74:キャラの属性は、一つに絞れって話


 そこはまさしく戦場だった。

 村の中央にある一番大きな建物を、沢山のリザードマンが防衛していた。


 沼から侵入してくる巨大ガエルを弓や槍で撃退しているのだが、カエルがマヒ液を吐き出す毎に、一人、また一人とリザードマンが倒れていくのだ。


「くそ! マヒした戦士を家の中に! 動ける者はなんでもいい! 矢でもツボでも投げつけてやれ!」

「ジュララ! もう油壺がない! これ以上は火も使えない!」

「くっ……まさかバロンどもがこれほどの数いるとは!」

「どうするんだ!? ジュララ!?」

「考えている! 今はとにかく数を減らすんだ!」

「もう戦士が……ほとんど残ってないんだ!」

「くそっ! 全員で村を捨てるべきだったのか!?」


 丸太作りの家を守っている戦士の中でも、ひときわ爬虫類寄りの男が、後悔するように叫ぶ。

 伝承に聞いていたリザードマンそのものの姿だった。


「兄さん!」


 シュルルがその男に向かって叫んだ。


「シュルル!? どうして戻ってきた!?」

「援軍を連れてきたの!」

「なんだと……人間!? シュルル! お前なんてことを! それと言葉遣い!」

「こんな時まで!」


 どうやらその屈強なリザードマンがシュルルの兄らしい。

 しかし、シュルルの言うとおり、こんな時に言葉遣いの注意をするとは、よほど厳しい家庭なのか。シュルルの言葉遣いがブレていると感じていたが、どうやらこの辺の問題だったらしい。

 のんびり聞いていたいが時間が無い。俺は二人の会話に割って入った。


「聞いてくれ! 俺たちは味方だ! 助けに来た!」

「人間が!?」

「リザードマンは滅んだと伝わっていた! だがシュルルに会った! 言葉の通じるやつらを助けるのに理由がいるのか!?」

「ぐっ……!」


 ジュララと呼ばれていたシュルルの兄が言葉を詰まらせる。その間にも、レイドックたちが建物を囲むバロンを減らしていく。


「おい見ろあれ! バロンがあんなに簡単に!?」

「ダメだ! その液体はマヒ毒で……! って効いてないのか?」

「人間!? なんでこんな所にいるんだ!? 門が破られたのか!?」

「だが、救援に来てくれたのは間違いないようだぞ……」

「誰か村長に知らせろ!」

「いや! この戦いは次期村長であるジュララに全てを任された! ジュララの指示を待て!」

「どうするんだ!? ジュララ!」

「ぐっ……」


 ずずーん!

 再び腹に響く轟音が響いた。


「不味い! 壁がもう保たない! ジュララ!」

「わかった! 助力感謝する! 中に入れ!」


 ジュララが決意を発する。

 レイドックがすぐさま指示を出す。


「よし! 中衛と後衛は中に! 俺とリーファン、カミーユとモーダはあの壁を攻撃している一団を叩くぞ!」

「「「おう!!!」」」


 村に向かう途中で決めていた作戦通り、俺たちは別れる。

 外の指揮はレイドック。中の指揮は俺だ。


「よし! ジタロー、ソラル、エヴァ、バーダックは上から援護してくれ!」

「了解よ!」

「任せてくだせえ!」


 すぐに階段を駆け上がっていく四人。レンジャーと魔術師で、建物を守りつつ、レイドックを支援するのだ。


「よし! ベップとマリリンはすぐに治療に当たってくれ! マリリンはこれを!」


 空間収納からマナポーションをありったけ取り出す。


「了解よー」


 ベップはキュアポーションとマナポーションを配り、マリリンはマナポーションをがぶ飲みしながら治癒の魔法を連発していった。


「お……おお! 動ける! 動けるぞ!」

「マヒが消えた!? 嘘だろ!?」

「なんでもいい! すぐに槍を持て!」

「待て! これを飲め! 毒の予防薬だ!」

「バロンのマヒ毒に効くのか!?」

「ああ!」

「助かる人間!」


 建物の中で呻いていたリザードマンたちが、次々と起き上がっていく。


「矢だ! 使え!」


 俺は空間収納から、ソラルとジタロー用の矢をありったけ取り出す。


「おお!」

「鏃をこの液体に浸すんだ!」


 小型の樽を取り出し、みんなの前に置く。


「これは?」

「シャープネスオイル! 槍や剣には、布で塗ってくれ!」

「聞いたことが無いぞ?」

「切れ味が良くなる油だ! とにかく付けろ! ただ付けすぎに注意しろ! 無くなっても追加で作るほど時間は無いぞ!」

「わ、わかった!」


 俺は説明しながら、簡易錬金道具を取り出していく。


「何をするんだ!?」

「毒消しと予防薬を作る! さすがに手持ちじゃ全員分はない!」


 シュルルの指示で、強い戦士から優先してポーションを使っていったが、いくらなんでも数が足りない。


「作るって……今からか!?」

「大丈夫だ! 材料はある!」


 素材だけではなく、中間素材の錬金薬も持ってきてあるのだ。空間収納さまさまだな。

 スペースを空けてもらい、使いやすいように並べていく。色とりどりの薬が並ぶ様はうっとりするな。


「なんか……不気味だな」

「あれー?」


 おかしい……、このうっすら紫色に輝く錬金薬とか、薄暗い建物の中で格好良くない!?


「薬師よりだいぶ怪しい感じだが、本当に大丈夫なのか?」


 いつもなら擁護してくれるリーファンがいないから、まわりの目が痛いよ!?


「ま! まあ見てろ!」


 普通の鉄釜に、素材と中間薬を入れて、錬金術を発動する。

 まずは足りない中間錬金薬からだ。


「〝錬金術:分解五番錬金薬〟」


 鉄釜の上に魔法陣が浮かび、満たされた液体が光り輝く。


「おおおお!?」

「なんだこれは!? 魔法……? 妖術!?」

「いやいや、錬金術だ」


 慌てるリザードマンたちを宥めつつ、手は作業を止めない。

 これで必要な中間薬は揃った。

 錬金釜がないからな、思いっきり魔力を込める!

 この作業のせいで、レイドックからは戦闘禁止を言い渡されている。まぁしゃあない。


 大量の魔力が紋章を通じて一気に引っこ抜かれる。軽い立ちくらみのような感覚を覚えつつ、一気に術式を完成させた。


「〝錬金術:キュアポーション〟!!」


 再び釜が輝き、必要十分なキュアポーションが完成する。


「よし! どんどん飲ませてくれ!」


 戸惑っていたリザードマンたちだったが、先ほどのマヒを消す薬だと伝えると、慌てて呻いてる者たちへと飲ませたり、振りかけたりしていった。


 残っているのは、逃げ遅れたのか鱗の少ない連中が多かった。

 こうしてみると、本当に人間と変わらない奴もいれば、直立するトカゲそのものの奴もいるんだな。

 その中でも一番人間寄りなのがシュルルで、爬虫類寄りなのがその兄ジュララというのが面白い。


 俺はそんなどうでもいいことを考えつつ、ポーションを配っていく。


「大丈夫か!」

「ああ……呼吸が出来るようになった!」

「手足が動くぞ!」

「人間!? ……でもありがとう!」


 こうして次々に治療を終えていく。


「よし、次は予防薬だ」


 先ほどと同じ様に、毒の予防薬を錬金して、樽に詰めておく。


「俺は上に上がる。ベップ、マリリンあとは頼んだ」

「はい!」

「任されました〜」


 ベップならポーションの扱いには慣れているだろうし、怪我人やマヒ患者は腕のいいマリリンに任せておけば安心だ。


 俺は屋根につながるハシゴを一気に上る。


「戦況はどうだ!?」


 矢を撃ちまくっていたジタローを捕まえる。


「戦えるリザードマンたちが合流したんで、戦線維持できてやすぜ!」

「レイドックたちは?」

「見ての通り大活躍でさ」


 なるほど、建物を壊そうとしていたバロンは、あらかたレイドックたちが片付けたらしい。

 ペースが遅めなのは、バロンがでかくて、死体が邪魔とか、その辺の理由だろう。


「それより気になる事があるんでさあ」

「なんだ?」

「でかいカエルどもの囲まれてて、わかりにくいんでやすが、あそこ、沼方面わかりやすかい?」

「なんだ……? 〝遠見〟」


 ジタローの指さす辺り、たしかに少し様子が変だ。

 ひっきりなしに動くバロンの大軍で、ハッキリとはわからなかったが……。


「ひときわ巨大なバロンがいるな」

「なんだと!?」


 俺の呟きに答えたのは、さきほどから屋根の上で槍を振るっていたシュルルの兄ジュララだ。


「そいつは身体の表面になにか模様があるか!?」

「えっと……」


 どうにか遠見の魔法を駆使して、カエルの様子を確認する。


「あー、身体の表面に、赤黒い血管のようなラインがたくさん入ってるように見える」


 泥と区別がつきにくいので、確実では無いが、俺にはそう見えた。


「なっ……!? そ……そいつはデュークだ! タイタンデュークフロッグだ!」

「「「な……なんだってぇえ!?!?!?」」」


 巨大で公爵なカエルなのか。てんこ盛りだな!


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