224:信頼は、繰り返さないと得られないよなって話


 俺はエヴァたちキャスパー三姉妹が泊まる宿に飛び込み、階段を駆け上がり、彼女たちの滞在する部屋のドアを勢いよく開けた。


「エヴァ! 隠し里を見つける方法なんだが試してみたい……こと……が……」


 俺の語尾が尻つぼみになっていく。

 半裸のエヴァと、半裸のカミーユと、半裸のマリリンがいたからだ。

 彼女たちの足下には様々な服や装備が散乱している。旅支度に装備を選別していたのかもしれない。


「あー、その。これは誤解なんだ。うんその……」


 目を点にして俺を凝視する三人。そして俺の視線は自然と一番でかい・・・部分にいってしまった。


「でけぇ」

「”空爆烈”!」


 エヴァの容赦ない魔法攻撃で、俺は吹き飛ばされ、宿の吹き抜け部分から、一階の酒場のテーブルへ派手に落ち、飲み食いしていた冒険者たちに囲まれながら、意識が薄れていったのである。


 ◆


 宿屋から場所が変わって俺の家。


 リュウコが三姉妹にお茶を煎れている。

 リビングのソファーには超絶不機嫌なエヴァと、いつもと変わらぬ無表情なカミーユ。そしてちょっとだけ頬を赤らめているマリリン。


 頭を打って気絶していた俺を担いで家まで運んでくれたらしい。

 マリリンがいるんだからその場で治療してくれれば良かったのに……。


「貴方が隠し里のことを大声で叫んでなかったらそうしました」


 エヴァの声が冷たい。


「それは悪かった」

「そ・れ・は?」


 ゾッとするような声音だった。


「も! もちろん! 部屋に飛び込んでしまった件もであります!」


 ジャビール先生に「部屋に入るときはノックをしろ」と言われた警告を思い出す。

 先生は正しかったんや!

 ……いや、常識だな。出来てない俺が全面的に悪い。だから三人に向かって土下座した。


 マリリンは頬を抑えながら「私がぁ~鍵を閉め忘れてたのも~悪かったんです~」と許してくれた。


 カミーユも「僕の身体なんて見ても面白くなかったでしょ」と流してくれる。意味はちょっとわからなかったが。


 エヴァは……うん。めっちゃ怒られた。すんげぇ怒られた。二時間くらい正座で怒られた。

 あと、途中からカミーユも一緒に怒られている。理由はこうだ。


「カミーユ! あなたクラフトが近づいていたのに気づいてたわよね!? なんで鍵を閉めるとかしなかったの!」

「そのほうが面白そうだったから」


 めでたく二人で正座で説教である。

 夜中になってしまったので、三人にはこのまま家に泊まってもらうことにした。


「なにか不埒な考えを……」

「ジャビール先生も住んでるし、リュウコもいる! 客室は余りまくってるから!」


 誤解を解くのに苦労したのである。

 女難の相でもあるんだろうか?


 ◆


 次の日の朝、三姉妹とリュウコと先生以外に、なぜかヴァンとリーファンもいた。


「国王陛下。こんな朝っぱらからなにやってんだよ。仕事は大丈夫なのか?」


 ヴァンが苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「あまり大丈夫じゃない。護衛騎士に掴まる前に、やることをやって見せろ」


 あとでちゃんと報告するってのに、まったく。

 リーファンが大きく息を吐き出す。


「クラフト君の報告書はいつも結果しか書いてないから。だいたい途中経過で問題が起きまくってるでしょ! もう少し、後から被害を聞かされる身にもなって欲しいよ!」


 結果良ければ全てよしだと思うんだが。

 そんな俺の内心を読み取ったかのように、リーファンが眉をつり上げる。


「結果以外を見るために私たちが来てるの!」

「お、おう」


 押し切られてしまった。わざわざ来てくれたのだから追い返したりはしないが、少しだけ納得がいかぬ。今回は特に危険があるわけじゃないんだ。


 リーファンが指をピンと立てる。


「それで? 今度はなにを思いついたのかな?」

「たいしたことじゃない。エヴァにダウジングしてもらったら、里の方角がわかるんじゃないかなって」


 一瞬考え込むリーファンだったが、すぐに顔を明るくした。


「ダウジング……クラフト君! 名案だよ! でも、物体じゃなくて里なんて曖昧な物をダウジング出来るのかな?」

「わからんから試してもらおうと、昨日宿屋に飛び込んだんだよ。ダウジングティアドロップは使う人の知識から、概念を認識しているはずだから、可能性はあると思って」

「試すだけなら危険もなさそうだね!」

「失敬な。危険があるものなら、夜にちょっと試してもらおうなんて思わないって!」


 俺の申し開きに、リーファンが半目を向けてくる。


「前科がありすぎるからね」

「ひでえ」


 とにかく、エヴァにダウジングティアドロップを渡して、使ってもらうことにした。

 使い慣れているリーファンがエヴァに説明してくれたのだが、途中で何度も危険はないからって強調しなくてもいいじゃないか!


 説明に納得したエヴァが、ちゃらりと鎖をたらし、ティアドロップを持つ。


「里のことを想像しながら使うんですね?」


 リーファンが頷く。


「できるだけ細かく、詳細に考えるんだよ!」

「わかりました。行きます」


 しばらくは止まっていたティアドロップだったが、ゆっくりと小さく回り始めると、一方向を指すように、わずかな光が灯る。それを見てリーファンが目を輝かせた。


「反応してるよ! でもかなり曖昧だね。方角は東北東かな? かなり距離がありそうだね」


 目的地は相当に遠方なのか、微弱で方角も曖昧な反応だ。

 ヴァンが「ふむ」と顎を撫でる。


「王都方面か」

「もっと東だと思います。この反応ですと王都よりもっと距離がありそうですね」

「なるほど。ならば王都に転移門で移動してから、もう一度試してみればよかろう」

「はい。陛下」


 すでに王都とゴールデンドーンを結ぶ転移門は、許可を得た商人が使う大型のものと、ヴァンと関係者が使うための小型の転移門が設置されているので、王都までの移動は簡単だ。


 俺は全員に宣言する。


「よし、全員明日までに準備をして、城に集合だ!」

「「「おう!!!」」」


 こうして俺たちは、カイルを復活させる旅を始めたのだった!


 次の日。

 ゴールデンドーン城の部屋に、ぞくぞくとメンバーが集まってきたわけだが……、問題児がいたよ。


「ジタロー……」

「なんすか?」


 俺はジタローの後ろに積み上がる無駄な食料や必需品を睨みつけた。


「なんだその荷物は……」

「そりゃあ、長旅になるんすからいくらあってもいいと思うんすよ!」

「どうせシールラさんとこで買い漁っただけだろ」

「それはそれ! これはこれっす!」

「はあ……そもそも必要なものは全部王国から支給されるっつーの」

「それはそれ! これはこれっす!」


 俺は処置無しと首を横に振る。


「どうせクラフトさんとエヴァさんの収納があるんだからいいじゃないっすかー」

「私、そんなに入れたくないですよ……」

「正直、俺もだ」


 収納するだけなら問題ないけどよ、でも気分的になんか嫌だ。ジタローの煩悩を手伝ってるみたいでよ。

 俺とエヴァが呆れてものも言えなくなっている


「さー! 出発っすよ!」

「「「おー……」」」


 俺たちは気の抜けた返事をしつつ、転移門をくぐり王都へと移動したのであった。



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