アナーキー☆セブン 【Episode:8】
〔8〕
ゲートに一歩踏み出した途端、彼女の横顔が引き締まり、その瞳が力強いものに変わる。青い光線が彼女に向けて放たれるが、彼女はそれを流れるような仕草で上半身を逸らせ、それを避けつつbotに向けてパッチ
「よし、いいぞ!」
思わず握りこぶしを作りながら言うが、パッチでの攻撃を感知したのか、他のbotがユナに向かって、複雑な動きをしながら浮遊しはじめる。
一気に数機のbotから青い光線が放たれ、ユナはまるでダンスでもしているかのようなしなやかな動きで、それを避け、同時にパッチを撃っていく。
ステップを踏むような足取りでゲートを進みながら、身体を回転させ、時に大きくジャンプしながらパッチ銃を連射し、とうとうbot全てから光線が放たれなくなる。
ユナがゲートの端まで辿りつき、固唾を呑んで見守っていた俺達もほっと吐息する。
「凄いな……」
思わず呟いたのと、新たなbotが四機、飛び出してきたのは同時だった。
「……ユナ!」
俺は道具箱からパッチ銃を取り出して、彼女の元へと駆け出す。botに気付いたユナも拳銃を撃ち、二機をパッチで包む。しかし、残りの二機が光線を発し、彼女が身を屈めたのと同時に、俺はゲートに飛び込むようにしながら、残りのbotに向けて撃つ。
腹ばいに伏せていたユナが、そろそろと顔を上げ、俺も床に転がった状態で彼女と目が合う。すかさず俺は親指をあげてみせる。
「素晴らしかった。怪我は?」
「ない、です……ありがとう」
そう彼女も、おずおずとこちらにサムズアップしてみせ、ようやく全身の緊張がほどける。わっと歓声を上げながら、子供たちがこちらに走り寄る。
「オッサン、中々やるな」
そうケンが俺の前で立ち止まり、こちらに手を差し出した。大丈夫だ、と断るとケンが片方の眉を跳ね上げて「無理すんなよ、オッサン」と可愛げのない言葉を返してくる。
……クソガキめ。思わず舌打ち交じりに返しつつ、ユナ達の元へと向かう。ゲートの向こうには新たな空間が広がっており、俺は思わず頭を掻いた。
「管理者の趣味なのか? これは……」
まったく勘弁してくれよ……俺は忌々しさに低く呟きながら、道具箱から
左には天使のような羽、そして右には鋼鉄の骨格剥き出しの羽が生えている。
左手には死神が持つような巨大な鎌を握りしめており、その切っ先が冷たく光っている。油断したら最後、一発で首を刈られそうだ。
こうべを垂れていてその顔は見えないが、全身から妙な禍々しさを醸し、やけに細い上半身と、スカートのようになっている腰から下が、メリーゴーランドになっている。
「アテナ、武装を開始してくれ」
『はい、マスター。前回と同様にTYPE―YAOROZUを装着します』
以前、ルナたちの秘密の庭で装着した、甲冑をイメージしたアーマースーツが装着され、鋼鉄のグローブの稼働を確かめるように握りこぶしを造り、指を動かす。鋼鉄で出来た狐面のフェィスマスクを装着。
『Armored sleeveは正常起動、Cuirassの防御率100パーセント、Thigh guardの防御率100パーセント。アーマースーツに異常はありません。グロック二丁と、とKATANAを装着』
「スティンガーミサイルを出してくれ」
『かしこまりました』
スティンガーミサイルを肩に担いだ俺に、ケンが「すげえ」と短く口笛を吹く。見れば、ケンも青を基調にしたアーマースーツを装着している。おまけに、成人型に擬態している。
「おい……お前、実戦経験は?」
これはゲームじゃないぞ、そう言外に含めるが、ケンは肩を竦めてみせ、フェイスマスクで顔を覆う。それは、狼を模したもので、俺はハッとなった。
「……もしかして、お前がブルーウルフか!?」
ブルーウルフ。ここ最近、電脳スラム界隈でよく名前を聞くバウンティハンターだ。新参の青い狼を名乗る賞金稼ぎがシマを荒らしていると、ダイナーの常連である古株ハンターがこぼしていたのを思い出す。
まったく、これだからガキは困るんだ。深層空間には深層空間の流儀やマナーってものがある。こいつには、あとでじっくりとその辺を教えてやらねえと……そんな事を思いながら、残りの三人を見やれば、彼らは武装しておらず、自分たちで用意したらしい透明シェルターに入っていた。
「お前がアナーキーセブンの戦闘要員ってことか?」
「破壊担当ってところかな」
「……なるほどね」
呆れ半分で頷いたのと同時に、ヴンッと小さな音を立て、不気味な化け物のメリーゴーランド部分のライトが灯り始める。
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