アナーキー☆セブン 【Episode:4】
〔4〕
「……オッサン、警察の人だよな?」
髪を赤く染めている男児が警戒したような目を向け、俺は「ああ、警察関係者だ」とバッジを見せる。途端に二人で身を寄せ合うようにしていた女児二人が泣きそうな顔になる。
「わたしたち、逮捕されちゃうの?」
「逮捕? いいや、君らを逮捕しにきたんじゃない。あのイカレた運転手を停止させるために来たんだ」
とりあえず、バグを起こしたアンドロイドをぶっ壊してしまおうと、釘打ちバットを掴んで運転席へと向かう。いつの間にか、乱暴な運転ではなくなっており、人間そっくりに造られた運転専用のアンドロイドの顔がこちらに向き、無機質な声で言う。
「随分と乱暴な乗車だな。ハリウッド式か?」
「いいから車を停めろ」
「おまわりさーん、それは無理だな!」
突如、その声が機械的ではない男の声に変わり、俺はぎくりとする。アンドロイドの口が笑みの形になり「このバスは地獄行きとなりまーす」といやに高揚した口調で言い放つ。
「……お前は誰だ」
「俺か? 俺は陽気な爆弾魔ってところだな」
陽気な爆弾魔……確か、そう自分で名乗っていた、スマイリーボンバーとかいう爆弾魔がいた。しかし、やつは十五年前に逮捕されたはずだ。もう刑期を終えて出てきていたのか……?
「お前は、このアンドロイドに外部から侵入しているのか?」
「ま、そんなところだな。運転手のライド君の胸元を見てみな」
アンドロイドの運転を妨害しないように、制服のシャツのボタンを外して胸元を見て、思わず舌打ちする。その胸元に括りつけられていたのは、どう見ても爆発物だった。
「……ふざけやがって、このクソ野郎!」
「無理にバスを停めようとすると、その爆弾が爆発するから、気を付けな」
その時、後部座席の子供たちがパニックになったように騒ぎ出し、俺は落ち着かせるように片手を上げる。
「お前の目的はなんだ? 身代金目的の誘拐か?」
「違うね。そこのお子様たちに、やってもらうことがある」
後部座席の子供たちを見れば、彼らは緊張した面持ちで成り行きを見守っている。俺は訝りながら、ライドに視線を戻す。
「……何をやらせるつもりだ」
「チームプレイってやつだよ。一時間以内に帝都銀行の電脳金庫の金を指定の口座に入れてもらう」
「ふざけんな! 小学生の子供に、あんなに手の込んだ金庫を開けられるわけねえだろ!」
いい加減、頭に来て声を荒らげると、ライドが低くしゃがれた声で笑う。
「随分、口の悪い刑事さんだなあ。出来るよ、あの子達ならな」
妙に確信のある口調に、俺はもう一度彼らを見つめる。
「あの子達に確認してくる。待ってろ」
俺は後部座席に向かう途中で、分からぬように首にぶら下げていた警察バッジにあるボタンを押す。四人の小学生の顔を順に見つめながら、鳥飼との会話を思い出していた。
「正直に答えてくれ。君らは、MEL空間でダイヴや、クラッキング、ハッキングの類をしていたのか?」
彼らは互いに顔を見合わせた後、ゆっくりと頷き、俺は「なんてこった」と片手で顔を覆う。
「アナーキーセブンというのは、君らの電脳ネームか?」
「いえ……チーム名みたいなものです」
そう眼鏡を掛けた男児が言い、カバンからゴーグルを取り出す。そこには、ANARCHY☆7と印字されたステッカーが貼られており、俺は溜息交じりに「なるほどね」と呟いた。
「で、あの爆弾魔とはどういう関係だ?」
「スラムに造った秘密基地で遊んでいたら、目を付けられたみたい。何度かこっちに接触してきて、その度にはね返してたんだけどね」
長い髪を大人みたいにくるくるとカールさせた女児がフンと鼻を鳴らし、その隣に座っている色白で大人しそうなボブの女児も顔を強張らせて頷く。
小学生が深層部分のスラムにダイヴして、そこを秘密基地にしていたなんて……まったく、世も末だ。
「君らの秘密基地がある、スラムというのは、どの階層にあるんだ?」
「えっと、中間層の深層部に近いところです」
なるほど、深層部やヘイダルゾーンに潜るスキルが、あの爆弾魔にはない可能性もある。だからこそ、一緒に潜って、監視するとは言い出さないわけだ。
なんせ、帝都銀行の口座は深層部に位置しており、常に空間内を移動しつつ、ガチガチにセキュリティーで固められた空間にあるのだ。
「一応、確認するが……今日は全員、ゴーグルを持っているな?」
四人はそれぞれの鞄からゴーグルを取り出し、俺は溜息まじりに頷いた。
「おーい、おまわりさーん! クソガキに構うのはその辺にしときな。でないと、爆発させちゃうよーん」
「……クソッたれが」
俺は忌々しく吐き捨てて、大股に再び運転席へと向かう。
「あのガキどもが中々のもんだって分かったろ?」
「ああ、だが、子供たちだけでダイヴはさせらない」
「じゃあ、バスを爆発させるか?」
爆弾魔が「はははっ」と腹の立つ笑い声を上げて、反射的にその首をへし折ってやりたくなったが、それを堪えてライドを睨みつける。
「俺も一緒にダイヴする」
「はあ? なんだそれ? あんた、ダイヴなんかできんの?」
「ああ、これでも、MEL空間技術の講師だ」
「へえ!」
ライドは感心したように目をぐるりとさせて、ニヤリとしてみせる。
「じゃあ、特別に保護者として、ダイヴすることを許してやるよ。だけど、変な事をしようとしたら、バスもろとも吹っ飛ばすからな。いいな?」
「ああ、分かってる。反対に、俺達がダイヴしている間に、あの子達のボディに何かあってみろ。取引は中止する」
「オーケイ、オーケイ、安全運転でいくよ」
おざなりな言葉に眉根が寄るが、気を取りなおして、不安げな面持ちのアナーキーな子供の元へと向かう。
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