直後、怪物に直撃しドォオンと落雷のような爆発音を上げた。もうもうと白い煙が立ち込め、俺と真莉奈は、煙の先を睨む。
殺ったか……? 固唾を呑んでいると「グゥォオオオオオオウッ!」と、唸り声を上げて白煙を切り裂くように巨体が突進してくる。
「ど、どういうことなの!?」
「おそらく、ジャバウォックだ!」
手榴弾を取り出し「くたばれ!」とその巨体に投げつけるが、笑えるくらい何のダメージにもならない。この、ファッキン・ジャバウォック!
こちらに突進してくるかと思えば、ジャバウォックはチルチルとミチルのシェルターへと方向を変える。
「マズい! 狙いはあの子達だ!」
俺とアテナは、羽根を広げて空中へと飛ぶ。そのままスピードを上げて、ジャバウォックへと移動する。真莉奈は二人を守るべくシェルターへと向かう。
俺は化け物の背中に突撃するように着地し、KATANAを振りかざす。そうだ、こいつはスピリットじゃない。もし、AIの類いだとしたら……!
俺はheadとbodyの境目……首の付け根に切っ先を突き刺す。
「死ね! 化け物!」
ずぶりとKATANAの刃が刺し込まれ、ジャバウォックが滅茶苦茶に暴れ出す。そのパワーにKATANAの柄から手が離れて、ふっ飛ばされる。
オオオォォッ! と涎を流しながら禍々しい吼え声を上げて、ジャバウォックの全身に赤い火花が走る。飛ばされた俺の身体は綺麗な弧を描いて、砂浜の波打ち際に落下した。
ジャバウォックは、痙攣するように身体を震わせ、動きを止める。よっしゃ、死んだか? 地獄に堕ちろ、クソったれ! 思わず吐き捨てたのと、ジャバウォックの目が赤く光ったのは同時だった。
「真莉奈ー!」
チルチルとミチルの安全を確認していた真莉奈が、ハッと振り返る。
突進してきたジャバウォックが、鋭い棘が生えた頑強な腕を振り上げ、彼女の身体を弾き飛ばす。彼女の身体が浅瀬に落下し、俺は怒りで唸り声を上げながら、ジャバウォックへと
拳がめり込んだ瞬間に、バチンと激しい火花が散るが、ジャバウォックの長く鋭い爪のある手に胸部を払われる。
『胸部の衝撃により四十パーセントの機能低下』
アテナのアナウンスが無慈悲に流れる。クソッ、しっかりしろ! 自分を叱咤しながら、這うようにして立ち上がり、鳥籠のシェルターの前へと立ちふさがるように
よろめきながら立ち上がったのと同時に、ジャバウォックの腕が振り上げられた。
ヤバいぞ……! 一瞬の絶望。反射的にグロックを構えたのと、ピシュンと微かな音を立てて、背後から俺のこめかみ辺りを何かが掠めた気配がする。
シュパンと、ジャバウォックの額ど真ん中から血が吹き出す。そのままジャバウォックの身体が後ろざまに倒れ、溶けるようにその身体が
長距離狙撃か……! 俺はハッと背後を振り向くが、そこには誰の気配も感じられない。
「真莉奈ぁー!」
シェルターの中でチルチルとミチルが泣き叫ぶ声がし、我に返って彼女の元へと走る。焦って砂に足を取られそうになり、舌打ちする。落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け!
「真莉奈! 真莉奈!」
俺は海水から彼女の身体を掬い上げる。彼女のボディには大きく斜めに傷が走っており、俺は祈るように彼女の身体を抱き起す。
真莉奈の目蓋が微かに痙攣しながら上がり、ぼんやりとした瞳が俺を捉える。
「……しの、ぶ……」
「ああ、ここにいる。もうジャバウォックは消えたぞ」
「チルチルとミチル、は……」
「無事だ」
彼女は弱く笑みを浮かべて「良かった」と細く息をする。
「真莉奈、しっかりしろ……! すぐに処置をするから!」
彼女は、唇の端を上げて、俺の頬に手を這わせる。何かを伝えようとする彼女の口元に耳を寄せ、俺は囁かれた言葉に瞠目する。
ほうっと、安堵したような吐息が耳朶を擽り、腕の中の彼女の身体から力が抜けたのが分かった。
「……そんな……待ってくれ……!」
俺はぎゅっと縋り付くように真莉奈の身体を抱き締める。腕の中で、彼女の身体が青い光の粒となっていく。やめろ、行かないでくれ……!
「真莉奈……!」
必死に輝く粒子を捕まえようとするが、あっという間に、泡のように消えてしまう。
目の前が暗くなり、俺は虚しく空を掴んでいた手を下ろす。また、彼女を救えなかった……俺は浅瀬にへたり込む。
思わず両手で顔を覆う。クソったれ……噛み殺しきれない嗚咽が、指の間から漏れた。
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