第2話 兵藤孝之介【望郷】
紙屋川白梅は、私の大学の友人だ。
特に仲が悪くも良くもなく。
もちろん、これまでの人生に全く関わってこなかった。
そんな人間だからこそ、この話をしたのかもしれない。
私が26歳になる年の正月に、中学校の同窓会に10年ぶりに出席するために地元に帰郷した。
私は転勤族であり、中学校二年生になる年にこの学校にやってきた。
中学生というのは、多感な時期なのか転校生など見向きもせず、孤独な時間を過ごした。
必死に馴染もうとしたが、上手くいかず修学旅行など行事は、自然と冴えないグループに入れられ学年で一番早く自由行動から帰ってきた。
19時までが門限で13時には宿泊先へと戻っていた。
誰に話しかけようとも、仲良くなることは無く、どこか壁のあるように接してくる同級生に申し訳なさと共に、疑問と自分勝手な憤りを感じていたことを今でも思い出す…。
そんな私が10年ぶりの同窓会では、容姿や言動、経歴や今の仕事など、どこか垢抜けていたのだろう。
もしくは、彼らが大人になったのか。
地元に残る彼ら彼女らには、よほど珍しかったのか。
真偽はわからないが10年前が嘘のように声をかけられた。
クラスのマドンナだった黒崎、不良であったが成績優秀だった上野、サッカー部のキャプテンだった南野。
場は盛り上がり、二次会へと会場を移した中で私は沢田に気がついた。
沢田は、当時野球部で家が近所だったクラスメイトだ。
人懐っこい笑顔とムードメーカーの彼は僕の憧れだった。
「兵頭。久しぶり。」
ろくに話しかけてきたこともない彼が話しかけてくるのは意外だった。
「今何しようと?」
私は、標準語で現状を伝えた。
「へぇ。すごかね!」
特に話すこともなくなるのが同窓会の常だ。
だが、せっかくなので、この沢田くんと昔話をすることにした。
近所だった沢田くん。
ムードメーカーの沢田くん。
人懐っこい笑顔の沢田くん。
話しかけてくれなかった沢田くん。
私の目を背け続けた沢田くん。
居ないものと見てた沢田くん。
傍観を決め込んだ沢田くん
彼の表情は僕にはわからない。
話の最後に、彼に一言だけこういった。
「君が忘れていても、君達を忘れたことはなかった。これからも、一生忘れないから。」
私は、このために10年ぶりに帰郷したのだ。
1月8日 兵頭孝之介
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