あるアイドルの死 【Episode:4】

〔4〕


「……なんというか……壮観ですねえ」


 ウィリーが構築コーディングしたララベルのライブ会場を見回しながら、リードが感心したように呟き、俺は思わず顔を顰めながら「悪趣味といった方が正しくないか?」と返す。

 ライブ会場内は、辺り一面に十字架の形やレイボーの形など、様々なネオンサインで溢れている。

 それだけでなく『Laravel☆love』だの『ララベル我が愛』だのと、けばけばしいネオンサインが点滅し、それに混じってポルノショップのような卑猥な絵面のネオンも光っているのが、なんともウィリーらしい。

 マリア像を模したらしい、顔がララベルになっているオブジェや、赤く白い斑点のある巨大な毒キノコなどのオブジェもあり、まったくウィリーのイカレた頭の中を具現化したような空間だった。

 電飾で飾られたステージには、本来ならララベルがいたはずだろう。

 俺は辺りを見回しながら、耳を澄ませるがバグ特有の音もないし、カラム落ちしている箇所もない。


「悪趣味だが、完璧な構築だ。これだと、外からのアタックでララベルをロブる盗むのは難しいな」

「だとすると、ライブの観客などのふりをして中に侵入するしかないですね。アンチの情報も気になります」

「そうだな、ステージ裏に移動するか」


 ステージ裏は、舞台装置の機材やモニターがひしめくコントロールルームとなっていた。ステージのけばけばしさとはかけ離れた静謐な空間で、俺はモニターの前の椅子を引いて腰を下ろす。


「さて、俺は記録されていたライブ映像から、怪しげな人物がいないかチェックしていく」

「では、僕はウィリーさんが言っていた、アンチをタッチした時の情報を確認しますね」


 リードも少し離れたところのモニターをチェックしはじめ、俺は早速、ライブ映像を再生する。電脳アイドル特有の甲高く甘ったるい歌声が流れ始め、俺は少しばかりうんざりしながらも、画面に集中する。



 一時間後。

 俺はこめかみを揉みつつ、疲労感を覚えながら椅子の背もたれに寄りかかる。ウィリーがプロデュースするライブだけあって、なんとも卑猥でクレイジーなものばかりだった。


「どうして……アイドルが歌いながら半裸でチェーンソーを振り回して、あげくに豚を解体するんだ?」


 俺のうんざりとした声に、リードが不思議そうな顔を向ける。


「大丈夫ですか?」

「なんだか悪夢のようなパフォーマンスの連続だ。ララベルちゃんが、ショッキングピンクのウサギの被り物をしたダンサーにドレスを引きちぎられて、あげくにスライムが満タンのプールに放り込まれたりするぞ」

「……それは、壮絶ですね」

「だろ? でも観客は大歓声だし、ララベルちゃんはスライムまみれでも笑顔で歌い続けている……地獄だ」


 だが、そんなホラーのようなパフォーマンスを見続けた甲斐もあった。俺は幾人かの人物をピックアップして、中央に設置された大きなモニターに表示する。


「こいつらがライブ中に野次を飛ばしていた」

「野次を飛ばすために、わざわざ嫌いなアイドルのライブに来るんですか?」

「俺に聞くな」


 アイドルフリークの思考なんて、俺には、これっぽちも想像できない。リードが画面に映された人物を指差す。


「この真ん中の人物、ララベルの握手会のどさくさに紛れて、情報をタッチしようとしていますね」


 モニターに映し出された男がララベルと握手した瞬間に、タッチしようとしている。しかし、ララベルの手許はバリアが張られたように一種だけ青く光り、見事にはじき返しているのが分かる。ウィリーの奴、パスワードはスカスカのくせに、こういう防御策はかなり入念だったらしい。


「兎羽野さんがおっしゃる通り、ウィリーさんの腕は中々のものですね。この人物、握手会以外にもララベル経由でウィリーさんの情報をタッチしようと、何度かアタックを掛けています。しかし、その度にはじき返して、おまけに相手の情報をタッチし返していますよ」

「相手のゴーグルのGPアドレスを取得したらしいな」


 ここから、リアルでの本人の氏名や居場所などが特定できるはずだ。この人物が、他のララベル達をロブった盗んだのかは分からないが、ともかく本人から話を聞いてみるしかないだろう。

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