フィンディルさんに細かいところを見ていただいた

 フィンディルの感想参加、二度目。キャンペーンにて長編「のうち、はじめの一万文字」を読んだ上での文章表現についての検証を頂ける、というもの。ついでにオプションを適用、「一万文字を読んだ上での物語についての検討」をしていただきました。


今回ご感想を頂戴したのは、劉裕。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880920840


 トータルの結論は「やったー!」しかないのですが、それだと感想の感想にならない。なので以下、今回応募したいと思った経緯をまず書いた上で、頂戴した内容について順次検証します。



○根っこから見直そうぜ


 劉裕を語る専著としては吉川忠夫氏のものが、劉裕主人公の物語としては小前亮氏のものがそれぞれ出ています(ちまちま中国語の本も集めてます、まあぜんぜん読めてませんが)。誤解を恐れず申し上げますが、この両著には不満があります。その不満を解消せんがために劉裕の物語を、将来的には自分なりの検証を加えた同人誌を出したいと思っています。

 歴史を楽しんでもらうためには、まず「良質な物語」が必要。ここは三国志演義というとんでもねえ化け物を見れば分かるとおり。そんなレベルの物語を生み出し、その受容を生み出すのはまぁムリにしても、まずは「欲望を受け止める、空っぽの皿」は用意しておきたい。

 先に挙げた両氏の著作で「欲望を受け止める」のは、ほぼ無理です。なぜなら史実の紹介と、史実の物語化、だから。こうしたものは劉裕に興味がある方にしか届きません。その外には届かせづらい。外に届かせるためには、エンターテイメントとしての強度を意図的に構築せねばならない。

 ……ここまでは、作品を立ち上げるより前から考えていました。その後動かすだけ動かし始め、途中でどうしようもない知識不足に悶え、これを解消するために学び、学んだ結果得た膨大な内容を取捨選択もなしに放り込み、なんだか訳がわからなくなって止まっています。ちなみに始める前の知識を1としたら、現在の知識は十万を越えていると思います。こう言うのを、1をベースとした物語にぶち込んでるわけです。めっちゃいびつなんですよね。そりゃ止まります。

 ひとまず今、これまでに書いたやつをブラッシュアップしてKindle同人誌化し、「「五胡十六国」入門」と同文量になるくらいの中短編集をまとめ上げて二冊一組の同人誌として出版する準備を進めています。これが終わったら、「どんな形であってもいいからとにかく劉裕を完走させ、出来上がった全体像を踏まえて再構築し、二十万文字規模の同人誌にする」。この二十万字作品こそを、「劉裕まわりの欲望の受け皿」として機能しうる作品に仕立て上げたい、と思っています。

 この作品は、とにかくエンタメとしての完成度を徹底的に練るべきもの。「まず作品として楽しい」方向に徹底的に叩き、その上で初めて「あれ、劉裕って面白いかも?」と感じてもらいたい。そうしたものに仕立て上げるためにも、「いま、公開している作品のありよう」、つまり作品の現在位置もまた精密に把握すべき。このとき、フィンディルの感想長編冒頭エディションは、実際に劉裕を手掛けるのはまだ先にしても、決して逃すべきでないチャンスである、と感じました。

 今回のキャンペーンは表現の精査がメインですが、そこに「エンタメとして叩き上げるために何ができるか」的なオプションを入れさせていただきました。では、実際にどのようなご感想を頂戴できたのか。それをここから語っていきます。



○冒頭一万文字からは真北を感じた


 フィンディルの感想では作品の方向性をおおきく四つに分けます。北は大衆的。西は昇華的。東は実験的。南は抽象的。それぞれの方向性で小説表現に求められるものは違う、ならば読み方、指摘のしかたも違う。そう仰っています。いわゆるエンタメ小説は北。自分の本来の志向は西寄りなのですが、この作品はそうでなく、思いっきり北でなければならない。そう考えています。なので「北を目指す作品としてどうであったか」と問いました。ご回答は「志向は確かに来た北」。その理由として

 目的の明示

 ライトな語り口

 読者の期待と不安を煽る

 ……の、三点が見受けられた、とのこと。ひとまず安心です。ただ、その方法論が確立できているとは思えません。なのでこの指摘があります。「おもしろ「そう」なものにするには改善の余地がある」。ここはもう、そんなもの。過去の自分がそう作ってしまっている以上あれこれ言ってもしかたがありません。では、どう改善できそうか、を見る。

 ちなみに今回の応募は、まさしくこの「おもしろ「そう」」かどうかを探りたいと思っていました。なにせ四十万強、完成の折には五十万も突破してくるであろう作品において、一万なんてなにも始まっていないに等しい文字数です。けど、ここがだめなら続きを読んでもらえない。だから、ここを磨く。そう考えています。

 ではこの冒頭一万で、どう物語に引きつけるか? このテーマについて、フィンディルさんは仰ります。「主人公の行く末を見届けたくなってもらう」。

 さて、これをこの物語で考えたとき、どうなるでしょう。

 中盤、いわゆるプロットラインにて、劉裕の魅力を最大化させる。この意味で劉裕立身のきっかけである「桓玄」を打倒することがプロットラインの頂点に来る現状は正しい、と思っています。ここからの劉裕は個人武勇を振るう機会もなく、表向き無敵の立身を遂げるが、その実組織の力学に絡め取られています。一方で丁旿は組織からはみ出続ける。それ故のわだかまり、怒り、更に踏み込めば嫉妬が、丁旿を殺すための動機に結びつく。つまり理想は、冒頭で劉裕に対する好感を編み、しかしそれが最終的に丁旿に乗っ取られる予感を匂わせる、となるのでしょう。では、こうした仕掛けが現段階の冒頭に組み込まれているか? フィンディルさんよりのご指摘どおり。ノー、です。結果「劉裕に興味のない人向けに書きたい」はずが、「劉裕に興味のある人向け」にしか書けていない。改めてここをご指摘頂けたのが、本当にありがたい。とにもかくにも、この点についてはマストで解決せねばならない課題ですし。

 実のところ、冒頭についての仕掛け不足は過去にもご指摘を頂戴したことがありました。なので一度冒頭を差し替えようと試みました。が、頓挫しました。なにぶん当時は、上で語った劉裕と丁旿の好感度曲線的な部分を自覚できていませんでした。このため、どんな冒頭に組み替えるかを見出しきれていなかった。そしてもう一点、こちらが根源的な理由なのですが、現在自分自身が、この物語の因果関係を未だ把握しきれているとは言い難い。エンディングあってこそのオープニング、は、「エンタメ作品」として仕上げたいのであれば、これもやはり、マスト。不勉強な状態で始め、途中で知識を増築し、アンバランスになった船は、なによりもその航路を自分自身が見出しきれていません。この状態でオープニングという屋台骨を動かすのは、あまりにも危険である。そう判断しました。

 とはいえ、一方でこの問題があるのですよね。「では、オープニングにどんな要素を盛り込むの?」。これは物語パーツとは別軸の話です。どう、冒頭で劉裕に好感をもってもらうか。まあ「猫を助ける」以外ありえないわけですが。「どんな猫」を、「どんな野良犬」から救い出すか。ここに劉裕、劉穆之、そして丁旿の魅力を載せる。うまくこの方向を掘り下げたく思います。



○丁旿の「人物」化


 丁旿の人物像については「聞かれれば答えられる」状態です。つまりトラブルメーカー、あるいはトリックスター。それが本質なのですが、一方で、より「語り部」として、深い部分を語るためのギミックも背負わせています。ただ、そういった「今後の展開」に冒頭一万文字は関係ないのですよね。なら、ここで丁旿を非人物化しているのはよろしくない。

 こちらもやはり、ラストを踏まえたオープニングを再構成する上で深く検証すべき内容なのでしょう。



○クソ雑な人物紹介


 ピィ!(挨拶)

 ここについては、見立てがクソだった、と言うしかありません。だって、「紹介を最低限にするのがカッコイイ」と思っていました……ぼくはデイヴィッド・エディングスの盲信者(この人物紹介以上にシンプル)。まあ時流に合っていませんね。解消せねばだ。「登場人物を挟んでおかないと絶対に混乱する、しかし読み手にとってのめんどくささにはなりたくない……」とは考えていたのですが、いろいろ見て回ったところ「ここまでのあらすじ、各人物についてのアオリ文になると良い」と言った内容を見かけたので、順次取り入れていこうと思います。あと、場所も章の尻につける形で。



○細かい内容(つまり、本来の感想対象)


・おさむれぇ

 このメンタリティは、冒頭の「あんまりぐだぐだ細かく考えんなよ」の象徴としておいたものではありましたが、上にも書いたとおり、知識を詰め込んでいくうちにややなおざりになってきてしまった感じがあります。「おさむれぇ」とさらりと出てくるような世界観、を透徹できるようにせねば。


・五柳に話しているという設定

 ここについてはご指摘の通り、明示が甘くなっている箇所ですね。プロローグのあと、本編冒頭は大幅な再構築の対象となりますので、その際にあわせて明示ができるよう調整したく思います。



 丁旿の「~じゃねェ」みたいな口調を人物判別の符合として拾って頂けていること、ありがたく思います。劉裕も似た口調になるので、それがあるかないかで判別ができるように、としました。と言うのも二章以降、最終章にいたるまで、丁旿は劉裕と感覚・思考を共有します。両者の思考、言動が渾然一体となりがちとなるので、そこを区分けせねばならなかった。この辺りはもう、読み手の感覚的な部分への訴えですね。



◯今後のこと


 誰ぞがための戦いかの修正にいま悲鳴を上げていますw が、そこを終え、それを収録した本を出したらweb版劉裕を完結させ、そして今回頂戴したご指摘のうち表現のみに関わること、に修正を加え、web版完成、としようと思います。頂戴した内容のうち、例えば丁旿の人物化、といった部分は中途半端な修正の段階で手を加えると話が破綻しかねないので、同人誌化のための再構築に回したいと思います。

 より、わかりやすいヒーロー活劇……のガワを被ったうろんな何かに仕立て上げられるよう、今回頂戴したご指摘を活かして参りたく思います。


 改めて、ありがとうございます!

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