第3話 天野小夜子【編集室】
私と紙屋川は元会社の同期でした。
私はテレビ番組の編集をする会社に勤めていました。
テレビ業界は、ご想像の通りかなりハードな職種の一つで、全く寝ずに時間に追われることも珍しくありませんでした。
ですが、ADの方とは違って撮影などには参加せず、最後のテープに映像落とす仕事でしたので業界の中だと幾分か働きやすい環境だったと思います。
その日も深夜を過ぎて全ての作業が終わり、アシスタントの私は後片付けをしていました。
タクシー代が出ない会社だったので、そのまま会社で寝て朝まで過ごそうかと考えていながらいつも通り、編集機の電源を落とし、部屋のゴミを片付けていました。
その時、編集室の裏のマシンルームで人の気配がしました。
いつもは、夜遅くでも何人かは残っているですが、その日は私だけで嫌な感じがしたのを覚えています。
というのも、先輩からこの会社の編集スタジオは「出る」というのを入社の時に聞いていたからです。
このスタジオで「誰かが亡くなった」とか、「自殺した」とか、そういう直接的なことではなく、
心霊番組を編集していたせいで霊たちが住み着いてしまったという話をふと思い出してしまいました。
私は霊感など無く、霊それ自体も信じていませんでした。
しかし、シンと静まったスタジオの裏で、収録デッキを冷やすために大量に設置されたクーラーの音が、ザワザワと静かになっているので、「おかしい。」と不安になりました。
その時、部屋に設置されてる内線電話が鳴りました。
私は恐る恐る近づくと、この電話がキャッチしているのではなく電話をかけている側だと気づきました。
一体どこに繋がっているのだろうと何故かそのまま電話を耳に当てました。
プルルル、プルルル…。ガチャ。
どうやら受信相手が出たらしいです。
「………。」
お互い声を発しませんでした。
しかし、ふと考えたのが常識的に見ると電話をかけたのが私ということなら私から声をかけなくてはならないのでは……と。
「もしもし。編集室〇〇号です。もしもし。」
電話相手は、聞こえてはいるのでしょうが一向に返事をくれません。
「もしもし。夜分遅くにすみません。
実は勝手に電話がかかってしまい…。」
何を話していいのかわからなかったので状況を説明しました。
「……。」
一向に応対してもらえなかったので一言添えて切りました。
「あなたが誰か知ってる。」
何故、このような一言を添えたのか自分でもわかりませんでした。
その後、私は会社を退職し、なんの因果かコールセンターで勤めています。
今でも会社の同期と親交があり、時折ご飯を食べるのですが、先日奇妙な話を聞きました。
スタジオに出る幽霊の話には続きがあり、電話がかかってくると…。
8月10日 天野小夜子
加害者の為のホラー短編集 紙屋川白梅 @Hakubai
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