アナーキー☆セブン 【Episode:9】

〔9〕


 妙に軽快な音楽が鳴り響きはじめ、ゆっくりとメリーゴーランドが回転し始める。鋼鉄の木馬の瞳が赤く光り、その馬に跨っている大昔の中世の騎士が、起動をはじめたようで小刻みに痙攣するように動きはじめている。

 不気味な鳥や、悪魔を模したような獰悪な兜で顔を覆った騎士の関節部分から、ブシュッと蒸気を吐き出す。それと同時に、十字架にがんじがらめになっていた化け物がゆっくりと顔を上げた。

 その顔は漂白したように真っ白で、目の周りが青黒く塗られている。おまけにその口元も真っ赤に耳のあたりまで塗られている。不気味な道化師そっくりの化け物の黄色く光る瞳が俺達を捉えた。


「……来るぞ」


 スティンガーミサイルを構えつつ言うと、ケンも道具箱からサッカーボール大の青く光る球体のものを取り出し、幾つも並べる。


「なんだ、それは?」

「まあ、見てなって」


 不気味な馬の嘶きが辺りに響き渡り、メリーゴーランドから禍々しい騎士を乗せた鋼鉄の馬がこちらに突進してくる。ケンは突進してくる馬にめがけてサッカーボールのようなものを勢いよく蹴った。弾丸のような速さで球体が飛び、青い光の尾をなびかせながら馬に抉るように当たり、炸裂する。球体をくらった馬と騎士は地面に横転し、動かなくなった。


「ボール爆弾ってところか……」

「そういうこと!」


 感心しながら呟くと、ケンが得意げに笑いながら次々にボール爆弾を蹴り、騎士達にぶち込んでいく。


「ぼうっとしてんなよ、オッサン!」


 そうケンが飛行モードに移行し、球体を周りに飛ばしながら騎士の大群めがけて向かっていく。


「お、おい! 待て……!」


 止める間もなくケンの姿は遠のいていき、俺は思わず舌打ちしながら「飛行モード起動!」とその背中を追いかける。ケンは空中からボール爆弾を馬に乗った騎士に撃ち込んでおり、俺もわらわらと突進してくる集団に向けてスティンガーミサイルを撃ち込む。

 ケンの近くにきた鋼鉄の馬が不気味な鳴き声をあげながら棹立ちになり、そのまま宙を蹴る。馬がケンの前まで飛び、すかさず騎士が大きな剣を振りかざす。ああ、クソッ! 言わんこっちゃない!


「ケン!」


 スキップモードを起動させて、ケンと騎士の間に身体を滑り込ませ、そのまま背中に装着していたKATANAを抜いて、振り下ろされた剣を受け止める。キィン!と互いの刃から火花が散った。

 空いた手でグロックを握り、騎士と馬の額に一発ずつくらわせる。

 地面へと落下していくのを確認し、身動きできないでいるケンを引っ張り、上空へと飛ぶ。

 ケンを放り投げるようにして、俺はその胸元を人差し指で突いた。


「この、馬鹿野郎! 無茶なスタンドプレーしやがって! 死ぬつもりか!?」


 思わず怒鳴ると、呆然としていたケンがハッとしたように息を呑んだ。


「だ、だけど……」

「だけどもクソもあるか! バウンティハンターとして実戦を積んでいるつもりかもしれないが、あいつらはお前がいつも相手している奴らより、その数倍は戦闘能力がある! 調子に乗るな!」


 ケンの身体がびくりと竦み、その様子に俺は徐々に冷静さを取り戻しながら言う。


「……怒鳴って悪かった」

「いや……こっちこそ、ごめん」


 俺は思わず頭を掻きながら、これだからガキは苦手だ……と腹の中で呟く。だが、ここで揉めている場合じゃない。空を駆けるようにして、騎士を乗せた馬の大群が俺達のほうに向かってきている。俺は、その集団に手榴弾をいくつか放り投げた。


「ともかく、今回は連携プレーが必要だ。分かるか?」

「分かったよ」


 ケンが素直にこっくりと頷き、俺は気を取り直して道具箱からアサルトライフルを取り出す。


「お前、さっきのボール爆弾以外の武器は?」

「えっと……アーミーナイフと、ベレッタくらい」

「分かった。これを使え」


 新たにアサルトライフルを取り出して渡す。慣れた様子でコッキングハンドルを引くケンに、いくつかマガジンを渡す。背中合わせに立つように移動し、俺は顎でこちらにやってくる鋼鉄の騎士を指す。


「とりあえず、あいつらを片付けながら、あの馬鹿デカい化け物まで移動する。おそらく、あれをどうにかしないと、馬どもは際限なく出てくるだろう」

「イエス、サー」

「間違っても俺を撃つなよ」


 ケンが肩を竦めて「オッサンもな」と鼻を鳴らして返す。クソガキめ、口の中で噛みしめるように呟きながら、俺はライフルの銃口を大群に向ける。


『マスター、ロックミュージックなどいかがですか?』

「いいね、アテナのチョイスで頼む」

『かしこまりました』


 瞬時、流れ始めたロックに俺は小さく笑う。Highway To Hell(地獄のハイウェイ)か。いいね、中々シャレが効いているじゃないか。上機嫌な俺とは反対に、ケンはうんざりしたように俺を見やった。


「なんだよ、その古そうな曲」

「ロックに古いも新しいもあるかよ。Nobody`s gonna誰にも邪魔させねえ mess me roundって、ホッパーだろ? ゴールまで競争するか? ボウズ?」

「負ける気がしないね」


 俺達は自然に背中合わせになり、向かってくる騎士どもに鉛弾をお見舞いしてやる。


「スキップモード起動」


 I'm on the highway to hell

 Highway to hell

 I'm on the highway to hell

 Highway to hell

 Don't stop me


 思わず口ずさみながら、こちらに剣を振り上げる騎士に一発、鎖でつながった棘鉄球がこちらに飛んできたので、背中を逸らすようにして避けつつ、そいつにも一発。

 スピードを速めながら空のマガジンを放り投げ、新しいものを装填しつつケンを見やれば、あっちも健闘している。命中率が落ちるフルオートで撃ちまくっているのは、気になるが。

 彼の背後に迫っていた騎士に一発撃つと、ケンがハッとしたようにこちらに顔を向け、俺はサブマシンガンを投げてやる。


「そっちのほうが、お前に合ってるかもな」

「サンキュー」


 俺は軽く手を挙げて一気にスピードをあげつつ、メリーゴーランドに向けて移動する。

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