225:目新しいものには、興味がいっちゃうよなって話
俺たちは転移門をくぐり、王都へと到着して早速、魔術師の隠し里を探す旅に出るであった!
仲間たちに見送られ、王城を出た俺たちは、とりあえず王都を出るため大通りを進む。
それにしてもさすが王都である。人は多いし活気に満ちていた。なにより店舗数が桁違いである。
ゴールデンドーンも負けていないと思うが、歴史を感じさせる老舗や、重厚な高級店などを見ると、王都の凄さを再認識した。
もちろん仲間たちも同じ気持ちで王都を眺めていると思っていたのだが、どうやら王都の魔力は想像以上だったらしい。
「いやー! やっぱり王都の服はかっこいいっす!」
「普段は服なんて買わないのに……王都マジックだわ」
「さすが王都なのよ。珍しい魔法の道具がたくさんなのよ」
「見たことのない武器が多いナリよ。これとか暗殺に使いやすそうナリよ」
ジタロー、エヴァ、ノブナ、チヨメが王都のメインストリートに捕まっていた。
俺は額を押さえる。
「お前らな……」
「クラフトさん! そうは言うっすが、これ見てくだせぇよ! めっちゃモテそうでイケてると思いやせんか!?」
高級そうな店で、ガラス越しに飾られている高そうな服に興奮するジタロー。
エヴァがチラリとジタローに視線をやる。
「ジタローさんと話題が被るのは本意ではありませんが、さすがは王都です。最先端のデザインが揃っていまして……」
エヴァ。お前はどっちかってーとオールドスタイルな魔術師スタイルを好んでいると思っていたのだが。
俺の心の突っ込みに感づいたのか、少し不満げなエヴァ。
「仕事着と普段着は別ですから。それにクラフトさんが錬金した強化糸から作った布の服を使ったら、冒険着は他のを使えません」
「ミズホ神国と取引したときに、強化糸の原料、シーサーペントの鱗がたくさん手に入ったからな」
他のメンバーと同じく、王都のこじゃれた店を覗き込んでいたリーファンがこちらに振り向く。
ノームのハーフで、鍛冶を始めとした製造なんでもござれの万能ロリ娘(?)である。
「……ねぇクラフト君。一瞬失礼なこと考えなかった?」
俺は心を読まれ内心焦るが、おくびにも出さずに話題を転換した。
さっきから、当たり前のように心の声がバレているのはなぜだろう。
「なんでリーファンは、ジャスパー姉妹の服を作り直したとき、それまでと同じデザインにしたんだ?」
「そう希望されたからだよ。戦闘スタイルにあった服装だから、あんまり変えたくないんだって」
「なるほど」
「あ、でも性能は比べものにならないくらい向上してるからね!」
エヴァがリーファンに笑みを向ける。
「軽くしなやかなのに、とても丈夫ですから、一度使ったらもう手放せませんね。こんな良い物を無償で提供してもらって良かったのでしょうか?」
「王国からの支度金で賄えてるから大丈夫だよ!」
「材料費だけなら、そこまで高くはないんだけどな」
エヴァが冒険者向けの服を売る店頭に頭を向ける。そこには強化糸から作られた冒険者用のマントが飾られていた。
「……高いですね」
「高額」
「目玉が飛び出るっす」
「マスターとリーファン様が作ったのですから、当然の価値かと」
リーファンが苦笑する。
「ま、まああれだよ。輸送費とかそういうので……」
俺は首を傾げた。
「転移門が出来る前ならその話も納得できたんだが、王都のメインストリートに店を構えるような豪商が、転移門の利用料金をケチるとは思えないぞ」
俺の疑問に、メイドのリュウコが丁寧なお辞儀をする。
「僭越ながら、現在強化糸を作れる方は、マスター以外にはジャビール様とそのお弟子数名程度であると思われます。単純に希少価値かと思われます」
そういうこともあるかと、俺は頷く。
「あー、そういえば、強化糸は他の錬金素材と違って、身内にしか配ってなかったなぁ。先生、これも論文とか出した方がいいんですかね?」
ジャビール先生が、短い間思案する。
「現状の錬金方法だと魔力が馬鹿みたいに必要なのじゃ。それを補う素材を使った作りやすい錬金法を編み出してからの話なのじゃ。今は仲間内にだけ出回っておればよかろう」
先生も強化糸を作れるが、量産する職人錬金術師になる気はないだろうからな。職人錬金術師が作れるレシピを開発して、生産は投げたい。
「それならなんで、ここで売られてるんだ?」
俺の疑問にリーファンが答えてくれる。
「今回の旅に合わせて、仲間の服を作るために、私が強化糸を布にしたじゃない。どれくらい必要かわからなかったから、大量の強化布をまとめて作ったんだよ。それで余った強化布は販売に出したから、それだよ」
「なるほど。……しかし高額すぎんか?」
「予想はしてたけど、完全に想定を超えてたね。あはは」
「また商業ギルドの仕業か」
「もしかしたら嫌がらせも込みなのかなぁ?」
生産ギルドと商業ギルドの確執については、いずれ語る機会が来るかもしれないが、今はあまり仲が良くないとだけ覚えておいてくれてれば良い。
先生が話を終わらせにかかる。
「別に誰も困らんのじゃ。良いものは高い。それだけの話なのじゃ」
そういうもんか?
先生が言うならそうなんだろうな。気にしないことにしよう。
「さて、そろそろ誰か、服を買い漁ってるマリリンとカミーユを店から引っぺがしてくれ。あと大道芸に夢中なマイナとそれを暖かく見守っているペルシアもだ」
こうして俺たちは、旅立つのであった!
……締まらねぇ!
◆
俺は知らなかったが、ジャスパー姉妹はこんな会話をしていたらしい。
「お姉、お姉。こっそり買っておいた」
カミーユが取り出したひらひらとした服を見て、エヴァが眉をしかめる。
「なんです? ずいぶんと可愛らしい服ですね。カミーユもこういう服が気になるお年頃になったんですかね」
「違う。これ、お姉の」
「え!?」
「さっき、ずっと見てた」
「気づいてたんですか。……一応お礼を言っておくべきですかね」
「違う」
「え? ああ、プレゼントではなくお金をちゃんと払えってことですね」
エヴァは財布を取り出そうとするが、カミーユに手で制される。
「違う」
エヴァは不思議そうにカミーユを見た。
「どういう意味でしょう? 最近の私たちは稼いでいますから、この程度の贅沢は問題ないと思うけれど」
「違う。そろそろお姉も自覚したほうがいい」
「自覚……ですか? ああ。オシャレに少しは目覚めた方がいい的な」
エヴァとしては、別にオシャレに興味がないわけではない。単純に今までは贅沢するほど金銭に余裕があったわけじゃないことと、定住していない関係から荷物を増やしたくなかっただけである。
だがカミーユの言いたいことは違うようだった。
「違う。クラフト」
「……?」
「クラフトが死にかけてたとき、お姉、取り乱してた」
「え? それはそうでしょう。同僚が死にかけたのですから……」
「倒れてたカイル様すら、目に入ってなかった」
「それは……」
「いい加減、認めるべき。お姉、クラフトのこと好き」
唐突な指摘に、エヴァが弾けるように慌て始めた。
「ふぁっ!? な、なんで私があんな朴念仁のことを!」
「お姉、気づいてない。姉妹だけのとき、しょっちゅうクラフトとデートしたときの話をしてる」
「あれは、朴念仁が私を好きかもしれないって話で……」
「お姉、文句を言ってても、話すときいつも楽しそうだった」
「……」
「クラフトを狙ってる人は多い。ライバルだらけ。自覚しないと、負ける」
「わ、私はレイドック様をお慕いしていて……」
「お姉。後悔しない?」
「……」
エヴァは、自分の気持ちに明確な答えを出せないまま、少しだけ行動してみようかなと、漠然と考えていた。
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