95:最強部隊は、頼りになるよなって話


「いくぞぉぉおおおおおお!!!!」

「「「おおおおおおおおお!!!!」」」


 まずは斬り込み隊である、レイドックを中心に組まれた、この討伐隊最大戦力の冒険者部隊が突貫していく。


 浅瀬でしぶきをまき散らしながら、猛スピードで突っ込んでいく様は壮観だ。

 すぐに自分たちのテリトリーに踏み入られた事に気づいた、ヒュドラたちが怒り狂って冒険者集団に殺到する。


 ヒュドラは強くなればなるほど、首が増えていく謎の魔物だ。

 牛の数倍はあるだろう、三つ首、四つ首のヒュドラが山津波のように襲いかかっていく光景は、心臓に悪い。

 普通に考えたら、魔物の波に飲み込まれれば、草木の一本も残らないだろう。


 だが。


「おいおいおいおい……」


 つぶやいたのは、俺たちの護衛として横にいるヴァン・ヴァインだ。

 ヴァンは目の前の光景を信じられないと、口をぽかんと開けて眺めていた。


「〝岩斬崩撃〟!」

「〝飛翔連撃〟!」

「〝身突轟弾〟!」

「〝豪腕豪打〟!」

「〝真空飛翔斬〟!」

「〝業炎緋槍〟!」

「〝空爆烈〟!」

「〝氷槍〟!」

「〝灼熱炎柱〟!」


 レイドックを筆頭とした冒険者たちが、慌てずに剣技や魔法を放ち、ヒュドラの津波を正面から叩き潰した。


「……は?」


 ヴァンの奴、完全に目が点だ。

 うーん。やっぱりゴールデンドーンの冒険者じゃないんだなぁ。

 震える指を、冒険者たちに向ける。


「クラフト。あいつら全員紋章持ちなのか?」

「選抜隊だから紋章持ちは多いが、全員じゃないぞ」


 レイドックのパーティーですら、全員が紋章をもっているわけではない。参加している冒険者は実力者揃いなので、紋章率は高いが、それでも半分もいかないだろう。

 むしろ半分も紋章持ちだったら驚く。


「いやいやいや。残らず剣技か魔法を放ってるではないか!?」

「紋章がなくても、訓練である程度は身につけられるのは知ってるだろ?」

「理屈はわかるが……紋章がない人間が技や魔法を覚えるとなると、過酷な訓練を長時間しなければならないだろう!?」


 こんな事を言い出すってことは、ヴァンはもともと紋章持ちだな。しかも戦闘でスタミナポーションを活用してないとみた。

 するとそばにいたジャビール先生が頭を横に振りつつ、会話に入ってくる。


「へいか……ごほん! ヴァン殿。じゃから何度も、このスタミナポーションは別格じゃと説明したのじゃ」

「あれか。訓練に伝説スタミナポーションを取り入れたら、戦力が一〇倍になるという……話半分程度にしか聞いてなかったぞ」

「結構な量を献上しのじゃが……」

「ああ。めちゃめちゃ良く効く栄養剤あつかいをしていた。ジャビール」

「ヴァン殿はその使い方で問題ないのじゃが、配下……ごほん! 仲間の冒険者などに使ってもらわなかったんかの?」

「それが面倒だから、こっちまで実態調査にきたと言っただろう」

「ぐ……へい……ヴァン殿はもう少し自分の立場というものをじゃの――」


 ヴァンの左手にある紋章を隠すかのような手袋と、先生との会話から、貴族なんだろうなとは察しがつく。

 辺境伯の事も呼び捨てだったから、ヴァンもかなり地位の高い貴族かもしれない。


 もっとも、自称冒険者なので、忖度して気をつかってやる必要はないだろう。

 ヴァンはしばらく先生に説教を受けていたようだが、片手を振って話題を切り替えた。


「それにしても、強すぎだろ! あいつら!」


 レイドックパーティーを指していたので、俺も嬉しくなる。

 あいつは、俺が目指していた冒険者像そのものだから。


「そうだろうそうだろう。ゴールデンドーンの冒険者はみんな優秀なんだぜ!」

「ああ。心の底から認める」


 ヴァンが力強く頷いたので、俺も機嫌が良くなった。

 二人の視線を追って、ジャビール先生も冒険者に視線を向けた。


「うーむ。話には聞いておったのじゃが、すさまじいのじゃ」

「みんな頑張って訓練してましたからね!」


 今回、湿地討伐隊に参加した、兵士と冒険者は、カイルの初陣だからと、普段以上に張り切っているのだ。

 集団行動の苦手な冒険者たちも、レイドックがいればこそだが、遊撃隊程度に組織立った動きができるまでになっている。

 兵士もアルファード、デガード・ビスマック、タイガル・ガイダルの三人によって、徹底的に鍛えられたおかげで、全員が優秀な兵士となっていた。


 今も、ヒュドラの活け作りが宙に舞い、ジタローが魔石を拾い集めている。

 ……いつの間に。

 戦力としてはかなりのはずなんだが、冒険者グループの雑用係みたいになってんな。

 迷惑かけてないならいいか。


 すると、俺とキャスパー三姉妹と一緒に、マイナの護衛についているリーファンが、横に立った。


「ジタローさんは自由だね」

「まったくだな。素直に弓で援護してればいいのに」

「レイドックさんたちが凄すぎて、援護の必要がないみたいだね」


 蒼い閃光がきらめくたびに、ばらばらになったヒュドラが打ち上がる様子をみながら、ヴァンが突っ込みを入れてきた。


「暴れすぎだろ!? あんなに技を連発してたら、五分も保たんぞ!?」

「あー。レイドックはあれでも全力の八~九割くらいなんだよ。スタミナポーションで確実に動き続けられる限界値を、感覚で掴んでる奴なんで」

「あれで八割だと!? ……そうかスタミナポーション……」


 ヴァンのやつ、驚いたと思ったら、今度はぶつぶつと独り言を始める。

 まぁ放っておこう。


「クラフト兄様」


 近くで戦況を聞いていたカイルがこちらにやってくる。


「レイドックさんの部隊を二分して、中央のマングース群生地を挟むように、周囲を殲滅するよう指示をお願いします」

「わかった。リザードマン部隊も二分するか?」

「そうですね……。ではリザードマン部隊も二分します。ただ、戦闘は冒険者部隊に任せるよう伝えてください」

「了解だ」


 俺はすぐさま通信の魔導具を起動し、二人にカイルの指示を伝える。

 もともと予定されていた作戦なので、すぐさま行動に移ってくれた。


 すると、いつの間にか俺たちの会話を見ていたヴァンが、目を剥いていた。


「お前たちが付けてるその指輪……」


 ヴァンが指さしているのは、精神感応オリハルコンの指輪だ。


「ん? ああ、これがこの作戦の要になる、通信の魔導具だ。盗もうとか考えるなよ?」

「そんなことはせぬが、だったら俺の前で使うのも不用心だろうよ」

「カイルの護衛なんだから、あんたに隠してたら指示が遅れるだろ。仲間優先ってのが一番の理由だけど、さっきジャビール先生にも確認したんだよ。ヴァンなら大丈夫だとさ」


 うーん。どうして先生がヴァンをここまで信用しているのかわからないが、先生が大丈夫と言うのだから、大丈夫なのだ。


「通信の魔導具……戦に投入すると、ここまで部隊が有機的に動くのか」

「あれ? ヴァンはずいぶん素直に機能を理解してるんだな?」

「ん? あ、ああ。オリハルコンにそのような機能があるのは知っていたからな」


 あれ?

 それって一般的に知られてないよな?

 近くにいたジャビール先生にそっと耳打ちする。


「先生。オリハルコンがどんな金属か、一般的には知られてませんよね?」

「うむ。一般的どころか、魔術師や錬金術師ですら、まともな知識はないぞ。名前だけはゆうめいなのじゃが」

「はい。俺も名前だけは知ってました。でも、紋章のささやきを聞くまでは、なんかスゲー金属っていうくらいの認識です」

「それとて、おぬしが冒険者だったから知っていた程度の話なのじゃ。一般的にはほとんど知られておらんのじゃ」

「なるほど」


 そこで俺は首をひねる。


「ならなんであいつ、一目でオリハルコン製って見抜いた上に、全く知られてない、通信の機能の事まで知ってるんです?」

「ぬぐっ!?」


 そこで先生が咳き込む。


「ごほっ! そっ! それはあれじゃ! あー! そう! 私がそんな話を昔したようなしなかったような記憶があるのじゃ……!」

「ああ! なるほど!」


 先生が教えたんならしょうがない。先生はなんでも知っているからな。


「その話はあれなのじゃ! とりあえず置いておくのじゃ! とにかく悪い奴じゃないので、もうちょい接し方をじゃの?」


 先生の態度を見てると、やっぱりいいとこのボンボンっぽいなぁ。

 でも、今さら敬語とか使っても遅いと思いますよ!


 そのタイミングで、空に魔法を使ったのろしが上がったのが見えた。


「クラフト兄様!」

「あの色はレイドックだな! すぐに確認する!」


 即座に通信の魔導具を起動。

 魔力消費が大きいので、こうやってのろしと併用することで、通信回数を抑えているのだ。


「レイドック、何があった!?」

『生存者を見つけた! 瀕死だったがヒールポーションで持ち直した。ザイードの私兵の一人だ!』


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