73:美少女のお願いは、叶えなきゃねって話
俺たちはシュルルの案内で森を突き進む。
スタミナポーションを飲んでもらった事で、森を滑るように進んでいくシュルルだったが、さすがにエヴァが追いつけないので、少しだけペースを落としてもらった。
そのおかげでシュルルに余裕ができ、色々な話を聞けたわけだが。
「村までどのくらいだ?」
「もう少しです!」
「エヴァ! 大丈夫か!?」
「な! なんとか!」
たいして強い敵ではないが、あの巨大ガエルがどこに潜んでいるのかわからない状況で、バラバラに行動するのは危険だ。
俺たちははぐれないように全力でリザードマンの村へと向かう。
目的地の名称はひょうたん沼村。
念のためだが、旧ゴールデンドーンの近くにあった湿地帯とはまったく別の場所だ。距離も場所も全然違う。
シュルルの父親が村長をやっているらしい。
「なるほど、あの巨大ガエルの魔物、パラライズバロンフロッグって言ったか? そのバロンが大量にあらわれ、村が襲われたのか」
「うん。鱗持ちの戦士が防衛して、私たち鱗の少ないリザードマンたちを逃がしてくれたんだけど……」
シュルルがそこで言葉を切る。
「逃げる途中にもバロンがいて、一緒に逃げていた仲間が、村長の娘の私を優先して逃がしてくれて……」
悔しそうに、唇を噛みしめるのだ。
「わたしも戦うと言ったのだが、みんなにそれでは何のために避難しているのかわからないではないかと、無理矢理逃がされて……」
「そうか。そいつらも上手く逃げててくれるといいな」
村に戻る途中の道に、それらしい死体は見当たらなかったので、なんとか逃げてくれていると信じたい。
「クラフトさん! レイドックさん! 戦闘音がしやす!」
ジタローの合図で、移動隊形から、戦闘隊形に移行。
レイドックが号令を発する。
「いいか! 今から立ち塞がるカエルの包囲網を一点突破! 村の中に飛び込む! その後は道中決めていた作戦通りだ!」
「「「おう!!!」」」
「シュルル! お前の説得次第で作戦が変わるからな!」
「は……はい!」
「よし! 全力前進!」
リーファンではなく、レイドックが先頭に立ち、喧騒のする方角へ駆け抜ける。
「”螺旋旋風”! ”混沌乱舞”! ”風雪乱斬”!」
ひらけた空間に飛び出したと同時に、レイドックの剣技が炸裂。奴の前に道が開いた。
俺も森を抜ければ、そこは確かに集落。
村は沼のほとりに、半円状の木柵で囲われていた。
村は全方位からカエルに囲まれていた。
本来であれば、村は柵と沼に守られ安全なのだろうが、なにしろ相手はカエルだ。しかも巨大な。沼が防衛の役割を果たしていない。
丸太で組まれた柵にツッコんでいる間抜けなカエルもいるが、その多くは村の沼方面から進入しているようだ。
俺たちは予定通り、陸側の正面門を目指す。
柵や門にこだわるカエルは少ないが、とにかく凄い数のカエルなのだ。当然正門前にも大量のカエルが暴れていた。
「邪魔だ! ”十文字斬”! ”狼突崩壊”!」
「援護するわ! ”閃撃牙襲”! ”虚空虚洛”!」
レイドックが門前に固まっていたカエルを挽肉に変え、さらにソラルの弓が数を減らしていく。それにしてもとんでもない数のカエルだな!
バロンフロッグはかなりの巨体だ。それが百を超えているのだ。その圧力は半端ではない。
丸太を組み上げて作られた門の上から、槍を振るっていたリザードマンがこちらに気付いて悲鳴のような声を上げた。
「なんだ!?」
「私だ! シュルルだ!」
「シュルル様!? どうして戻って来た!?」
「援軍です! 中に入れて!」
「は!? そ! そいつらは人間ではないですか!?」
俺たちはシュルルを中心に門前で防衛体制を構築。
押し寄せてくるバロンを次々とミンチにしていく。門をぶち破るのは簡単だが、主戦場は沼側なのだ。ここは残しておきたい。
「そうだけど! 味方なんだ!」
「し! しかし!」
「問答している時間はない! 強さは今見てるでしょ!」
「そ! そいつらが敵で無い保証が……!」
「この人たちがこの村を襲うつもりなら、こんな門簡単に突破できるよ! ここを守ってくれているのが何よりの証拠でしょ!?」
「う……ぐ! わかった! 入れ! 開門! シュルル様たちを入れたらすぐに閉めろ!」
「よくやったシュルル!」
辛うじてカエルの攻撃に耐えてきたのだろう、ぼろぼろになっていた木製の門が、通れるギリギリの幅だけ開く。
「よし! 飛び込め!」
レイドックの号令で俺たちは村の中へ、転がり込んでいった。
村の中は想像以上に酷い有様だった。
そこら中でリザードマンがヒューヒューと苦しげな呼吸で、転がっているのだ。
どうやら強力なマヒ毒で、呼吸をまともにすることすら出来ないらしい。
「みんな!?」
「シュルル様! これはいったいどういう事だ!?」
「説明より先に、みんなを治療しないと!」
「治療だと!? バロンのマヒ毒に効く薬など……!」
「クラフトさん! お願い!」
「任せろ!」
俺は用意しておいたキュアポーション入りの試験管瓶を抜き出し、指の間に挟む。片手に三本ずつだ。
そして、冒険者時代に磨いたナイフ投擲技術の要領で、倒れているリザードマンたちに、次々と投げつける。
「何をやっている!? 人間!」
叫ぶリザードマンを無視して投げたポーション瓶には仕掛けがある。
リーファン特製のポーション瓶の特徴1。非常に硬く、割れにくい。
特徴その2。特定の魔力を流すと、それに比例した時間後に、ポーション瓶が割れる。
今、俺が投げたポーション瓶には、ちょうどリザードマンにぶつかるタイミングで割れるよう魔力が込められていた。
つまり、わざわざ瓶を開けて回る必要がなく、次々とキュアポーションがリザードマンの身体にふりかけられるのだ。
特徴その3。魔力で壊したポーション瓶は消滅する。
割れた瓶の破片で怪我をする事も無いようになっている。
「ぜぇ! ぜぇ! 苦し……呼吸! 空気……!」
喉を押さえてのたうち回っていたリザードマンに、ポーション瓶が飛び、身体にぶつかる寸前、割れて消える。
中身のマナポーションだけが、そのリザードマンにぶっかかった。
「ぜぇ! ぜぇ! 誰か……あ? あれ? すうはあ! こ、呼吸が出来る!? どうなってるんだ!?」
よし! 効いてるな!
俺は次から次にポーション瓶を投擲、倒れているリザードマンを次々に治療していった。
「た、助かったのか?」
「息が出来るぞ!」
「どうなってるんだ!?」
視界の全てのリザードマンが起き上がるのを確認して、ほっと安堵する。
門を守っていた兵士たちなのだろう、シュルルと違ってかなり爬虫類よりの見た目で、なるほど立派な鱗に覆われているやつが多かった。
「人間? どうしてここに?」
「みんな聞いて! この人たちは私たちを助けに来てくれたの! 見ての通りバロンのマヒ毒を治療出来るわ!」
「おお!」
「いやしかし、人間とは絶対に接触してはならぬと……」
「そんな事言ってたら全滅しちゃうよ!」
「うっ」
「シュルル様! それではこれからどうしろと……」
「レイドックさん!」
「おう! みんな聞いてくれ! 俺たちはあんたたちを害するつもりは一切無い! 今は説明している時間がおしい! 助けに来たんだ!」
「そ……それは助かるのだが……」
「この門はあんたたちだけで防衛出来るか!?」
「そ、それは……」
「マヒ毒さえなければ、俺たち戦士がカエルごときに遅れなどとらないのだが……」
牙を噛みしめるように零すリザードマンたち。
「それなら安心しろ!」
俺は空間収納から、大量のポーションを取り出す。
「これは毒予防薬だ! 全員分ある!」
「な、なんだって!? 治療できるだけでなく予防も!?」
「ああ! 念のため治療薬とヒールポーションも置いてく! これだけあれば足りるか!?」
「た……たぶん。だが、これは貴重な物だろう?」
「命より貴重なもんなんてあるわけないだろう!?」
「クラフトさん……」
シュルルが俺を見上げてくる。
安心しろ、金を要求したりしねぇよ。
「それとスタミナポーションだ。全員飲んで置いてくれ!」
「……わかった! みんな! 今は非常時だ! シュルル様を信じよう!」
「みんな! ありがとう!」
「マヒ毒さえなきゃあんなカエルども!」
「それより沼側を応援にいくべきじゃないか?」
騒ぎ始めるリザードマンに、レイドックが一括する。
「ダメだ! あんたたちはここを死守してくれ! 村の沼側には俺たちが行く!」
「だが!」
「さすがの俺たちも、背後から急襲されるのは困る! あんたたちに背中を預けたい!」
雷に打たれたかのごとく、リザードマンたちが震える。
「……わかった! あんたたちを信用しよう! そして俺たちを信用してくれ! この門は、あんたたちの背中は俺たちが守る!」
「ありがとう!」
レイドックが礼を言った直後だった。
村の奥、沼側から、ずずーんと腹に響く轟音が響いてきたのは。
「ヤバそうだな。よし! みんな行くぞ! これからが本番だ!」
「「「おう!!!」」」
レイドックを先頭に、村の中を疾走する。
走りながら目についたリザードマンに、片っ端からポーション瓶を投擲しつつだ。
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