51:ピンチを救ってくれるのは、仲間って話
「クラフトさん! 石化解除薬はまだですか!?」
家に飛び込んできた冒険者が汗だくで怒鳴った。
スタミナポーションはありったけ放出済みなので、彼がどれほど無茶しているのか一目でわかる。
「今造ってる! あんたはどこの部隊だ!?」
「右翼部隊! アルファードさんのとこだ!」
「クソッ。とうとう崩れ始めたか!」
すでに中央部隊にコカトリスの大軍が到着し、先ほどからひっきりなしに石化予防薬と解除薬を要求されていた。
特に予防薬を中央部隊に優先的に回している関係で、左右の部隊では石化する冒険者が出始めている。
ペルシアの左翼が、今のところ被害が少ないのは救いである。
「アルファードで抑えきれないのか?」
「さっき、かなりの数のコカトリスが一斉にこぼれてきたんだ。流石のアルファードさんでも捌ききれなくて、結構な数が抜けられそうになったんだ。それだけはさせないと、冒険者達が無茶をして……」
「くそ……予防薬も無いのに無茶しやがって。それで町中に入られたのか?」
「いや、それは断固阻止した」
「アルファードに配置された冒険者はランクが低いだろうに……だが良くやってくれた」
ハッキリ言って、コカトリスに一匹でも町に入られたらお手上げだ。
被害が想像も出来ない。
石化だけなら、まだ後で解除する方法もあるが、コカトリスは普通に凶悪なのだ。民間人など簡単に踏みつぶされて死んでしまう。
石化してまで侵入を防いでくれた冒険者達は、英雄だ。
「もうすぐ解除薬が完成する……しかし中央部隊もかなり被害が……」
俺の作成する石化解除薬は伝説品質だ。
一般的な石化解除薬では、数時間とか数日かかる石化の解除が、一瞬で終わる。
薬があれば、即座に戦線に復帰出来る優れものだ。
だからこそ、どの戦線も解除薬を切望している。
しかし、解除薬を優先して造っているせいで、予防薬が全然造れていないという問題にもぶち当たっていた。
予防薬を造る余裕が無くなったせいで、完全に石化と解除のいたちごっことなっている。
いや、コカトリスの本体が中央部隊に到着してからは、完全に押されている状態なのだ。
「完成っ! 半分……いや、三割を右翼に回して残りを中央部隊に!」
「なんだって!? それじゃあ!」
右翼からやってきた冒険者が抗議の声を上げるが、それは即座に遮られる。
「馬鹿か! うちの中央部隊が突破されたら、左右にコカトリスが大量に流れるんだぞ!」
怒鳴り返したのは、中央との連絡役だった。
彼はじっと薬の完成を待ち続けていたのだ。
「う……それは……」
「本当は七割どころか、全部欲しいんだ……わかってくれ」
「……ああ」
涙ながらに頷く右翼冒険者。もしかしたらパーティーメンバーでも石化したのかも知れない。
そこで再び玄関が大きく音を立てた。
千客万来だな! もちろん鍵は開放済みだ!
「クラフト君!」
「リーファン!? 柵の設置は終わったのか?」
リーファンは中央部隊の柵作りを手伝っていたはずだ。
すでに戦線が開いて、設置どころではなくなったのだろう。
「出来るところは! 何か手伝えることはある!?」
「なら、この樽を右翼に運んでくれ!」
「うん!」
申し訳ないが右翼から来ている冒険者より、リーファンの方が足が速い。
リーファンは有無を言わせず樽をひったくると、即座に外に飛び出していった。
「畜生! 絶対……絶対何とかしてみせる!」
俺は
◆
まずいまずいまずい!
アルファードは内心焦っていた。
もちろん表には一切出していない。そんな事をしたら共闘する冒険者達が不安に陥ってしまうからだ。
聖騎士時代に若くして小隊長をやっていたアルファードは、内心の焦りとは真逆に、落ち着いて言い放つ。
「大丈夫だ! お前達ならやれる! 私は正面を叩いてくる! お前達は残りを殲滅しろ! 絶対に町にいれるなよ!」
「「お……おう!!」」
冒険者達の返答に、次第に元気がなくなっていく。当たり前だ、先に大量のコカトリスを相手にした際、彼らの半数近くが大怪我、または石化してしまったのだ。
怪我はヒールポーションで治療出来たが、代わりに恐怖が刷り込まれてしまったし、なにより、石化した仲間を、後方に運ぶ作業は、心を折るのに充分だった。
それでも町を守ろうと立ち上がってくれた彼らだ。
士気が無くなったわけでは無い。
アルファードは最もコカトリスの数が多い箇所へと突っ込むと、二足トカゲの脚力と、己の腕力に任せて、軒並み肉片へと変えていった。
それでも数匹、数十匹だ。
二足トカゲの脚力のおかげで、ばらけているコカトリスも相当数刈り取る事が出来ているが、押し寄せる数が増え、先ほどから取りこぼしが多い。
今も優先するべきコカトリスの塊を相手にしているせいで、離れた数匹を見送ることになってしまった。
冒険者達がそこに殺到する。
彼らは勇敢だった。
中央部隊の冒険者と比べると明らかにランクの低い彼らだったが、絶対に町には行かせないという気迫で、格上のコカトリスを倒していく。
何人もの犠牲者を出しながら。
幸い、ヒールポーションが山のように配布されているので、死者は出ていないが、このままだと時間の問題だ。
「……しまった!」
どこにいたのか、一際巨大サイズのコカトリスが、大ジャンプし、アルファードを飛び越えるように抜けてしまったのだ。
「あれはまずい!」
アルファードは大きなコカトリス、つまりより強い敵を優先的に叩いていたのだが、その中でも大物に抜けられてしまう。
大きさで強さの決まるコカトリスだ、おそらく今の冒険者では倒す事が出来ないだろう。
アルファードがそいつを追ってしまえば戦線が崩れるため、追撃することも出来ない。
「うおおおおおおおお!」
アルファードは目の前のコカトリスを血祭りに上げ、一秒でも早く冒険者達の手伝いに回ろうとしたが、その必要は無かった。
「任せて!!」
聞こえてきたのは女の子の声……、いや、クラフトと同じくらい頼りになる、生産ギルド長、リーファンの声だった。
完全武装した彼女は、涎をまき散らして突進していた巨大コカトリスの正面に、盾を構えて受け止めたのだ。
攻城槌が城壁を破壊するような音が辺りに響き渡り、信じられないことにコカトリスの巨体をはじき返したのだ。
コカトリスが奇妙な悲鳴を上げる。
「みんな下がって! いくよ! ”岩盤崩撃”!!!」
リーファンが繰り出したのは、槌技だった。
硬ミスリルハンマーによる、威力特化の槌技を食らったコカトリスは身体の半分を吹き飛ばされ、地面にどうと倒れたのだ。
即座に追撃を受け、死に絶える。
「生産系の紋章持ちが槌技か、どれほどの修練を重ねたのやら。だが、助かる!」
アルファードは背後を気にするのをやめ、目の前のコカトリスどもを殲滅する事に専念する。
「リーファンがいてくれるなら、もうしばらくは保つ……が、限度があるぞ、クラフト!」
この状況を唯一打開できる人物の名前を、祈るように叫ぶのだった。
◆
一方左翼のペルシア部隊は、なんとか猛攻を凌いでいた。
「ペルシアの姉さん! 危ないっす!」
テバサキを駆るペルシアの死角に回り込んでいたコカトリスが倒れる。
飛び道具部隊に混じっているジタローの弓矢だった。
なにげに、この戦線を支え切れているのは、ジタローがいるからだったりする。
「助かった!」
「任せてくだせい!」
ペルシアが大声で礼を言うと、ジタローが腕を捲って見せた。
彼女は小さく笑うと、再びテバサキを走らせる。
「ふん。ジタローの奴、なかなかやる。今度機会があったら親衛騎士団の誰かでも紹介してやるか」
ペルシアが独りごちる。
「うおおおおお! マジっすか! マジっすか!? 俺頑張りやすぜぇええええ!!」
「え!? 聞こえたのか!?」
ジタローによる謎の奮戦で、左翼部隊は何とか戦線を維持することに成功するのだった。
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