25:仲間がいたから、やりきれたって話


 ドラゴンが持つのは魔法無力化能力。

 それはほぼ間違い無い。


 今大量にかき集めている魔力をどう使っても、そのままぶつけたところで無意味だ。

 だが、あの能力には大きな弱点がある。

 それは効果範囲!


 あれだけの強力な能力だ。辺り一帯を埋め尽くすようなものでは無い。

 それが証拠に、補助魔法などには一切影響が無いようだ。


 ならば!

 俺はかき集めた魔力を、土魔法の基礎魔術式へ流し込む。

 魔法は万能だ。やろうと思えば、あらゆる自然現象を起こすことも可能だろう。

 だが、それはあまりにも無駄がある。

 だからこそ、固定の魔法が存在し、それに特化した魔術式があるのだ。


 今俺がやっているのは、土を操る魔法の発動だ。

 だが、固有の魔法としては存在していない。

 だから土魔法の基礎のみ構築し、後は全てぶっつけ本番で魔力を操作する。

 脳が焼き切れそうだった。


「クソが! 土砂が来るぞ!」


 ドラゴンが振り上げたのは、もちろん前足だ。

 直撃する距離では無いが、奴の狙いは……。


「ぬおおおおお!」

「頼むぞ! モーダ!」


 俺を守るように盾を構えて真っ正面から噴き上がる土砂を受けるモーダ。


「ぐあああああ!」


 全ての土石を防いだと思ったが、最後に飛んできた大岩に耐えきれず、二転三転して吹っ飛ばされた。


「モーダさん!」

「ベップは来るな! 回復は俺がやる! あのトカゲ野郎、完全にクラフトに目を付けやがったな!」


 左右からの攻撃を完全に無視して、その図体を前に。つまり俺達に向けて進めるドラゴン。


「畜生! こっち向きやがれ!」

「ミスリル矢だ! ミスリル矢と剣技を放て!」


 左右の冒険者達が必死で攻撃するも、一顧だにしない。

 そしてとうとうドラゴンがその四肢の爪を、大地に深く沈めた。


「来るぞ! ブレスだ! 死んでも防ぐぞ! モーダ!」

「うおおおおおおおおお!!!」


 大盾を構えるモーダの後ろにレイドックとペルシアが潜り込み、二人がかりでモーダの身体を支える。

 さらに二人はヒールポーションの入った水袋を手にしていた。


「”耐火付与”!! ”耐熱付与”!!」

「”土隆盾”!!」


 ベップが補助魔法を、バーダックが小型の土壁を生む魔法を唱えた。

 直後、世界が真っ白に染まった。

 ブレスが俺達を包み込んだのだ。


「うおおおおおおおおおお!!!」

「耐えろ! モーダ!」


 土壁を支えるように盾を突き出すモーダ。

 しかし、俺の上位土魔法を使って、辛うじて抑えられる凶悪なブレスだ。

 バーダックの放った土壁は見る間に削りきられる。


 だが、土壁とモーダが生んだ、ブレスの死角が俺達を辛うじて守ってくれた。

 熱風が肌を焼き、全身に耐えがたい痛みが走るが、奥歯が砕けるほど噛みしめ耐える。


「モーダ!」

「クラフトさん!」


 神官のベップが自らの怪我を無視して俺にヒールポーションをぶっ掛けてくれる。

 レイドックとペルシアも、モーダにヒールポーションを湯水のようにぶちまけて、さらにモーダの身体を気合いで支えた。


 満身創痍。

 だが!

 耐えた! 耐えきって見せたぞこの野郎!


 俺達が耐えきったのには理由があった。

 明らかに、最初と比べてブレスの威力が落ちていたのだ。

 今までの攻撃は無駄では無かったのだ。ドラゴンといえど疲労はあったのだ!


 ドラゴンがブレスを吐ききり、ブスブスと牙の間から音を漏らす。

 その表情は明らかに怒り猛っていた。

 怒りに任せ、ドラゴンはもう一度ブレスを吐く態勢になった。


 だが! 遅い!

 トカゲ野郎は気がついていなかった。その巨大な頭がすっぽりと不自然に陰っていることに。


 仲間達が決死の防御と、攻撃をおこなってくれたおかげで、トカゲ野郎は気がつかなかったのだ。

 俺が魔力でかき集めた石で作った巨大な岩の塊が、その頭上へと移動していたことに。


 ズドスン!


 大地を揺るがす轟音と共に、ドラゴンの頭へと巨大な岩の塊が落下する。


 グギャアアアアアアア!?


 巨大な岩の質量に不意打ちされたことで、さしものドラゴンと言えど、頭を地に着けるしか無かった。

 魔力が無効化されるなら、物理で殴れば良い!!


「もらった!!!」


 飛び出したのは、もちろんペルシアだった。

 巨大なドラゴンの頭を駆け上り、一気に大木のような角へと迫る。


「喰らえ!! 旋風鳳斬! 轟撃襲斬!! 一輝一閃!!! 無影連撃!!!!」


 恐ろしい威力の技を繋ぎ目無しでコンボとして叩き込む。

 しかし相手は世界最強のドラゴンであり、目標はその角だ。

 一度の猛攻で破壊出来るのか!?


 だが、俺のそんな心配は空回りする事になる。

 世界最硬の物質の一つである、ドラゴンの角が、見事に、叩き折られたのだ。いや、その切り口は見事に鏡のごとく輝いていた。


「な!?」


 俺は思わず声を上げてしまった。

 硬ミスリルとシャープネスオイル。それにペルシアの技が合わさると、あそこまで壊滅的な威力になるのか!!


「チャンスだ! 全員ありったけの攻撃を叩きつけろ! 前衛も突っ込め! 誤爆を恐れるな!」

「「「うをををおおおおおおおおお!!!!!!」」」


 ペルシアに負けじとレイドックも突っ込み、ありったけの技を叩き込む。

 左右からありったけの爆弾矢が飛び、さらに前衛達が決死の覚悟で突っ込んでいった。


 ドラゴンの身体中で連続して爆発が起きる。たまに前衛が巻き込まれすっ飛ばされていたが、死んでいなければ良いとばかりに、全員がありったけの攻撃を叩き込んでいく。


 荒れ狂ったドラゴンの前足に吹っ飛ばされて、ペルシアが吹っ飛ばされる。

 全身から血を吹き出しながら地面をバウンドしていく。


「ペルシア!!!」

「か……構うな! とどめを……刺せ!!!」


 俺は一度奥歯を噛みしめた後、マナポーションを飲み干す。

 一瞬、土壁の為に攻撃を控えるかとも考えたが、今こそが攻める時だと、杖を掲げた。


「死ね! このトカゲ野郎が! ”雷神の稲妻槌落檄”!!!!」


 俺が持ちうる最凶の魔法の一つ。特大の電撃魔法を放った。

 辺り一面を真っ白にするほどの強力な稲妻が、天空からドラゴンの身体を穿つ。

 身体中の傷から入り込んだ稲妻が、ドラゴンの内臓を直接焼いた。


 ギャアアアアアアアゴオオオオオオオオオオオオォ!!!!!


 天に届くその悲鳴は、正しく、ドラゴンの断末魔であった。

 その巨体がゆっくりと傾き、どうと倒れ、地面を揺らす。


 しばらく、冒険者達は動けなかった。

 そして、ゆっくりと理解した。

 俺達は勝ったのだと。


「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」


 それは魂の雄叫びだった。


 伝説のドラゴンを相手に死者はゼロ。

 まさに奇蹟だった。


 いつまでも、いつまでも、勝利の勝ち鬨が響き渡っていた。


 ◆


「それで、アンブロシアの花は残さず摘んで良いんだな?」

「ああ。何度も鑑定したが、この花はドラゴンがいなければ育つことは無い。残していてもいずれ枯れる」

「そうか……この地で育てられたら良かったんだがな」

「どうして伝説の植物と言われていたのか理解したよ」

「なに。踏みつぶされてない花は多い。必要な分には足りるんじゃないか?」

「たぶんな」

「それでドラゴンの素材だが……」

「契約通り、皮と肉と鱗は冒険者ギルドの物だ。その他は全てカイルに渡す」

「了解だ。今、必死で解体してるから、収納は頼むぞ」

「ああ。……だがこんなでかいもん、収納できるのか?」

「お前にわからんことが俺にわかるかよ……」

「そりゃそうだ。入りきらなかったら、冒険者にここを見張ってもらって往復するしかないな」

「そうだな」


 冒険者ギルドとの取り決めは、あらかじめ渡した報酬と、ドラゴンの肉と皮。それと鱗を渡すことになっている。

 ギルドはそれらで得た利益、または等価値の素材を、参加した冒険者に分けるのだ。

 そういう手続きは面倒なので全部ぶん投げたのだ。

 ちなみに冒険者ギルドに加入していない、俺とジタロー、それにペルシアもちゃんと報酬をもらえる事になっている。


「うをおおおおおおおお!! すげぇ! これを見ろ!!」


 解体作業をしていた冒険者が叫んだ。

 そいつが空高くに掲げていたのは、人間の身体ほどもある巨大な魔石だった。


「こいつぁ……カイルにいい土産が出来たな」

「むしろトラブルの元になるんじゃないか?」


 ……レイドック。お前までフラグを立てに来るのかよ。


 こうして、俺達のドラゴン退治は見事に成功を収めたのだった。


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